第20話:帰りを待つひと
みなさま、お待たせいたしました!
本邦初公開、堀辺由太の住まいを紹介しましょう!
俺が帰宅したのは、"家"と呼ぶには大仰な、枝と葉でできたゴミ置き場だった。
いや、ゴミ置き場は言い過ぎか?
「ただいま~、エリーゼ。」
エリーゼはスライムなので、基本的には野外で生活している。
そのため、この居住環境は彼女のスタンダードなのだ。
ー さすがに、もう寝てるかな?
なんだかんだ、かなり遅い時間になってしまった。
水浴びは明日するとして、さすがに腹が減ったな。
何か買っておけばよかった。
「あ、由太さん。お帰りなさい」
「エリーゼ、まだ起きてたのか?」
「由太さんのこと待ってました」
100点です。50点満点中の100点です。
母さん。僕に彼女ができました。
(できてない)
「これ、食べますか?」
見ると、エリーゼは何やら抱えている。
その腕の中には、沢山の魚がいた。
文字通り、腕の中にである。
彼女は器用に変身して、腕をバケツのようにしているのだ。
「エリーゼが捕まえてきたのか?」
「はい。初めてでしたが、たくさん取れて良かったです」
「エリーゼはご飯食べなくても大丈夫だろ?」
ここで、スライム娘の生態について少し共有しよう。
スライム娘は基本的に食事を必要としない。
正確には、何でも消化できるので、その辺の草でも食べとけば大丈夫だ。
ただ、味覚がないわけではない。
俺が村で買ってきた串焼きを食べた時には、とても喜んでいた。
「せっかくだし、由太さんと一緒に同じもの食べようかなって」
100点です。10点満点中の100点です。
母さん。ついに僕に奥さんができました。
(できてない)
「ありがとう、エリーゼ」
「いえいえ」
「じゃあ、さっそく食べよう!」
「そうですね。でも、その前に」
「その前になんだ?」
「何か言うことは、ありませんか?」
言うこと?何だろうか?
感謝の言葉が足りなかったのか?
「ありがとう。とても感謝している」
「はい。それで?」
「それでとは?」
「私は、ずっと待っていました」
「はい」
「なんで待っていたか、分かりますか?」
「えっと、いや…」
俺は頭を捻った。はて、待たせる理由は何かあっただろうか?
『今晩、報告会をするぞ!』
「あ」
「報告会するって、言ってましたよね?」
「はい」
「帰ってくるの、遅くないですか?」
「あの...」
「仕事を頑張るのは良いんです」
エリーゼは真剣な眼差しを向ける。
そして、震える声で、こう続けた。
「でも、一人が頑張るはダメなんです」
「…」
「さあ、言うべき言葉はなんですか?」
「ごめんなさい…」
「よくできました!」
1点です。100点満点中の1点です。
母さん。僕は夫としてまだまだのようです。
(夫ではない)
ーー
叱られたあと、俺が魚を捌いて焚火で焼いた。
エリーゼは、終始どこか嬉しそうだった。
「これ、美味しいですね!」
「塩があれば、もっと美味いんだけどな」
「塩って、ピンクの石ですよね?」
「岩塩があるのか?」
「はい!たぶん!」
多分とは何だろうか?
エリーゼは、どこか借りてきたような知識がある。
恐らく、人々の話を横から聞いて覚えたのだろう。
「岩塩は、この辺りに落ちてないか?」
「どうなんでしょう?見たことはないです」
「海があればいいんだけどな」
「海ならありますよ」
「え?海があるのか?」
「ずっと南の方に行くと、海があるらしいです」
エリーゼの話が本当なら、この世界には海があるらしい。
そこはどんなビーチなのだろうか?
ヌーディスト・ビーチだったら嬉しいな。
そうこうしているうちに、食事が終わって腹も満たされた。
さて、もう眠いし、今日はお寝んねしよう。
「で、今日はどこで何をしていたんですか?」
「…」
エリーゼは、今日は寝かせてくれないらしい。
まったく、求められる男は辛いぜ。
「私は、ローションを20本作りました!」
でたな、これが「私やりましたよ?」である。
優秀なやつが無自覚に弱者を踏みにじる、あれだ。
いや、それは俺の被害妄想か。
「俺は今日は、高級風俗店に行っていた」
「ふーん」
エリーゼから表情が消えた。
ヤバい、言葉選びを間違えた。
「稼ぎの良い風俗嬢に聞き込みをしてたんだ」
「なーんだ。そういうことですね」
「あたりまえじゃないか~」
「一緒に作ったローションの売上で、女の子遊びに行ったのかと思っちゃいました!私のことは買わなかったのに!でも、由太さんが、そんなことするはずないですよね!」
エリーゼは、今日一番の笑顔である。
いや、これ、笑顔で合ってる?
お母さん。やっぱり僕には所帯ができたようです。
死ぬ前に見せたかったな。死んだの俺だけど。
そして、皆々様には悲しいお知らせになる。
俺の異世界風俗ライフは、当面の間はお預けになってしまった。
だが、安心して欲しい。
いつか、番外編として「異世界ワンダフルライフ(仮)」を執筆することを約束しよう。
今はまだ、このニコニコと笑顔を浮かべるスライム娘との話に、お付き合いいただきたい。
「で、どんな話が聞けたんですか?」
- まったく。エリーゼは本当によく笑うようになったな




