↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第02話「災厄の後」

挿絵(By みてみん)


「はあっ、はあっ……!」


手元にある小型コンピュータ端末「サイフォン(PSY-PHON)」の冷淡な電子誘導に従いながら、シーレスたち五人は、命からがら強固な隔離壁の向こう――政府要人専用のコアシェルターの中へと滑り込むことができた。


しかし、激しい呼吸を整える暇もなく、彼女たちの目の前には剥き出しの絶望が広がっていた。


「こちらのブロックはもうダメだ!」


「指揮系統がズタズタです! 政府中枢と連絡がまったく取れません!」


「くそっ! いったいどうすれば……!?」


シェルターの奥、臨時の指揮所に陣取る軍人たちの怒号が飛び交う。


焦熱と硝煙の重苦しい空気が満ちる中、一人の将校がデスクを叩いた。


「旗艦サイレスはどうだ!?」


「直撃は免れたようですが、回線に混乱が既に機能していないようで、まったく連絡が取れません!」


「いま動ける艦はどれだけある!?」


「特殊戦艦『アイアース』のみです!」


「何だと!? それじゃあ、ここにいる全員がやっと乗艦できるかどうかじゃないか!」


「はっ、はい! どうやらここも敵に察知されたようで、カリス軍の先行部隊がどんどん接近してきています!」


「くそっ、こんな時にシルク元首とアレサ様と連絡が取れないとは……!」


目の前のあまりに凄惨な現実に、ユルグはシーレスの袖を引いて声を震わせた。


「シーレス……こっ、これは……」


「どうやら、ここもダメみたいね……。って、あの人は確か……」


混乱の最中、シーレスの琥珀色の瞳が一人の若き将校を捉えた。


隣でサイルが不安げに周囲を見回しながら、小さく吐息を漏らす。


「でも、他に行く当てもないんでしょう?」


その背後、シーレスが救い出した負傷した少年は、痛む身体を酷く冷めた目で見つめていた。すがるように見上げてくる妹の細い肩を引き寄せる。


「お兄様……」


「大丈夫だ、きっと何とかなる」


「でも……」


周囲の喧騒に紛れさせるように、少年は妹の耳元で、かすかに掠れた声で囁いた。


「――カリス神を信じるのだ」


「はっ……はい」


「どうしたの?」


ふと振り返ったサイルの視線に、少女は酷く怯えた表情で首を振った。


「いっ、いえ! 何でもありません!」


「そう……?」


「そんなことより」


ユルグが促すよりも早く、シーレスは一人、軍人たちの中央で鋭い大声を上げているその将校へと真っ直ぐ近づいて行った。


「あっ……あの、すみません!」


「何だ! なぜこんなところに民間人が紛れ込んでいる!? ――って、あっ、あなたは!?」


振り返った男の鋭い眼光が、シーレスの顔を認めた瞬間に驚愕へと見開かれる。


「お久しぶりです。フェニス・アクウェル中尉」


「おおっ、シルク元帥の妹君のシーレス様……! ご無事でしたか!」


「はい、何とか……」


「しかし、どうやってここへ?」


「兄夫婦から、ここへのシークレットキーをもらっていて。それで……」


「そうか、元帥たちから直接……」


フェニスが納得の声を漏らしたその瞬間、彼のサイフォンに、脳内へと直接響くような緊急の軍事暗号通信が飛び込んできた。


『フェニス中尉!』


「何だ!」


『いま入った最新情報です! シルク元帥は敵軍の第一波による奇襲の際、大破した旗艦サイレスからやむを得ず自ら出撃し――戦死されたとのこと!』


「何だと……!?」


『さらにアレサ様は、その際に元帥が駆られた新型機動兵器と共に、現在生死不明です!』


「新型機動兵器……!? サイアスシリーズがすでに完成していたのか!?」


『はっ、はい……!』


「何ということだ。よりによって、アレサ様まで……」


信じがたい悲報に、フェニスの顔が歪む。その横顔へ、シーレスはたまらず声をかけた。


「あっ、あの……どうかしたんですか?」


「ああ……いや、失礼した」


ハッと我に返ったフェニスは、目の前に佇むシーレスを見つめ直した。


(もはや、軍の指揮系統はグダグダ。おまけに頼みの旗艦サイレスまで失ったか……。いや、待てよ? こういった泥沼の極限状態だからこそ、軍には民衆を、兵を繋ぎ止める『象徴』が必要だ。それを、この元帥の妹――いや、この惑星セレスの王家の王女である彼女に担わせればどうなる? 実際に戦力になるかは分からんが、とにかく手元において飼い慣らしておけば、きっと何かの役に立つはずだ。幸い、彼女の顔を直に知る者は、このわたしを含めて軍部でもごくわずか……。これは使えるな)


男の胸の奥で、ドス黒い出世欲と支配欲の計算が瞬時に弾き出されていく。


「フェニス中尉?」


「――いやいや、お待たせして申し訳ない」


男は口元にニヤリと不気味な笑みを浮かべ、何事もなかったかのようにシーレスに向き直った。


「あたしたち五人を、無事にあの戦艦に乗せてもらえませんか?」


「うん? ああ、それはもちろん構いませんとも。特殊戦艦『アイアース』が何とか無事です。限界ギリギリの収容になりますが、みなさん全員を載せることはできるでしょう。それで、みなさんのお名前は?」


「ありがとうございます! まず、この二人があたしの友人のユルグとサイルです」


「ど、どうも……」


「お世話になりま~す!」


「ふむ、お二人はシーレス様のご学友ですな。わたしのサイフォンで市民データの確認が取れました。で……そちらの怪我をされているお二人は?」


問いかけられた瞬間、シーレスの言葉がピタリと止まった。


「はい、そして……、」


「どうしました?」


ユルグの背中に冷たい汗が流れ、サイルもまた(そういえば、あの二人の名前、まだ聞いてないじゃん……)と内心で焦りを浮かべる。怪訝そうに眉をひそめるフェニス。


「どうしました?」


少年は黙秘を貫くように唇を噛み締め、妹はその兄の服を固く握りしめた。


「お兄様……」


「大丈夫だ。……ユイシスと」


「セリム、です……」


その二つの名が静かに響いた瞬間、フェニスの顔色が一変した。


「ほう……って、ユイシスとセリム!?!? ――カリス王家の若君と、姫君の名と同じようだが……!」


「ええっ!?」


「マジかよ!?」


サイルとユルグが絶叫し、指揮所内に戦慄が走る。フェニスが本能的に腰のホルスターに手をかけたその時、シーレスがその前に立ちはだかった。


「……ちょっと待ってください!」


「離れてください、シーレス様! この二人は敵軍であるカリスの王子と王女かもしれないのですぞ!」


「いいから、あたしの話を聞いてください! こんな戦火のど真ん中に、敵軍のカリスの王子と王女がのこのこ潜入していて、しかも疑われている状況でわざわざ実名を名乗るとお思いですか!?」


「むうっ……言われてみれば……」


「とにかく、早く二人も艦に載せてください! 大怪我をしているんです!」


「……わかりました。国家元首代理の、シーレス王女。あなたがそうまで言われるのであれば、われわれ軍人はその裁定に従うのみです」


フェニスは周囲の兵士たちを呼び寄せ、シーレスの素性を知るごく一部の直属の部下たちだけに、五人の収容を急がせるよう耳打ちした。


「うっ……!」


「お兄様っ!」


その緊張が解けた瞬間、ユイシスが激しく吐血し、セリムの悲鳴がシェルターの通路に木霊した。


「早くして!」


「はい、もう大丈夫です。みなさんを収容する準備が出来ました。どうぞお乗りください。もちろん、そちらの怪我をされているお二人には、至急医務室をご案内させます」


「ふうっ……」


「よかった……」


ユルグとサイルが安堵の息を漏らす中、五人は激しい振動を続ける特殊戦艦『アイアース』のタラップを駆け上がり、乗艦を果たした。


格納庫の喧騒の中、戦艦の重圧なハッチが閉まろうとしたその時、フェニスが背後から静かにシーレスへと近づき、耳元で小声の、しかし酷く冷たい声をかけた。


「シーレス様」


「……?」


「――今回のことは、大きな『借り』にしておきますぞ」


「!」


フェニス中尉は、獲物を罠にハメたような笑みをその口元に浮かべると、シーレスに反論の余隙すら与えず、特殊戦艦『アイアース』のほの暗い奥通路へと消えて行った。


(第02話「災厄の後」おわり / 第03話へ続く)

メインヒロインのひとりシーレスが歌う、「シークレットALPHA」の挿入歌です


『白昼夢のステップ』


架空アニメ 「シークレットALPHA」 挿入歌


歌:シーレス


https://suno.com/s/5VoCSilt5uENHB6r 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。