79.消えた器
光冠の夜会が幕を開ける半刻ほど前――
セリオス神殿内の一角、元大神官カリオンの執務室。その奥に隠された秘密の扉を抜けた先――隠された空間に、レイナの声が激しく響いていた。
「……ない……! どうして……ここに隠したはずなのに……!」
焦燥に満ちた視線が、聖女像の台座の下を何度もなぞる。
そこには本来、帝国へと渡るための鍵となる銀色の珠“偽聖の器”が封じられているはずだった。
――計画の中枢。すべてを動かす最後のピース。
「あの珠が無ければ、全てが台無しになってしまうわ!」
レイナは床に膝をつき、石板をこじ開け、像を押しのけ、魔術具の陰を手当たり次第に探る。
だが、探せど探せど、器の姿はどこにもなかった。
一刻程、部屋中を探し回ったが、探し物は一向に見つからなかった。
部屋の中は、彼女の荒々しい動きによって荒れ果て、散らばった祈祷道具の破片が床を転がる。
紅いドレスの裾が塵にまみれても、レイナの目は怒りと焦りに燃えていた。
「……誰が……誰が持ち去ったの……!?」
その瞬間、彼女は立ち上がり、地下室から出て執務室の扉を乱暴に開くと、外に控えていた見張りへと詰め寄った。
「カリオンが投獄されてから、この部屋に入った者は誰!? 答えなさい!」
見張りの騎士は驚きに目を見開き、しばし口ごもった末、おそるおそる言った。
「い、以前……調査のために、神官長セト様と数名の神官と神殿騎士が、それと……数日前にユナ様が……」
「……ユナですって……! まさか、あの女が!? 忌々しい! どこまでもわたくしの邪魔をするのね!」
レイナの瞳に、怒りの光が燃え上がった。
ドレスの裾を翻し、彼女は一気に階段を駆け上がる。
いまや夜会の始まりを迎えた王城の大広間へ――
怒りと誇りに燃える王妃は、すべてを奪った相手を討つために向かっていた。




