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配属

一夜明けてエレノア達はエントランスホールに集められた。

また話が長くて寝そうだったが、自分に関係ありそうな部分は新人の階級は最下位から始まるというものだった。


下女は皿洗いと洗濯からなのね


予想通りではあるが、本城の掃除すら出来ないなら重要な情報集めなどいつの事になるのか。正直、あわよくば偶然ターゲットに会うなどを狙っていたのが無理そうだ。先は長そうと思いながら自分の指導役の元へ行く。


ええっと…


指導役は部屋割りが決まるまで、しばらく寝食を共にして仕事を教えてもらう人の事だ。優しい人ならいいなあと思いながらも、自分が獣人であることを思うと無理かもと脳裏に過った。


あれ?


指定の場所にいるはずだが、どう見てもひとりしかいない。けれどそれは男性で、しかも獣人だった。


「あの…」


おそるおそる声をかけると、ものすごい目で睨まれた。なんで。

黒髪黒目の平民でも珍しい色をしている。獣人では普通なのだろうか?


「私の指導役の人は…?」

「俺だが?」



寝食を共にするなら普通は同性だと思うのだが、なぜに異性なのか。その疑問に当然というように彼は言葉を続ける。


「平民は獣人教えたがらない。そして獣人の女は少ない、すぐ辞めるから」


つまり手の空いている自分に押し付けられたのかな?


男性は言葉少なめに説明を終えたとばかりに踵を返して歩き出す。慌ててその後を追っていくとある部屋の前で立ち止まった。


「住居」

「厨房」

「倉庫」


男性が独り言のように話すのでぽかんとして聞いていたが、はっと我に返る。


もしかして住居案内されてる!?


「他に質問は」


言葉が少なすぎてもう何から質問すればいいのかわからない。とりあえず…


「貴方の名前は?」

「エル」


その言葉と同じに、昼を知らせる鐘がなった。確か午後からは仕事をしなければいけないはずだ。


「汚れてもいい服で厨房へ」


そう言うなりどこかへ去って行った。指導役とは。

羽織っていた物を腰に巻き付けて動きやすい格好にして、そのまま先ほど案内された厨房にやってきた。流石に女性ばかりで少しほっとしたが、他の新人たちは平民で獣人はエレノアだけだった。


見た顔がちらほらいる


王宮に住んでいた時も専属の侍女はいなかったが、配膳などで召使が交代で部屋に訪れていたからだ。

そして先輩らしき召使が新人に向かって口を開いた。


「これから食事時なので洗い物がいくらでも溜まるわ。貴方達の昼食はそれが終わってからよ」


目の前にはすでに調理後の洗い物が山積みになっている。これ、終わる…?


けれど新人たちに拒否する権利はない。皆黙って洗い物を始めた。その間、新人以外は昼食をとっているようだ。多分、伝統的なしごきなんだろうなぁと思いながら。


洗ったものを拭いて置き場所を聞こうとすると、頭から水が降ってきた。


「やだ、ごめんね。それも洗って」


…わざとだよね


水が入っていたであろうコップと食べた皿を渡された時、笑っているその人物に気付いた。確かたまに配膳係としてやってきた若い子だ。エレノアは一言も話さないのに、気軽に話しかけてくれる明るい子だと思っていた。


まあ立場が変わったらそうなるわよね


「皿はこちらへ置いて」


先ほどの言葉を拾ってくれたのか、別の女性から話しかけられる。この人の顔も見たことある。先ほどの若い子と違って、落ち着きのある女性だ。


「あ、ありがとう」

「ジルは新人いびりが好きだから、あまり近寄らない方がいいわ」


おや?


じっと見ていると何?と怪訝な顔をされた。


「貴方は、その、新人でも見下したりしないのね」

「時間の無駄でしょう。王族相手だろうと、新人だろうと、私は決められた仕事をするだけだわ」


昔見た時は黙々と同じ仕事をしては、無表情で一言も話さないので怖い印象があったが、そのクールさが生真面目からきているのを知ると、好感度爆上がりである。


「貴方の淡々とした冷たさが素敵だわ。名前を教えて?」

「…」


あ 間違えたかも


今度こそ奇妙な生き物を見るような目で見られたが、人は見た目だけだとわからないものだと改めて思った。ちなみに名前は教えてもらえた。アリスという可愛い名前だった。


その後、それぞれの指導役がホールで待っていた。もちろんエルもいたのだが、エレノアをみて目を細めた後にため息をついた。


「汚れてもいいとはいったが、汚れすぎだろ」


あの後、新人と言う事で案の定嫌がらせを受けた。獣人というのも相まって水や食べ物が降って来るわ、何故か調理器具まで空を飛んでいた。すでに何人かの新人はやめたくなっているらしい。


「派手にやられたな。辞めたいなら出ていくのは簡単だぞ。主人の元に戻ればいい」


すっと出口の方を指さされたが、エレノアは首を振った。


「主人何ていないわ、私は自分の意志で働きに来てるの。自分の為にね」


そう言うと、エルはじっとこちらを見て何かを考えている様だった。言葉で言ってくれないとわからないのだけど。


その後はエルの自室に案内された。男女別ではあるが、どちらかというと階級別に部屋が分けられているようだ。

エルの部屋は簡素だったが思ったより広かった。自室が与えられていると言う事はもしかして中級使用人くらいなのだろうか?


獣人は出世は難しいらしいけど、確か師匠の知り合いが実力で登り詰めたって言ってたっけ?でも年齢的にエルは違うわよね


隅で着替えて飲み物を入れてもらうと二人無言になった。しばらくして、エルの方から話しかけてきた。


「その、さ。悪かった」

「何が?」

「獣人は主人に金稼ぎに売られてくるのが殆どなんだよ。だから特に仕事に対して拘りもなく、こいつもすぐに辞めるんだろうなと思ってたんだが」


なるほど、だからあんな態度だったのかと納得がいった。無口だと思ってたが、彼なりに線引きをしていたのかもしれない。すぐに辞める人に情をかけても無駄だと思えるくらい見送って来たのだろう。それはエルが長年仕事に真剣に向き合っているとも言える。


「エルは違うんだね」

「獣人が独りで給金のいい職を探すのは大変だからな。何をされてもしがみ付くさ」


ああ、獣人の扱いってやっぱり酷いんだろうな


「エルは何年勤めてるの?」

「五年くらいか。個室に移ったのも最近だからお前もそのくらいかかるかもな」


五年も自分の身体に戻れないのは勘弁してほしい


「まあ、そのうち平民と相部屋になるだろうが、それでも出来るだけ早く部屋は分けた方がいいな」

「やっぱり?異性と一緒の部屋は普通な事じゃないわよね」

「子供の内はいいが、発情期が来たら大変だろう?」

「何それ?」


エルがいきなり飲んでいたものを噴き出して咽た。


「お、前っ…親から習わなかったのか?」

「私、生まれてすぐに捨てられたっぽいから」


多分


エルは何か言いかけてやめた。言葉からして獣人の性教育に関する事だろうか?エレノアは姿が幼いのでいちから説明しないといけないと思ったのかもしれない。中身は結構年上なのだが。


頭を悩ませるエルが面白かったのでしばらく見てたが、こちらが折れて収束した。

エルはベットで、居候のエレノアは長椅子で休むことになった。


「そうだ、酒を飲みに行こうと言われても絶対行くなよ」

「どうして?」


その続きの声が室内に響き渡ることなく、目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。

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