また猫に
テオに第三王宮に連れて来られると、アレンが不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「まだ宴は終わってないよね?どうしたの?」
「ノアがやらかした」
その一言で全て察したようで、アレンはエレノアを生温かい目で見てくる。
「いやいや、あれは不可抗力だから!!」
「エレノアは外に出すと何か起こしてくるね。どうしてかな…」
そんなの私が聞きたい
こちらはあえて近づいたわけではなく、真面目に召使の仕事をしてただけだ。正直、二人きりで会うのは流石に遠慮したい。実際とても恐ろしい目にあった。
「偽物の私と接触したわ。それで…」
とりあえずあらましを説明する。しっかり自分は無実だと主張するのも忘れない。
話すにつれてテオの顔は険しくなるし、アレンは頭を抱えだした。
「どうして逃げないの。すぐ近くに人混みがいるんだから逃げれたでしょ」
「今までずっと人のふりしてたし、まさかあんな事になるとは思わなかったの」
時間がないって言ってたのが関係あるのかしら?何だか切羽詰まってる様子だったわ
あと何か気になる事があったはずだが、思い出せない。何だっただろうか?
「けれど…夢の精霊か。聞いたことないな」
「王家は水の精霊は国の象徴にしてるわよね?もうひとり精霊がいるのだとしたら何故隠してるのかしら」
ずっと黙っていた見ていたテオが口を開いた。
「その偽物の言った事が本当なら精霊側から爪弾きされたんだろ?しかも人間側から見ても人間の身体を乗っ取る化け物じゃないか。表に出てこれるわけないだろ」
「そういえばなぜ身体を乗っ取る必要があるのかしら?精霊ってそういうものじゃないわよね」
この問いにはアレンが答えた。
「まだ王家と精霊の契約には僕たちの知らない何かがあるのかもしれない。獣人の階級も精霊側の要求した罰だとしたらそれも入っているのだろうね」
「……また礼服の男性に助けてもらったわ。だったらあの人も精霊なのかしら」
それを聞いて明らかにテオが眉間に皺を寄せた。
そして例のくそ怪しい奴かと毒づく。会った事もないのにその言いようはあんまりではないだろうか。
「怪しいけど少なくても害があるようには見えないのよね。最初からなんていうか…放浪してると言うか暇を持て余している様子だったわ。聞けば答えてくれるけれど何か目的にあるようには思えないわ」
「そもそもノアしか会ってないんだから信用できる要素はないよね?」
ちょっと
テオを睨んでいると、アレンから一枚の紙を渡された。
「?なにこれ、読めないんだけど」
「待ち合わせ?城外だな」
ひょいっと覗き込んだテオが簡単に読んだことに驚いた。何故読めるのか聞くと目を逸らされる。
「これ暗号なんだよね。機密事項を他人に読まれると困るだろう?テオは僕のお願いをよく聞いてもらってたから、いつの間にか読めるようになって驚いたよ」
「アレンとテオってやっぱり…」
「ノア、途中でやめないで」
待ち合わせと書かれた紙を見て不思議に思う。これをエレノアに見せたと言う事は関係がある事なのだろう。
「これは誰と待ち合わせなの?」
「セルジュ兄上だよ」
確か第二王子よね
連絡手段はあると言っていたが、さっそく行動に移してくれたみたいだ。流石アレン。
「城では会った事はない方よね?戻っては来られないの?」
「まあ、兄上も色々事情はあるんだろうね」
あまり言いたくないのかな?
「どんな方?」
この質問にアレンの動きがぴたりと止まった。どう言えばいいのか、考えあぐねているように見える。
「う~ん…、悪い方ではないよ。ちょっと実直というか、王子らしくないかもしれない。外での生活が長いからかもしれないけど、うん、悪い方ではないよ?」
なぜ二回言った?
つまり第一王子やアレンのような王子を想像すると、違いに驚くと言う事だろうか?確かに二人とも何をしてもどこか上品で育ちが出ていると言える。
「私もお会いできるかしら?」
「僕は行けないから、基本テオとエレノアに任せようと思う。僕が信頼している者で二人以上の適任はいないよ」
「でも一応王族なのよね?アレンがいないのに何か失礼があったらどうしよう…?」
そんなに気にするような方ではないけど、とアレンが水色の手鏡を渡してくれる。これなら短時間なら自分も話せるからとリハルに何か頼んでいた。また酷使するつもりですかと恨みがましい声が聞こえた。
「じゃあ、後は…あれ?テオは?」
今までいたよね?
当りを見回したがやはりいない。どこ行ったのだろうと思っていたら、扉をあけて入って来た。しかもなぜか魔術師の胸倉をつかんでいる。
「師匠…!?」
驚く間もなくテオが何か小瓶に入った液体のようなものを差し出してくる。
「ノア、飲んで」
「え、なになになに!?」
状況が呑み込めず嫌々と首を振ると、テオが困ったような顔をする。どうみても魔術師の作った薬に違いない。そんな怪しいものを飲めと言う。
「俺がノアに危険なものを渡すはずないだろ?」
「テオは信じてるけど師匠の薬は不味いから、必要以上に飲みたくないの。大体何の薬かもわからないじゃない!?」
魔術師が小声で失礼ですねと言ったのは聞き流した。
そして小瓶を凝視したテオが、躊躇なく少し中身を味見する。
「ほら、大丈夫だろ?」
子供じゃないんだから
そんなのに騙されないと断固として首を振ると、そのままテオが薬を飲み干したと思ったらエレノアに口移ししてきた。
「~~!?」
思わず飲み込むと、覚えのある感覚と同時に視界が真っ暗になった。そして自分の服が覆いかぶさっているのだと気付く。
ええ?!
まだ薬の切れる時期ではないのに、猫の姿になっている。驚いてテオを見るとよしと頷いている。よしじゃない。
「第二王子との面会までその姿でいて。危ないから部屋から出たらダメだよ?」
ちょっと!何てことするの!?酷いと思わない?アレン!
「……だそうですよ?」
猫の姿になったので人語は話せない。この場で唯一会話が通じる魔術師が通訳してくれる。アレンが険しい表情でテオに言葉を発した。
「……口移しする必要なかったんじゃない?飲み物にでも混ぜてもよかったよね?」
そこじゃなーい!
にゃーにゃー言ってるエレノアを余所に、なぜか猫に戻された事に対しては二人とも何も言わない。
「えーと、多分勝手に猫の姿に戻された事に腹を立てているんだと思うんですけど」
魔術師が一番言いたいことを代弁してくれて、思わずしっぽをぺしぺしする。
「ノアは口で言っても無駄だからね。その姿で大人しくしてもらった方が安心だから」
「まあ、仕方ないかな。偽物が正体を話したと言う事はエレノアを狙う可能性もあるからね」
だからってこれはないよ
人間なのにいつまで猫の姿でいればいいのか。
こういう時だけ意見を一致させる男共が恨めしかった。




