第一王子の宮
しばらくして、エレノアが怪しい薬を持ってこそこそしていたのはすぐテオにバレた。
自分に隠し事は向いてないとほとほと思う。
「早く白状した方がいいよ?ノアは嘘をつく才能はないんだから」
そしてこれだ。過保護な弟にはいつだって勝てないので、結局エレノアは話す事にした。
「実は…」
話しを聞いたテオは呆れたような顔をしながらため息を吐いた。それを一人で行動する気だったのは無謀過ぎると顔に書いてある。
「はあ、ノアはそんな事する必要ないよ。俺は第三王子の従者として一緒に行くから探ろうと思ってた」
「テオも…?でも、私も行くわ。あの面倒くさがりの師匠がわざわざ言ってきたんだもの」
「ねえ、俺はその師匠をよく知らないけどそんなに信用できる人物なの?その薬だって飲んでも身体に影響はないってものでもないでしょ?飲まない方がいいよ」
まあ、確かに薬に関しては怪しくはあるけど
「私もそんなに長い付き合いじゃないから信用と言われたらわからないけど、師匠には借りがあるって言ったらわかりやすいかも。そうそう何かを頼む人じゃないから…。個人的に気になるのもあるけど」
「俺がやめろって言っても?」
「テオも行くんだから私にだめなんて言わないでしょ?」
ものすごく納得できない顔で睨んでくるが無視だ。ここで折れてしまったらまた自分だけ蚊帳の外になってしまう。とても安全で居心地はいいけれど、大事な時に何も出来ない存在にはなりたくない。
エレノアの態度に最初は明らかに不満そうだったテオが、なぜかふっと笑った。
「どうして笑うの?私は真剣に…」
「ああ、ごめん。別に馬鹿にしたわけじゃないよ、ただ最近は自己主張するようになったなって」
もしかしてアレンの婚約者時代の事を言っているのだろうか?確かにあの頃は無気力でテオの言う通り、何の主張もしてなかった気がする。
「心配なのは確かなんだけど、ノアがノアらしいのが嬉しいんだ」
それがどこか寂しそうにも見えて、エレノアは不思議だった。
結局テオが了承してくれて、当日協力してくれることになった。
そして意を決して見るからに不味そうな魔術師の作った薬と向き合っている。
よし…!
一気に飲んだ方が被害が少ないだろうと、勢いよく口に入れた。それは期待を裏切らない不味さで思わず吐き出しそうになるが、獣人の薬が金貨だと聞いたのを思い出した。
師匠の薬なんだからこれもバカ高いはずよね。うう…
無理やり口に入れて飲み干すとその場に膝をついた。第一王子の所に行く前に気力を使い果たしそうだ。ふわっと視界が暗くなったと思ったら何か布のようなもので包まれた。それが自分の着ていた服だと気付き、身体が動物化したのだと思った。鏡で見る自分の姿は子猫だった時よりも大分大きくなっていた。
これ、獣人の薬飲んだらちゃんと戻るのよね…?
そう聞いたがこんなに立て続けに不味い薬を飲んで大丈夫なのだろうか?あの魔術師の頭に薬の乱用は控えてくださいなんてものはない様な気がする。
しばらくしてテオがやって来た。扉を開けてエレノアを探しているが、見つからないらしくあたりを見回している。
「ノア…?どこにいるの?」
おお、ちゃんと効いてるっぽい
テオ!ここよ!
思わず話しかけたが、人間の姿ではないのでにゃーにゃーした声しか出せない。そういえば会話が出来なくなるんだったと今更気付いた。声を出すとテオの視線がぴたりとエレノアを捕らえた。
「あ、すごい。目の前にいるのに声を出すまでわからなかった。姿を消すというより気配を消すようなものなのか」
そうなの!ちゃんといるから踏んだりしないでね
「うん。気を付けるよ」
ほっとしながらテオを見上げると、ふと不思議な事に気付いた。
ん?なんで会話出来てるの?
エレノアはにゃごにゃごしか言ってないのに、テオは何故かノアの言ってる事ならなんとなくわかるで完結してしまった。そういうもの…?
「それより、エレノアがいないとアレンが不思議がってたから知り合いの召使に呼ばれていると言っといた。今のうちにいくぞ」
おっけー
王子の部屋に行くと車椅子に乗ったアレンが待っていた。リハルは第三王宮の守りに残していくらしい。少し緊張しているのか、顔が青白いのが心配だ。
大丈夫よ、アレン
声には出さずに心の中で言って、テオ達に付いて行った。
第一王宮に入ると、がらりと雰囲気が変わった。あまり装飾はなく、どちらかというと質素な感じがする。アレンの宮の方が豪華に見えるくらいだ。ただ、人は第三王宮よりも大分多いので、エレノアはぶつからないように歩く。
第一王子の部屋の扉を開けると、何か香のような匂いが充満していた。獣の姿のエレノアには鼻が曲がりそうなほど強く感じた。
うう…!なんなの、この匂い。ハーブ?
テオ達を見ると、そこまで気になるものではないらしく平然としている。一緒に中に入ると、先に人払いしていたのか第一王子と護衛しかいなかった。
「久しぶりだね、エスティ」
「兄上もお元気そうで何よりです」
ちらりと第一王子を見ると、ここまで近くで顔を見たのは初めてかもしれないと思った。以前はアレンに似ていると思っていたがよくよく見るとあまり似ていないかもしれない。母親似なのだろうか?
アレンは父親似よね?髪色もそうだし…
しかしどこか疲れたような顔をしている。具合が悪いのだろうか?
「護衛は下がれ。エスティの従者も同様に」
第一王子の言葉に護衛が少し難色を示したが大人しく従うと、テオも同様に礼をして扉に向かう。そして何故かものすごくゆっくりと扉を動かす。
「何をしている。さっさと閉めろ」
テオが何をしているのか不思議だったが、はっと気づいた。きっとエレノアがどこにいるかわからないから、挟まれないように気を使ってくれたのだ。
ごめーん、テオ!もう入ってるから大丈夫よ
扉が閉まると王子二人だけになった。どちらも声を発さずにしばらく無言の時間が流れた後に、最初に口を開いたのは第一王子だった。
「それで?わざわざ私の王宮に訪ねてくるなんて、幼少期以来じゃないか?」
それは、第一王子がアレンを避けてたからでしょー!
心の中で思い切り文句言う。エレノアが言っても意味がないのだが。
そしてまたしばらくの間があって、アレンが答えた。
「兄上にお聞きしたいことがあって参りました。急な訪問を受け入れて下さり感謝します」
そういえばアレンはどういう事を聞くのかしら?
確か第一王子なら王に一番近いものとして、様々な知識を持っているかもしれないという事だった。自分たちが一番知りたいのはやはりディザリアの事だろう。第一王子は知っていたのだろうか?
「兄上は…」
一度言葉を区切って、どこか言い辛そうにアレンが目を伏せる。
「兄上はどうして私を嫌うのでしょうか」
……えっ!?
予想外の質問にエレノアは目を丸くした。




