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99.宴

 王城の大広間は、金と銀の旗で彩られ、燭台の炎が祝福の光を放っていた。

 五大神殿すべての結界石が再び輝きを取り戻し、ラーデンリア全土が守られることになった――その報告を祝う宴が、ロイゼル新国王のもとで盛大に催されている。


 長いテーブルには山盛りの料理と果実酒。王都の楽師たちが軽やかな曲を奏で、笑い声が天井の高みに弾んだ。

 新たに王位を譲り受けたロイゼルは、穏やかな笑みを浮かべ、各地から集まった来賓と歓談している。


 その一角で、マナとセトが並んで立っていた。

 マナが何かを耳打ちすると、セトは珍しく表情を崩し、小さく笑う。

 互いの視線がふと絡み、どちらからともなくグラスを掲げた。周囲の喧噪から切り離されたように、二人の間にだけ静かな時間が流れる。


 そんな様子を遠くから見届けたユナの元に、アルヴァンが歩み寄った。

 黒の礼装に身を包んだその姿は、かつて王座にあった威厳をそのまま残している。


 「……これで、本当に全てが終わったな」


 穏やかな口調の奥に、深い安堵が滲む。

 ユナが頷くと、アルヴァンは一歩近づき、その瞳を真っ直ぐに見つめた。


 「前に言ったこと……覚えているか?」


 低い声が、祝宴の喧噪の中でもはっきりと届く。


 「すべてが終わったら――君と共に生きていきたい、と」


 ユナの胸が、わずかに高鳴る。

 アルヴァンの視線は逸れず、まるでその言葉に一片の迷いもないと示すようだった。


 「今、改めて答えが欲しい」


 ユナはしばし彼を見つめ返し、ゆっくりと微笑んだ。


 「……アルヴァン。返事は――」


 その瞬間、ロイゼルが壇上から声を上げ、全員に乾杯を促す。

 ユナの言葉は一旦そこで途切れ、二人はグラスを掲げた。


 やがて、アルヴァンのもとへ来賓の一団が近づき、次々と挨拶を交わし始める。


 「少し席を外す。また後で話そう」


 短くそう告げ、アルヴァンは人々に囲まれながら別の卓へと向かっていった。


 その後もしばらく、周囲の人々が入れ替わり立ち替わり声をかけてきて、笑顔で応じる時間が続いた。

 宴は夜更けまで続き、人々の笑い声と音楽が大広間を満たしていく。


 ふと、外の空気が恋しくなり、ユナは席を立つ。

 夜風が熱を帯びた頬を撫で、花の香りが静かに漂った。

 遠くから聞こえる宴のざわめきが、次第に薄れていく。


 夜空には満天の星。澄んだ光が、戦いの終わりを祝福しているかのようだった。

 ――だが。


 胸の奥に、ほんの一粒の砂が落ちたような、ざらつきが走った。

 それはすぐに広がり、血流に乗って全身へと染みわたっていく。

 呼吸を整えようとしても、熱が皮膚の裏をゆっくりと這い、心臓を締めつけた。


 (……これは……)


 耳の奥で、かすかな脈動が響く。

 それは自分の鼓動ではなかった。

 

 背筋を冷たいものが這い上がる。

 胸の奥に、湿った布を押し当てられたような重さがまとわりつき、じっと離れない。

 呼吸が静かに深まり、視線が無意識に夜空の一点を捉える。


 星々の間を、淡い影が横切った気がした。

 それは、祝宴の光も、胸に芽生えた安堵も、音もなく呑み込んでいくようだった。

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