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教えてくれた人

エレノアが第三王宮に行くとリハルが待ち構えていた。今日は少女の姿で可愛らしく笑っている。

何も言わず向きを変えて先導するのでそのままついていく。


そういえばテオに言わずに来ちゃったけど…大丈夫よね?


懐かしい王子の部屋に続く廊下。扉を開けると、寝台の上で無理のない態勢で身体を起こしているアレンの姿があった。薄い色素の髪色に剣士のような体格の良さはないが、病人という程華奢でもない。中世的な美しさが増していかにも童話の中の王子様のようだ。


「この子か。本当に獣人だな」


しばらく彼の姿に見惚れてしまった自分に気が付いて、慌てて視線を下げて頭を下げる。リハルはそのまま扉前に黙って待機した。逃げるとでも思ってるのかな?


「お呼びと伺いました」

「ああ、紅茶をいれてもらおうと思って」


あのテオがボロクソにいってくれた紅茶の事よね?けれどなんで私だってバレたんだろう?


あの試験では誰が淹れたかは明確にされてなかった。だから二次募集をかけてまで探したんだろうけど。

命令されたからには召使いとしてやらなければならない。とりあえず薄めに淹れて見よう。


紅茶はすぐに淹れられるように用意はされていたので準備をしているとアレンがこちらを観察しながら口を開く。


「君、侍女試験にいたのに再度招集に応じなかったな」


バレてる?


危うく手に持っているものを落としそうになりながら、何の事でしょうと軽く返事をする。


「誰か代わりをよこしたんだろう。けれど手を回したのがあのテオとなれば、それだけで怪しいと言ってるようなものだ。何重かわからないように細工はしてたが調べればわかる」


王宮での企みで王族を上回れるはずがない。本気を出されればそれはバレるだろうなと思った。テオもまさか紅茶ひとつでここまで調べ上げるとは思わなかっただろう。


「とりあえず紅茶をいれてくれ。続きはその後だ」


うう…


用意されていた紅茶は、以前よく淹れてあげていた覚えがあるアレンの好きな銘柄だった。侍女募集にも同じ茶葉があった。


本当にこれが好きなのね


黙々と作業していると見えていないのに、彼の視線をちくちくと感じる。何故こんなに見られているんだろう。

確かにテオが細工してまで隠した召使いなんて怪しいに決まっているが、自分がエレノアとまでは気付いていないんじゃないだろうか?


独特の紅茶をいれる人間くらい他にもいるはずだし…いるよね?


ではなぜそんな人物を探したのだろうか、もしかしたら似た味が懐かしくて飲みたかっただけ?アレンも味音痴みたいだし?


もしアレンが気付いているのなら誤魔化さずに向き合おうと思った。けれど違うのなら、あえて自らの正体を言うのはさらに怪しまれる結果になるだろう。


アレンが探してくれてるかもって思うのも自分の願望の域を出ないし


とにかく昔と同じようには淹れない方がいいだろうと思った。皆口をそろえてエレノアの淹れた紅茶は渋いというので、少し薄めを意識すればいいだろうか?そう思って、早めにティーポットに手をかけると何故かアレンが口出ししてくる。


「早くないか」

「え?」

「あの時はもう少し時間をかけなかったか」

「え?ええ、そう…かも、知れないです?」

「では同じように」


ええ…?渋い紅茶をお望みで…?


そして紅茶を淹れると先にリハルが飲んだ。一言酷いですねと添えて。


「悪いな。毒見を兼ねているものだから」


毒の効きにくい精霊の加護者には基本毒見は必要ない。けれど、あの事件のあとから用心するようになったのかもしれない。


そしてアレンは紅茶を飲むと笑った。けれど何も言わない。


「出来れば別の紅茶も淹れて欲しい」

「え?はい」


そんなに紅茶が好きだったかしら


別の茶葉をとって同じように淹れるとまたリハルが味見する。


「先ほどのものよりマシに感じます」


どういう意味よ?


そんな事を言えるはずもなく、笑顔で見守っていると今度はアレンが口を付けた。


「先ほどのより薄く感じる」

「あっ先ほどの紅茶は長めに蒸らした方が香りがいいと教えてもらったので」

「誰に?」

「え?」

「紅茶の淹れ方は誰に教わった?」


…誰に?


商家だったので輸入された茶葉などは昔から知っていた。けれど紅茶があまり好きではなかったので、幼い頃は飲まなかった気がする。テオもそこまで食に執着するわけではなかったから、教えてくれたとしたら別の人間だ。


もしかしてアレン?


高貴な生まれのアレンは紅茶を飲むことを好み、様々な茶葉の販売に口添えしてもらった覚えはある。


けれどお茶の淹れ方なんて教えてもらったかしら…?


普通に考えれば教えてもらっていてもおかしくはない。けれどどうしても覚えはない。幼い頃の記憶がないわけではないのに何故だろう?部分的に忘れていてもおかしい事ではないのだが少し気にかかった。


「昔、家族に教わったのだと思います」

「そうか」


特に何も追及されなかったのでこちらも何も言わない。本当に紅茶を淹れて欲しかっただけ?


その時勢いよく部屋の扉が開いた。思わず振り向くとテオが珍しく焦ったような顔でこちらを見ている。


「テオ…!?」


アレンがリハルを睨むと、彼は出入りを制限されてませんからと飄々と言った。テオは大股で近寄って来てエレノアの姿を遮るように立った。


「…テオドアは出入りを自由にしているが、客人がいる時は遠慮するのが普通じゃないか?」


それを聞いてテオはこちらにアイコンタクトをしてきた。

まだ正体がばれていないのか、と。とりあえず頷くと、すぐに目線をアレンに戻した。

多分瞬時に何かしらの言い訳を何通りも構築しているのだろう。


「彼女は俺の恋人なので。心配なのは理解してもらいたい」


えっ!?


思わず声が出そうになり、両手で口を押える。何言ってるの!?


アレンが今度こそ怪訝そうにこちらを見てくる。すると近くにいたリハルが口を挟んだ。


「親しい関係なのは嘘ではないようですよ。彼の部屋に泊まっていましたよね」


そういえば、あの日リハルに見つかったのを思い出した。獣人の姿をしたエレノアを家族とは言えないので無難ではあるけれど…。


「テオドアが…?」


アレンが明らかに信じていない様子で問いかける。テオはエレノア以外の女性に関わろうしたことはなかったからだ。しかも、今のエレノアは別人だと言い張り個人で探していたくらいなのだ。あまりの変わりように訝しむのも当然だった。


「ノアはもういいのか」

「ノアと呼ぶなと言っただろ。その名を呼べるのは俺だけだ」


そのままエレノアの手を取ってテオは扉の方へ歩き出した。


「わっ」


王子にここまで無礼な態度で許されるのはテオとエレノアくらいだろう。

アレンは何も言わず去っていく二人の姿を見つめていた。

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