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久しぶりにみた師匠である東の魔術師は何も変わってなかった。相変わらず自分の生活に無頓着なのか後ろ髪が跳ねている。


「話をしたいのですが…」


魔術師はそう言って、部屋の中にいるエレノア達をひと通り見渡す。それを理解したようにアレンが続けた。


「この場にいる者には聞かれても構わない。皆、事情を知ってる者達だから」

「そうですか」


ちらりとエレノアを見て意味深な微笑みを浮かべられる。結局正体を明かしたんですねと言われているような気がする。


ええ、バレましたけれども!


そして今度はテオに目線が移る。


「君は…君も精霊の加護者ですか?」

「なんだと?」

「彼女とよく似た気配がするもので」


そういえば師匠は魔力を感じ取れるんだっけ


出会った頃にそんな事を言われた覚えがある。常人ならわかるはずもないのに、流石は東の魔術師と言われる事はあるなと思った。けれど今はその話題はあまり好ましくない。


「あの、師匠…」

「そんな事より、はやく話せ」


会話を逸らそうとしていたエレノアだったが、予想外にアレンの方が会話を切ってくれた。それだけ詳細を知りたいのだろう。


「せっかちですね。まあ、いいでしょう。ディザリア・ローゼンベルクについて。正確にはローゼンベルクの血筋ではないですね。彼女は七歳の時に伯爵家の養女になりましたから」

「え…!?」


ディザリア様が?


「アレンは知ってたの?」

「知っていた。確か元は男爵家…だったか?幼い時に両親が亡くなったらしい」

「はい。ローゼンベルクは後継者にも恵まれているので養子をとる必要なかったはずですが、なぜ引き取ったのかは不明です」


もしかしてこの時から婚約者候補として…?だったら王命だったのかしら


王族の伴侶となるには上位貴族の身分が必要になる。わざわざ養女にしなくても上位の貴族令嬢を娶ればいいのだが、王族の意向が優先される場合もある。


私がそうだったからね


つまり養女にしてでも彼女を婚約者にする必要があったとも言える。全てはまだ憶測でしかないけれど。


「それで?生い立ちは何か関係があるのか?」

「養女だった為、伯爵は義務的に接していたようです。生活の保障と最低限の教育のみで伯爵家には彼女と親しいものがいなかった。けれど彼女の訃報に一刻も早い遺体の返還を申し出たそうです、家族の墓所に弔ってあげたいのだと」


そこまで義務的に差し出した令嬢ならそのまま王都で葬られてもおかしくはない。王子の婚約者として盛大な葬儀をあげてもらえただろう。


「…遺体はあったか?」

「密葬のような形をとったようで召使たちも誰も知らないそうです。墓にはなかったので遺体の場所を探るために使い魔を送りましたが二体ほど殺されてしまいました」


なにそれ、怪しすぎるでしょ


「グルだったんだろ、王家と」


テオの言葉にその場にいた者達が視線を集中させる。つまり遺体を隠したかった両家が画策したと考えても確かに辻褄はあう。けれどなぜ隠したかったのだろう?死因を特定させない為?


「ねえ、ディザリア様が生きてる可能性は?遺体は誰も見てないのよね?」

「生きていたら隠す必要はないでしょう。貴方の身体も別人が我が物顔で出歩いているのですから」


生きていても、死んでいてもあの状況で隠す必要はない。つまり、一番不自然な状態は…


「遺体が、消失した…とか?あまり現実的ではないけど。そんな事ある?」


魔術師はふむとしばらく考えてから、徐に口を開いた。


「彼女は“人”でしたか?」


これはアレンに問いかけているのだと思った。エレノアも多くはないがディザリアと接してきたが彼女が人ではないと思った事はない。あれが人間でないなら、人とそうでないものを見分ける術をエレノアはしらない。


「そういうのはリハルがわからないの?」


皆の会話から一歩離れて見ていたリハルに話しかけるとにこりと微笑まれた。


「水の眷属として、契約に縛られた私には言える事と言えない事があります。基本的に契約者以外の関与には禁止事項が多いのです。下手すると消えちゃうので」


なんか難しい事を言っているが、アレンの為に存在しているリハルは首を突っ込めないらしい。その主人であるアレンに問いかけるように目線を移すと彼が口を開いた。


「……彼女には幼馴染がいる。その者によれば幼少期は確かに人間だったと言える、が」


なんとも歯切れの悪い言葉でアレンが、こちらをちらりと見ながら続ける。


「王城に来て、彼女が変わったと言っていた」


え?それって私と同じ?


人は環境によって大なり小なり変わるものだから多少の変化は必然とも言える。けれど人間が別人になるなど普通は考えられない。アレンはディザリアと長く接してきたわけではないので、その程度だと思っていたのだろう。けれど、エレノアの現状を知ってそれは根底から覆された。


「ディザリア様も私と同じように身体を乗っ取られてた可能性があるって事?」

「否定は出来ない。けれど今までに自分が別人だと名乗り出た者はいない」


あ、そうか。私みたいに別人になれば自分が本物だって名乗り出るのが普通よね。けれど、それなら本物のディザリア様はどこに行ったの…?


テオは胡散臭そうにアレンを見ているが、魔術師は興味深いと楽しそうな顔をしている。


「二人の人間が城に来て人格が変わったとするなら、やはり城に何かしらあると考えるのが妥当でしょう。ここにはそういった謂われのようなものはないのですか?謎めいた場所や怪しい言い伝えなど」


ものすごくうきうきしている顔をしている。師匠、少し自重してください。


「生まれた場所とはいえ、何もかも知っているわけじゃないが…そうだな、王族でも立ち入りを許可されてない場所ならある。正確には王の許可が必要になる」


誰もが口を閉ざしてアレンの言葉に耳を傾ける。


「禁書庫と離宮の花園だ」

「禁書庫は王の許可が必要ってのはわかるが、なんだ?その離宮って。この城にそんなものはないだろう?」


テオの言葉に頷く。ずっと住んでいたエレノアも、確かにそんな建物は見たことがない。


「僕も知らない。外ではなく、城の中から通じているらしいが本当にあるかはわからない。何代か前の病弱な王族が自身を慰める場所として作ったらしいが」

「病弱な王族…?水の加護者とは違うのか」


そういえば水の加護者も寝たきりになるわよね


「そうかもしれないし、違うかもしれない。もう百年単位の昔の話だろうし、関係があるとは思えないな」

「そう…。そういえば、ディザリア様の幼馴染って誰なの?どう変わったか聞いてみたいわ」


自分の知っているディザリアは大人しく優しい人だった、けれどあれが別人だとするなら…?身体を乗っ取ったものは人としての在り方を熟知している。それはとても怖い事なのではないだろうか?


「エレノアも会った事があるはずだよ」

「え?」

「ミハエルだよ」

「ミハエルって…」


書記官!?


二人が話している場面など見たことはなかったので、まさかの関係にエレノアは驚いた。


「書記官も確かに貴族っぽい雰囲気でしたけど」

「いや、彼は…」


そこまで言ってアレンは口を噤む。不思議そうに首を傾げると、本人に聞いてくれと言われた。


「とりあえずやるべき事を決めよう。僕は禁書庫の閲覧を申請してみる。祭典や歴史の書物もあるから必ずしも王のみしか入れない場所ではないはずだから」


アレンの言葉に何故か魔術師が続く。


「では僕は花園について興味があります。こちらはテオ君と一緒に調べましょう」


君付けされたテオが物凄い顔で魔術師を凝視している。


「私は、やっぱり別人のエレノアを間近で見たいわ。その為に侍女募集にも参加したけれど落ちちゃったし…。それにあの方は獣人が好きではなさそうなのよね」


自分の耳を触りながら言うと、アレンがならば自分の侍女になればいいと続ける。


「彼女は一応婚約者としてよく顔を合わせるから、観察できる機会は増えるだろう」

「え」


そしてさくっと手続きを済ませ第三王子の侍女に昇級した。

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