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師匠の企み

苛々しながら魔術師と第三王宮に帰って来ると、テオが戻ってきていた。


「おかえり、ノア。何面白い顔してるの?」

「……元々こういう顔だけど」


余程おかしな顔をしていたのだろうか?けれど今は、表情管理をするのは難しい。テオの指摘にふっと笑ったアレンが続ける。


「神殿で嫌な事でもあった?獣人相手でも基本、無礼な振る舞いはしないはずだけれど」

「無礼な事はされなかったけど、言われたような気がするわ。獣人が見下されてるのは試練だとか、意味の分からない事を当たり前に言うのだもの。しかも王族に対しても何だか失礼な言いようだったし!精霊バカよ」


エレノアにとって精霊は何もかも投げ打てるほどの信仰心はないからそう思うのかもしれない。

しかも花園に関しての収穫もなかったと魔術師が報告すると、予想できたのかアレンが頷く。そう簡単に何かわかるなら精霊の加護者としてあの部屋にいたであろうアレンが気付いたはずだ。


「彼らは精霊が頂点の信仰者だからね。王族は二の次、もしかしたら神殿と同等と思っているかもしれない。その様子だと神殿で王族の話は聞いただろう?」

「ええっと…初代王と水の精霊の話なら」

「初代王は精霊信仰の第一人者である聖人だったから、彼らにとって国の起源である神殿側に誇りがあるのさ。けれど資金の関係で王族を蔑ろには出来ないし、また王族も精霊や神事があるから神殿を切り離せない」


全面的な敵ではないけど、味方でもないって事かしら


「君は真面目ですよね。思想なんて時代によって変わるんですし気にするだけ無駄です。何かを変えたいのならば、具体案とそれを実行できる地位を築くのに時間を費やした方がマシです」


魔術師があたかも正論のように諭すので、あなたは魔法以外の興味がなさすぎるんですよと心の中で毒づく。


「政策の決定権もないから害はない。気にしなくていい、エレノアがそう思ってくれただけで十分だよ。それより、テオ…」


アレンに急に話を振られたテオだったが、予想していたように顔をあげる。


「ああ、報告だろ?いなかった」


え?


「王都の神殿に聞き込みと信者、殉職者リストを見てきたがそれらしいのはいなかった。元々礼服を着てる奴なんてそうそういないからすぐに見つかると思ったがな。本当に幽れ…」


ばっとテオの口をふさぐと、なんか満足そうな顔をして手を掴まれた。なぜ?


「つまり、城内にいる聖職者なのか?」

「でも、以前テオに調べてもらったけどわからなかったわよね?」

「俺はちゃんと調べたが?」


むっとして口を尖らせるテオを宥めるように、よしよしを頭を撫でる。


「潜伏してると言う事か?隠遁するような魔法ならあった気がするが」


そんな感じじゃなかったけどなあ?


どちらかというと暇を持て余した貴族が優雅に休んでいるようだった。あれが間者か何かなら向いてないにもほどがある。


「姿を隠す魔法はありますが、申請による許可がいりますね」

「え?そうなの?」


魔力に関しての知識がほぼないエレノアは、純粋な疑問を口にした。


「ええ、姿を変えたり消したりは正当な理由を元に、特別に許可を貰った者だけ行使できます。無法地帯にするとそれを犯罪に使う者で溢れてしまいますからね。それに人権侵害に繋がる場合もあります、特に姿を変えるのは元に戻らなく可能性もあるので」


ん?待って、前に師匠に変化の術を使われなかったっけ?効かなかったけれど


怪訝そうに魔術師を見ると、ふふっと意味深な笑いを返された。この場で私的な過去話を展開する気はないので黙っておく。


「じゃあ、結局誰かわからないのね。本当に誰なのかしら」

「……今度ノアが会ったら、俺に知らせて気絶させて連れてくるのが早いかな」

「あまり気は進まないがそれが確実かな」


なんか物騒な事言ってるこの人たち


さて、とアレンが何かしらの紙を広げた。手紙?


「今度は僕の番だね。兄上への面会が通った、七日後」


そんなにかかるのね


王族では兄弟もそう簡単に会う事はできないものなのだろうか?それとも故意的に遅らせているのだろうか?エレノアにはわからない。


「……大丈夫か」


テオの言葉にアレンが柔らかく笑った。言葉少ないがこれは、親族達と関わる事を苦手とするアレンに対するテオの気遣いの表れだった。


「ずっと逃げ続けるわけにはいかないからね。エレノアの為にも」


アレンが無理して笑っているのがこの場の誰にもわかった。そして何も出来ない自分がとても不甲斐なく感じたエレノアが口を開く前に、何もしないでねと釘を刺された。




数日後、エレノアが仕事で城内を駆けまわっていると庭園に犬の姿を見つけた。


え!?


城に動物がいるだけで二度見するのに、誰かに見つかって自分のように箒で叩かれたら大変だ。急いで駆け寄るとその犬になぜか見覚えがあった。エレノアに懐くように近寄ってくる。


「え?あっ…!お前、師匠の使い魔でしょう?前に私を見つけてくれたわよね」


頭を撫でるとこちらへ来いと言うように袖をひっぱる。そして扉の前にちょこんと座った。


「開けて欲しいの?でも、ここ空き部屋よ?鍵はかかってないのかしら」


すぐに開いたがそこは真っ暗で、部屋の明かりを探そうと一歩足を踏み入れるとなぜか地面がなかった。悲鳴を上げる間もなくそのまま落下した。


ぱっと明るい場所に出た瞬間に衝撃に備えたが、特に強い痛みはなくうつ伏せの恰好でどてっと転んだ。


「え?」

「ヴィー、お使いありがとう。呼びにいったのですが、うまく会えたようですね」


そしてこれが魔術師の移動魔法だと気付いた。似たような魔法を何度か見たことがあるからだ。


「……今度は普通に呼んで欲しいのだけれど」


きょろきょろと周りを見渡すと、やや狭いが城内にある魔術師の研究室のようだ。あの懐かしい家そっくり散らかっている。


「君を呼んだのは言っておきたい事があるからです。第三王宮だと精霊の眷属がいるのでバレますからね」


リハルの事ね


多分、アレンの事なんだろうなと思った。彼はエレノアだけではなく、アレンの師匠でもあるのだ。


「あの子は昔からとても頑固な子供でした。潰れそうなくらい苦しい思いをしても笑って誤魔化すくらい周りに言えないのです」


何となく幼い時のアレンを思い出した。多分生まれた境遇のせいで、言わないのではなく言えない子になってしまったのだなと思った。


「…わかるわ」

「ならば、王子を助ける為に協力する事もやぶさかではないですよね?」


ん?


心なしか、魔術師の目が輝いている。この表情に見覚えのあるエレノアは嫌な予感を覚えて後ずさりする。けれどここは城のどこにあるかわからない、東の魔術師の研究室。逃げ場はなかった。

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