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小さな女子会

はっと目を覚ますと長椅子から転げ落ちたのか目の前に自分の足があった。身体が柔らかいのか特に痛みなど感じることなくぐっすり寝たようだ。


「すごい格好だな」

「私もびっくりだわ」


エルが寝相の悪い子供を見るような生暖かい目で見てくる。


しかし眠るという行為は未だに少し慣れない。精霊の加護を受けていた身体は睡眠を必要としなかったから、長い間夢を見る事も忘れていた。


眠気や空腹は辛いけどそれを解消するのは充実感があるのね。あーよく寝た


召使いや従僕の朝は早い。

まだ少し薄暗い間から動きださなければいけない。支給された服を着て足早に職場に向かう。

厨房ではそれぞれのやる事が決まっているのか、新人以外は機敏に動いている。


「アリス、おはよう」

「おはよう」


ついでにはい、と水桶を渡される。アリスも持っているので一緒に汲みに行くという意味なのだろう。動き出した彼女の後をちょこちょことついていく。

井戸につくと昨日新人いびりをしていたジルがいた。朝は眠いのかこちらに突っかかってくる気配はない。


「かなりの量の水を運ぶのね」

「貴族の方々に朝一に持っていくからね」


そういえばアリスは王宮に入れる召使いだったよね


「…ねえ、第三王子の婚約者はどんな様子?」


どうとは?と特にこちらを向く事もせずに黙々と仕事をしているのはアリスらしい。

とりあえずあまり詳しく話さないように気を付けながら探りを入れる。


「私はよく知らないけど、何か大変な事があったって聞いたけど…」

「ああ、暗殺事件?王宮が騒がしくて大変だったけど、思ったよりはやく落ち着いたのにまだ噂話してる人たちがいるの?婚約者のエレノア様の…あら、貴方と同じ名前ね」


どう答えればいいかわからないので一応笑っておく。


「高い身分の方の事はあまり口にすべきではないけれど、そうね…食は相変わらず細いようだけどお元気そうよ。御一方でもご無事でよかったわ」

「その騒動の後にお会いした?」

「いいえ。確か担当は…ジルが行ってたんじゃないかしら」


呼んだ?とばかりにジルがこちらを振り向く。


「何よ?」

「貴方、第三王子の婚約者のお世話をしてるわよね?」

「ああ~あの平民のお姫様ね。死にかけてからどんな心境があったのか変わったわよね」


エレノアは是非聞きたいとばかりに身体が前のめりになる。自分ではない自分がどんな様子なのか、第三者から聞けるチャンスだ。


「以前は何を言っても無視で言っちゃなんだけど雰囲気悪かったじゃない?召使いが粗相をした時に出ていけってティーカップを投げつけたって聞いたわ。男連れで王宮に入るし、第三王子を惑わしてやりたい放題の悪女なんじゃって言われてたわね」


嘘でしょ!?


代償のせいで出来るだけ関りを絶っていたのは事実だ。何を言われても無視を決め込む態度で相手に反感を持たれるのも覚悟していたし、実際嫌われていたのも知っている。けれど、怪我をさせるような事はしていない。


確か給仕でティーカップ割った女の子がいて、危ないと思ったから後は私がやるからいいって意味で部屋から出てってもらったけど…なんでそんな事に?


こうやって尾びれ背びれがつくのかと思った。


「あら、でも粗相について罰のようなものは一切なかったはずよ。あの方は尽くしても失敗しても何もおっしゃらない静かな方だったでしょう」


何故か庇ってくれたのはアリスだった。ちょっと感動していると、ジルがどうでもいいと言うように話を続ける。


「まあ、そんな態度が最近嘘のように友好的になったわ。頭でも打ったのかしら?」

「ジル!」


流石にアリスが注意する。いくら召使いしかいないとしても、目上の者に対して怖いもの知らずにもほどがある。


「まるでディザリア様みたいよね。病的でずっと伏していたけど優しい方だったし、あの方に憧れていたのかもね」

「ディザリア様、て亡くなったのよね?現場を見た?」


その返答はアリスがしてくれた。


「王の庭園だったから、私達は入れないわ。確か騎士団がすぐに入って行ったけど」


そういえばテオも侍従は入れなかったって言ってたっけ


王族たちのお茶会は機密事項を話す場でもある。許可された者以外入れないが、その周りを強固に衛兵が守っている。では誰が何を出来るだろうか?健在なアレンが一番怪しいが…。


飲み物に何か入ってた?あの時もお茶は私が入れたはず…私は何もいれてないけど、用意された物に何か入れられたらわからないわよね?


第一、精霊の加護者は毒や薬は効きにくい。エレノアやアレンが共に倒れたと言うのも変な話だ。

考えれば考える程わからない。空腹を感じるのでそれで集中できないのもある。

今の仕事が終われば朝食らしいと聞いて、エレノアは急いで終わらせて厨房に急いだ。




一日の仕事が終わった。

今日は洗濯で一日中洗っては干してを繰り返して腰が痛い。よろよろとエルの自室に帰ろうとすると、薄暗い廊下でいきなり口をふさがれた。そして薄暗い隅の方に引きずられる。


「…っ!!~~!」

「静かにして?」


その声を聞いて藻搔いていた身体の動きを止め、そろりと自分の口を塞いでる主を仰ぎ見る。


テオ?


「大きな声出さないでね?」


うんうんと頷くとやっと手を放してもらえた。紛らわしい。


「何でこんな事を?」

「だって俺らが話してる様子を見られたら関係性を説明できる?俺は構わないけど、ノアは困るんじゃない?」

「テオに感謝するわ!」


テオは元々エレノアとアレン以外と話す事はほぼなかった。それどころか誰かに目撃されるという事も少なく、今のように王宮内を陰ながら動いていたようだ。


「ノアに言われた事を調べて来たよ」

「いつもながら仕事が早いのね」

「俺はノアのためだけにここにいるからね」


じっとこちらを見てくるテオを見上げる。姿かたちは違うだろうに、テオが自分が見る様子は以前と全く変わらない。親しみと愛情、そして哀愁。彼はいつもどこか自分を悲し気に見つめる時がある。その理由はわかるような、けれど違うような気もして確かめたことはなかった。


「ノアが言っていた、あの女と話してた人物だけど…」


テオはエレノアの姿をした者をあの女と呼んだ。多分エレノアと呼ぶことはないのだろうなと思った。


「いなかった」

「え?どういう事?」

「正確にはわからなかった。第三宮殿の入室記録にはその日主要な訪問客はいなかった」


いない?でも確かに私は二人が話しているのを見たのに?


「もしかして入室記録がいらないくらい身分の高い方とか…」

「一応、当番の衛兵にも聞いてみたけど誰も見ていない、と。口止めされている可能性も含めて金を渡してみたけど、そういう素振りもなかった」


では、あれは誰…?誰にも知られないようにエレノアの部屋に入って来た?


「本当にいた?まさか幽れ…」

「やめてぇ!私がその手の話苦手なの知ってるでしょ!テオだってあの時一緒にいたんだから少しは見なかったの?」

「俺はノアしか見えなかったから」

「あ、うん」


なんか話が終わってしまった。結局あの礼服の人物についてはわからなかった。

そしてテオには驚くからこういう呼び出し方は禁止した。

用がある時は、ある場所に物を置いて決められた場所で落ち合う事にした。

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