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薬作り

じりじりと近づいてくる魔術師にエレノアは対話を試みる。


「師匠は何か目的があって呼び出しはずよね!?私に何をさせたいの?」


魔術師はぴたりと止まって、そうでしたと何か思い出したように研究道具を漁り出した。


忘れないで……


「特殊な魔法を使う場合、申請が必要だと言ったのを覚えていますか?」

「えっと、犯罪に使われるような危ない魔法の事?」


隠遁…とか言ってたかしら?


「それは僕でも勝手に使う事は出来ませんが、獣人は別なんですよ」

「え?」

「魔法は使い方次第で危険な殺傷武器になりえるので、細かな規約が定められています。けれど獣人にはこの一切が適用されません。何故だかわかりますか?」


つまり、獣人には危ない事させ放題って事?それは酷いだろうと思ったがふと違和感を覚える。初めてエレノアがこの姿になった時、彼は何と言っていた?


「……獣人には魔法が効かないから」

「そう、獣人には魔法の規定が必要ないのです。もちろん、魔法で作りだした何かで間接的に危害を加えるのは国の法で禁止されてますよ。殺人罪は全国民に適用されますからね」


獣人に直接魔法をかける事に制限はないって事ね。どっちにしろ効かないから


「そこで問題です。魔法と同じ効能のものを作りだす事は禁止されているでしょうか?」

「それは、そうなんじゃないの?」

「魔法は人間ができる域を超えた奇跡のようなものです。そんなものがほぼないから魔法使いが重宝されるのですよ」


それもそうか


そして魔術師がふふっと怪しげな笑みを浮かべて、とても嫌な予感がした。


「だからそこら辺の決まり事は曖昧なのです。犯罪に使いたくても存在しない物ですからね。けれど実際に作って使えば魔法の規定同様に処罰の対象にされてしまう可能性が高いでしょう。けれど獣人ならば同じく適用されないかもしれません」


そこでエレノアは魔術師が何を言いたいのか理解した。彼は魔法薬を作るのに長けた国でもトップの魔法使いであり、自分なら作れると言っているのだ。私を興味深く見てた理由がやっとわかった。私はここに実験台として呼ばれたのだと。


「けど、それって屁理屈じゃない?」

「やだなあ。規則なんて抜け道を探しては禁止事項を追加していく、の繰り返しですよ。完璧なものなどないのですから。それに、君は知っておくべきです」

「……何を?」


魔術師はそれには答えず笑みを作った。


「大丈夫ですよ。法に触れるような事はさせませんし、まあちょっと珍しいものを使うだけです。獣人は魔法が使えないので薬で代用します」


なんかもう、使う事決定みたいになってるんですけど!?


「君には認識阻害の薬を作りましょう。一定時間、存在を目視されにくくなります。それで第一王子と第三王子の話し合いを聞いてきて下さい」

「はあ!?」

「心配ではないですか?何かしろというわけではなく、ただ側にいてあげるだけでいいんです。ただ、この薬は声を発すると効果が半減するので黙って見ていて下さい」


……?師匠がここまでするのは決してそれだけじゃないはず。その話し合いがそこまで重要って事?


東の魔術師はエレノアがこれまで会ってきた人間の中で一番合理的な人だと思っている。自分の欲に忠実すぎるのを除けばだが。情がないわけではないが、それのみで動くような人でもない。


「わかったわ」

「いい子ですね」


そして上機嫌で薬を作り始めた。先ほどの話からそうそう作るものではないらしいので、とても楽しそうに準備している。


「さっきの言い分から師匠以外に作れる人がいないって事?インクのようにバカ高くてまた王族関係者しか使ってないようなものなの?」

「いちいち特許申請何かしてませんよ?面倒じゃないですか。そう、需要のある物でもないですし」


うきうきと薬を作っている魔術師を見ながら、この人アレンが心配なんじゃなくてただ薬作って使って見たかっただけなんじゃ、なんて思う。


そんな事を思いながらも、先ほどの言葉が気になった。自分が知っておくべき事、それが王子たちの会話でわかるものなのだろうか?


たまに何かわからないものを入れてやばい臭いを漂わせながらもすぐに薬は出来た。流石は東の魔術師と言われるだけはある。けれどこれも獣人の薬同様に人が飲んでいい色をしていない。


師匠って味とか匂いとかほんと二の次よね…


「これを飲んだら姿が消えるの?」

「正確には、存在が認識されにくくなる程度です。ちゃんと存在してるので触ればいますし、声を出せばバレます」


ふむ、ならば結構気を付けないといけないのでは?


「アレンに事前に話していた方がいいわよね?」


その言葉に魔術師は少し考えて、首を振った。


「やめましょう」

「どうして?」

「真実を知る人間が多いと言うのはそれだけバレやすくなります。何かあっても助けてもらえないリスクはありますが、君の事が気になってアレンが集中できないかもしれません。人が増えるだけ言葉を選ぶようになるでしょうから」


言葉を選ぶ?


エレノアはよくわからずに不思議そうに首を傾げる。


「王子たちの二人だけの本音を聞きたくないですか」


確かにエレノアがいるとなると、アレンの方は素直に言葉を吐き出せないかもしれないとは思った。同時に少し迷うようにエレノアは言葉を濁した。


「それは…私が聞いてもいいものなの?」


肉親達の私的な会話を盗み聞きするようなものだから、少し気まずい。だからといって、知らないでいいとは思えない。第一王子は何かしら真実に近い事を知っている可能性は高い。それがエレノアに不都合な情報だった場合、アレンは隠すかもしれない。


「アレン王子は半分は君の為に、苦手な兄君に会いに行くのでしょう。何かあったら助けてあげてください。バレない程度に」


バレない程度に?……無理では?


「あとその薬を飲んだら猫の姿に戻るので」

「え!?聞いてないけど?!」

「言ってませんでしたね」


まさか動物の姿で侵入するとは思っていなかった。助けるも何も、何も持ち込めないし見つかったらかなり危険である。


「君はまだ自力で人の姿になれないのなら仕方ないでしょう。薬という物は併用できないものも多いのですよ」


さっと青ざめるエレノアを見ながら、見つからなければいいのですよと呑気な事を言っている。


「この薬、師匠が使ったらだめなんですか?」

「人に使ったのがバレると処罰対象になってしまうかもしれないのですよ。たとえ僕でもね?そうなると数か月の研究禁止処分も考えられます。ああ、恐ろしい。絶対嫌ですね。他の信頼できる獣人ならまだしも」


エルや書記官にそんな危ない事させられるわけないでしょ


「僕が君を指名したのは一番アレン王子の事を想ってくれていると確信したからです。だから知るならば、君がいいでしょう」

「だから何を?」


魔術師は口元に人差し指をあてて、それ以上は言わないと暗に示した。


「それは是非、自身の目と耳で聞いてきてください」

「~~~っ、師匠には色々感謝してるけど、私の事をぞんざいに扱い過ぎでは?本当は私の事嫌いなんじゃ」


魔術師はきょとんとした後に、ふふっと笑った。


「言いませんでしたか?僕は動物は好きだって」

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