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水面下で

そろそろ外に出ないといけないと言う事で、エレノアとテオが先に出る事になった。ここはリハルの領域なので水の精霊の加護者であるアレンが先に出てしまうと閉じてしまうらしい。


「エレノアはリハルの機嫌でもとっておいて。テオはそういうの苦手だろうからね」


ふと気になった事があって、アレンに近寄ると不思議そうな顔をされる。


「何?」

「アレンはテオの事はたまに愛称で呼ぶのにどうして私はエレノアなの?」


アレンは表向き王子としての仮面を持っていて、師匠と話している時も意識して臣下として接していた。身分を区別するのは必要なのかもしれないが、エレノアは彼の素はもっと柔らかいものだと知っている。


だから他人の前ではテオドアと言っているが三人だけの時はテオと言ったりする。気を許している証拠として見ていて微笑ましかったが、何故かエレノアはずっとエレノアのままだ。


「ああ、テオに愛称で呼ぶなとずっと言われてて」

「ええ!?テオが?何でそんな事…私も愛称で呼んでいいのに」

「うーん」


何だか煮え切らない返事に首を傾げると、アレンはやめておくと予想外の返事が返って来た。


「どうして?」

「エレノアの名前はテオが昔から大事に思ってるものだと知っているから。僕はね、エレノアが好きだけどテオの事も好きなんだ。だから彼の大事なものを尊重したい」

「名前、が?」

「どんなに近しい家族や仲の良い友人だって一定の距離感は必要だろう?超えてはいけない線を越えたら一生許してもらえないかもしれない。何もかも理解できるわけではないけど、相手の価値観に自分の常識を押し付けるのは傲慢だと知ってるから」


テオの事を否定するのではなく、理解する努力をしたいという。

それだけ彼の存在がアレンにとって大きなものだから。


私達は、そんなに大切に思ってくれている彼に黙っていることがある。その事実に少し胸が痛んだ。


「アレン…あのね」

「ノア」


丁度テオに呼ばれて振り返ると、彼は不機嫌そうにこちらを睨んでいた。アレンに何でもないと言って急いでテオの近くに寄っていく。


「何話してたの?」

「アレンもテオが好きだって」

「それ、まだ続くの?」


テオが呆れたような顔をして、もう何も言わないとばかりにエレノアの手を取る。上を見ると光を帯びた水面のような円形が見える。どうやらあそこまで泳いでいくらしい。

水面を目指しながら横のテオに話しかける。


「テオは王家が怪しいってずっと疑ってたの?」

「ここに連れてこられた時から信用なんてしてないよ。考えてもみてよ、何のために加護者を集めているのだと思う?」

「え…?それは…加護者がいれば恩恵があるからじゃないの?」


精霊は自然界を安定させる存在であり、精霊と契約した加護者がいるだけでその土地に何かしらの変化をもたらすという。人間も自然界の一部であり、自然と切り離せない生活をしているからこそ重要な存在というのも納得は出来る。


「でも国にさえいれば十分なはずだろ?なぜ王城に、一か所に集める必要があるんだろうな?」

「精霊はこの国の象徴みたいなものだし…権力を誇示したい、とか?精霊の加護者ひとりで国をどうこうできる力なんてないから危険視されたりはしてないわよね」


確かになぜなのかしら


王宮に入ってもエレノアは特に何かを指示されたりしなかった。仕事を任せられるわけでも、表に出て社交をするわけでもない。何のためにいたのか、今考えれば疑問が浮かぶ。


「何の利益もないはずないんだ。アレンはまあ、私情で動いていたとしても王が許可をしたなら目的があったはず。それもきっと精霊に関する事でね」


ああ、なるほど


テオの言いたいことがなんとなくわかった。


「だからテオは今回の事も王家が無関係じゃないって言いたいのね」


つまり、王家が首謀者説だとすると自分は狙われたのだ。それもきっと、長い時間をかけて。


「私は精霊の加護者だからわかるけれど、じゃあディザリア様は?あの方は精霊に関係ないはずよね?」

「それをアレンが調べてるんだろう。少なくても王から指名された婚約者なんて無関係だとは思えないね」


王家が怪しいのはわかったけれど、では目的は?私の中に入ってるのは?


一番知りたいことは結局まだ謎のままだ。


「アレンも王家の事を全て知ってるわけじゃないだろうしね」

「王にしか継承されない事柄があってもおかしくはないからね。血族だから聞き出せとアレンに無理強いは出来ない」


アレンは自分では言わないが、あまり親子や兄弟の仲がよくないらしいというのは昔から知っていた。どこか孤独を感じる様は幼い頃より強く感じる。


さっきのアレンの言葉じゃないけどテオもちゃんとアレンを尊重してるのよね


彼が本当に嫌な事、苦しい事は絶対に言わないしさせない。これが見ず知らずの他人なら使い捨てに利用するくらいはしそうだけれど、アレンはそうじゃないのだと線引きしているのだと思う。

口には出さないけれど、みんな大事なものはわかっているのだ。



水面から顔を出すと、リハルがややぐったりしながらこちらを睨んでいた。


「ごゆっくりでしたね。とてもとても疲れました」

「ご、ごめんなさい。大丈夫?」

「もっと労わって下さい」


リハルと話す事はあまりなかったが、こんな子だっただろうか?エレノアの足にくっ付いてくる姿が幼いのでどうしても甘やかしてしまいそうになる。


「ノア、放って置け。どうしてもと言うなら俺が構ってやるよ」

「嫌です。私はこの子と話してみたかったんです。以前より少しわかりにくいですが」

「え?私が何?」


なぜか指名されてエレノアは困惑する。特に仲がいいわけでもないのに、なぜそんな事を言われるのだろう?


「だって、貴方は私により近いような気がするから」


じっとこちらを見上げてくる水の眷属の瞳をみながら、なぜか不安に駆られる。どういう意味だと聞き返そうとすると、テオがリハルを持ち上げてぺっと投げ捨てた。


え!?


リハルはそのまま小さな魚の姿に代わって、ぺちぺちと抗議するように尾を振っている。


「テオ!?何してるの」

「いや、なんか…」

「リハルは魚の姿が一番可愛いですよね」


…………ん?


エレノアとテオは一瞬顔を見合わせて、自分たち以外の声が聞こえた方向に同時に振り向いた。

そこには見知った人物が手を振っていた。


「元気にしてましたか?」

「師匠?」


何でいるのという顔をしたエレノアとコイツ誰だという顔をしたテオの前に、今度はアレンが帰って来た。そして目の前にいる東の魔術師に少し驚いた様子で怪訝そうに話しかける。


「なぜいる?」


相変わらずの物言いに慣れた感じで、魔術師は笑いながら肩を竦めた。


「調査結果を持ってきました」

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