第04話「タイムリミット01:30」
「さあ、どうしますか? このままみんなで仲良くここで死ぬのか、それとも、生き延びるのか? ――すべては貴女の選択にかかっているのですよ、シーレス」
「あっ……あたしは……っ……」
戦時下の薄暗い高級士官の寝室で、シーレスは自分たちの運命を、そしてその「心と肉体」を大きく分ける絶業的な選択を迫られていた。
フェニス中尉からの執拗な、しかし逃げ場を完全に塞ぐ冷徹な問いかけが頭上で繰り返される。
(どうしよう……でも、でもあたしさえ、これを受け入れれば……みんなが……っ)
「おや、どうしました?」
ドオォォォン、と再び艦底を震わせる重低音が響く。
カリス軍のレガシアが放つ索敵の余波が、この隔離された寝室の壁を不穏に軋ませていた。
「もう残り時間が少ないようですな……。なに、わたしも貴女の初めての男になるんです。痛みを感じないようにして差し上げないとね。丹念に、じっくりと……」
「…………」
脳裏を過るのは、怯え、傷つきながら自分を信じて待っているユルグやサイル、そしてユイシスとセリムの姿だった。
シーレスの 琥珀色の表情に深い影がこもり、彼女はただ俯きながら、掠れた声を絞り出した。
「……わかりました……」
「う~~~ん? よく聞こえませんなあ?」
「くっ……!」
フェニスは屈辱に震える彼女の顎を指先で掬い上げ、楽しむようにその目を覗き込んだ。
「さあ、もう子供じゃないんだ。みんなの命を救うために、わたしにどうしてほしいか、ちゃんと言ってごらんなさい」
「……わた、しの……」
「う~~~ん?」
「わたしの初めてを奪ってください……、お願いします……っ……」
「はっ、はっ、はっ! よくぞ決断なされた。もう後戻りはできませんぞ!?」
「わかっています……! もう時間がないんでしょう!? 早く、早く済ませて……!」
「まあまあ、そんなに急き立てないでください。まだサイアスの最終調整が整うまで、優に一時間三十分はある。せっかく貴女の同意の元に、女としての初めてを味わわせていただくのです。お約束通り、一時間たっぷり時間をかけて、じっくりと優しくして差し上げますよ……」
「くっ……」
フェニスはそう言うなり、シーレスの細い身体を強引に抱き寄せ、その唇を奪った。
(あたしのファーストキス……本当は、ユルグのためにとっておきたかったのに……っ!)
「おやあ、まさか口づけすら初めてだったとは。とんだ箱入り娘ですなあ。これから、もっとすごいことをするというのに……」
「うう……っ」
「さあ、こっちへ来るのです!」
フェニスはシーレスの手を引き寄せ、抵抗する力を奪うように強引に抱え上げると、豪華な士官用ベッドへと容赦なく押し倒した。
男の手が、シーレスの衣服のボタンへ、そして開いた胸元へと迷いなく伸びていく。
初めて大人の男の前で、無防備な裸体へと変えられていく自分の肢体を視界に入れまいとして、シーレスは激しい羞恥のなかで強く目を瞑った。
「それでは、これから楽しい宴の始まりです。一生記憶に残るようにして差し上げますよ」
フェニスは言うなりシーレスに覆いかぶさり、遮るもののなくなった彼女の素肌を手のひらで執拗に愛撫していった。
「ああ……っ」
初めて触れられる大人の男の指先、その圧倒的な皮膚の違和感に、シーレスの頭の中は激しく混乱していく。
しかし、フェニスの手によって文字通りいいように翻弄され、身体の芯を冷酷に開発されていくうちに、シーレスの肉体はすっかり男を受け入れる準備の状態へと変えられてしまっていた。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「力を抜きなさい」
「――っ!」
シーレスの中で、張り詰めていた何かが決定的に弾けた。
大好きな人といつか結婚して、その初夜を迎えるために大切に守り続けていたものが、いま、目の前の冷酷な男の暴力によって無残に突き破られたのだ。
「くうっ……あ、あう……っ!」
烈しい痛みがシーレスの下腹部を襲う。
そして、そんな彼女の痛痛しい拒絶をあざ笑うかのように、フェニスは彼女に覆いかぶさったまま、ゆっくりとその重い圧を彼女の最奥へと押し当てていった。
そうして蹂躙されているうちに、痛みを覆い隠すような、人生で初めて訪れる悦びの波がシーレスの脳髄を激しく襲い始めた。
「あっ……あれ? こっ、これって……!?」
フェニスはさらに深く圧を込める。
シーレスが初めてということもあり、これからの操縦(同調)のためにこの行為が嫌にならないよう、男は彼女の身体の隅々を冷徹に、かつ丁寧に開発し、進めていた。
「ああっ、あん……っ!」
初めて訪れる快感の濁流に、シーレスの頭の中は完全に真っ白になり、その細い指先は、薄暗い部屋の天井に向かって何かを求めるように虚しく伸ばされるしかなかった。
「まだ三十分以上ありますな。時間いっぱい、じっくりと隅々まで貴女を味あわせていただきますよ」
「ああ、ああ、ああっ……!」
それから、三十分後。
ギィっ、と重々しい油圧の音を立てて、高級士官室の重い扉が開いた。
中から出てきたシーレスの姿は、あまりにも無惨に変貌していた。
漆黒の髪はボサボサに乱れ、衣服は乱雑に着崩され、その頬は異様に紅潮している。
まだ呼吸は激しく荒いまま、その瞳の焦点は定まらず、頭はぼーっと白濁した余熱に支配されていた。
「なかなか良かったですぞ、シーレス」
「く……っ……」
「あんなに嫌がっていた貴女も、途中からは生を求めて必死にわたしにしがみつき、わたしに呼応するように、もっと奥を求めて腰を揺らして来て……また終わった後も更にわたしに……くくく、可愛かったですぞ……」
「……それ以上は、やめてください……!」
「まあ、なんにせよ、これで貴女もわたしも引き返せなくなったわけですな。サイアスシリーズの真の力を発揮して操縦を続けるには、これからも定期的にこうして身を汚していかないといけないということは、ご存知でしょう?」
「…………」
「つい先ほどまで処女だった貴女のことだ。今更そのために、その都度、どこの馬の骨とも知れない別の男を求めるわけにはいかない。――つまり、貴女はこれからも、このわたしを求めるしかないわけだ。すなわち、あなたは【もうわたしの女】というわけだ。この意味、解るな、シーレス?」
「…………はい」
「そうして、先ほどのように素直に甘えてくれば、わたしも存分にかわいがって差し上げますよ」
「……失礼、します……っ」
「わかっていると思いますが、サイアスの格納されているカタパルトは、ここから東へ向かう通路の突き当りです。せいぜい、このことがお友達にバレないようにするんですな」
「…………」
シーレスはフェニスの部屋から、逃げるように這い出て行った。
その後ろ姿を見送りながら、フェニスは寝室の闇のなかで、獲物を完全に仕留めた笑みを浮かべた。
(まあ、あんな身体になってしまっては、もう隠しようがないがな。それに……もう【女の快楽】を知ってしまったんだ。肉体が一度おぼえた渇きからは、もう二度と後戻りは出来んさ。ふふふ……)
しかし、高級士官の寝室から、サイアスの収納されているカタパルトへと向かうには、ユルグやサイルの避難している臨時の居住区画の前を通らなければならなかった。
「あっ、シーレス!」
「ちょっと、いったいどうしたのよ、その格好……!?」
「…………」
通路の暗がりに佇んでいた幼馴染の二人が、彼女の姿を見咎めて一斉に駆け寄ってくる。
衣服の乱れ、漂う異質な匂い、そして何よりもその妖艶に熟しかけた彼女の佇まいに、二人は息を呑んだ。
「大丈夫か……? 何かあったんだろ!?」
「シーレス?」
「……ううん、何でもない。二人とも、心配してくれてありがとう」
二人はシーレスの尋常ではない違和感に本能的に気づくものの、それが今さっき「上官のベッドで女にされた」ということであるとは、うぶな十代の彼らにはすぐには分からなかった。
「それじゃ、あたし、行かなきゃ……」
「シーレス!」
「いったい、どうしちまったんだよ!?」
心配して手を伸ばしてくる二人を、冷酷に振り切るようにして、シーレスはその場から激しく走り去った。
向かう先は、サイアスが待つ暗い格納庫だ。
「くっ……う、あ……っ……」
初めての行為の直後、突き破られた下腹部にはまだ生々しい激痛が走り、内股に走る不快な熱のせいで、まともに走ることすらままならない。
しかし、今はそんな痛みに立ち止まっている暇など、地獄は与えてくれなかった。
「いいんだ……。これで、みんなが助かるなら、あたしは……!」
痛みを堪えながら走るシーレスの胸元で、セレス王家の紋章が入ったペンダントの光が、彼女の激しい心拍と肉体の変化(乙女の喪失)に呼応するように、異様なほど烈しく輝きを増していく。
「サイアス……この先に、あなたがいるのね……」
シーレスの混濁する脳裏に、かつて兄シルクと義姉アレサに連れられて遠くから見つめたことがある、あの銀色の機動兵器のおぼろげな輪郭が思い浮かぶ。
「あたしは……、あたしはもう、あの日には引き返せない――!」
やがて、重苦しい油圧の音の向こうに、特殊戦艦『アイアース』の暗いカタパルトの全貌が見えてきた。
タイムリミットまで、あと三十分だった。
(第04話「タイムリミット01:30」おわり / 第05話へ続く)
メインヒロインのひとりシーレスが歌う、「シークレットALPHA」の挿入歌です
『果てなき暗礁』
架空アニメ 「シークレットALPHA」 挿入歌
歌:シーレス
https://suno.com/s/A6C7VMxpSw8pkQcT




