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疑惑晴らし

部屋に行くと侍女長とあの時話しかけてくれた少女、そして見知らぬ男性がいた。

そして早々と侍女長が話しかけてくる。


「エレノアですね。貴方の推薦人の方の名前ですが、このシャーレと推薦人の名と同じなのです」

「え?」


少女の名前はシャーレと言うらしい。机の上にある二つの用紙を覗き込むと、確かに東の魔術師のサインが入っている。筆跡もどちらも全く同じだ。


「これが東の魔術師の推薦でなければ大事にはしません、どちらも採用しなければ済む事ですから。けれどあの方の意向は無視できません」

「推薦人はひとりと聞いている。つまりどちらかが不正を行っている可能性がある」


だから貴方は誰よ?


そんな視線に気づいたのか、侍女長が説明してくれる。


「彼は刑罰を司る書記官です」


つまりこの場で判決を下すと言う事だろうか。見た目は文官らしく剣を扱うような風体には見えない。肩ほどの長めの髪が片目を隠している。


「魔術師は外出中らしく連絡はとれなかった為、真偽がわからない」


ああ、王子の依頼終わってないからね


一度外に出るとひと月は戻らなかった覚えがある。つまり推薦人に確認が出来ない、そしてそれを悠長に待つつもりはないと言う事だ。これが貴族だったらまた違う対応なのかもしれないが。


「お前たちは自分の潔白を証明しろ。晴らせなければどちらも処罰せざるを得ない」


なぜこんな事になったのかは後だ、今すぐ解決しないと就職どころではない。机の上の二枚の紙を見て手に取ってみた。しかし見てすぐわかるならこんな場所に呼ばれてないだろう。

シャーレという少女は青ざめて震えている。


その割にはやる事が大胆だね


自分は正真正銘、師匠から推薦されたので少女が何かしたのはわかっている。あの時何を話したかなと思い出していた。


確か、絶対受かりたいとか言ってたっけ


しばらく紙を見ている様子を、書記官はじっと見つめている。しかし、何だか違和感を感じた。


ああ、この人は獣人を嫌っている様子がないんだ


不愛想だが嫌な感じはしない。ここ数日で人から受ける忌避感は嫌と言う程受けたからわかるようになった。それにわざわざ魔術師に確認したと言っていた、問答無用に処罰する事もできただろうに。

彼の目はどうにかしろ、これからお前が生きていく世界で自身で身を守れと言っているように見える。


多分これからもこんな事があるかもしれない。けれど誰にも助けは求められないのだ。


紙を見ていると、それを横から書記官が奪った。そしてそれを顔に近づけて嗅ぐような仕草をする。


「あっ」

「何の匂いかと思ったらこれか」


匂い?


よくわからなくてエレノアが首をかしげると、お前は獣人だろうと突っ込まれた。そういえば視力や嗅覚も人間より優れているらしいが、意識しないと難しい。


少し集中して目を閉じて嗅ぐと確かに不思議な香りがした。自分の方の紙だ。


なんか覚えあるけどなんだったっけ…?あ!


ぱっと思い出して書記官を見ると、じっとこちらを見ていた。

しかし、これで疑いを晴らすにはどうしたらいいだろう?これからがかかっている、必死に考えて師事された事を思い出す。


えーと、確か…


「この推薦人の名前の所を少しちぎっても書類として認められますか?」

「名前がわかる範囲なら認められるだろう」

「あと火を貸して下さい。あ、自分で使えないならやって欲しいことがあります」


ふたつの取り皿のようなものを用意して、それぞれちぎった紙を入れる。そしてそれに火をつけた。

何をするのかとシャーレが見ていると、燃えている炎を見て目を見開いた。


片方は普通の赤い炎だが、もう一方が何故か緑色の炎が浮かび上がっている。侍女長が不思議そうにのぞき込んでいる。


「なんで色が?」

「炎色反応です。インクに含まれる顔料の違いで色が変わるらしいですよ。師匠…東の魔術師が使っていたものは特殊で自分で材料をとって来て作ってましたから」


出無精過ぎて街に買い物すら行きたくないらしく、日用品も自分で作ってたのを覚えている。絶対そっちの方が面倒だと思うのが、本人は満足しているらしく突っ込まなかった。


「ああ、どの紙でも滲まず美しい線が書けると特許をとってたな。しかしバカ高くて王族関係者くらいしか流通していない。私も初めて見た」


し、師匠…


あの人は才能はあるのに、商才はあまりないようだ。


「そんな物で名前入れられるのは本人でしかないだろう。立証されたな、こちらが本物だ」


シャーレが震えていると、エレノアは近寄って話しかけた。


「どうしてこんな事したの?すぐにばれるのはわかってたでしょ」

「…ご主人に必ず採用されろと。私も…もうあんな所に帰りたくなくて、ごめんなさい」


すると書記官が話に割り込んでくる。


「これはどうやって模写した?」

「私の、特技です。見たものをそのまま書き写せるので、仕事も同じような事をしてました」


ああ、だから読めないけど書けると言っていたのか。けどすごい才能じゃない?


しかし仕事はあまり良い環境ではなかったのかもしれない。もしかすると裏的な仕事を請け負っていた可能性もある。


「もういいな、連れていけ」


扉前に待機していた衛兵が少女を捕まえてどこかに連れていく。

慌てて書記官を引き留める様子を、侍女長は顔を引きつらせた。


「あの子はどうなるんですか?」

「相応の罰をうける。貴族なら罰金ですむかもしれんが、獣人には大金だろう」


罰金…


「何を考えているかわかるがやめておけ。罪を犯せば罰を受ける、そうしないと学ばない。誰かが助けてくれると思えばまた同じ事をするだろう」

「あ…」

「お前は自分の心配でもするんだな」


引き留めた手を放して距離を取ると、そのまま歩き出す書記官の後姿を黙って見ていた。でもあの人は理不尽な事はしないように感じた。




試験の結果は明日まとめて知らされるらしく城に留められた。その際、配属もわかるらしい。

そして、今エレノアがする事は大人しく過ごす事ではない。


夕食を食べてそろそろ夜も深くなってくる時間、暗めのローブを被って外の様子を伺う。自分がここに来たのは採用試験の為だが、それは全て自分の身体を探る事だ。


もし、明日落ちたらまた潜り込むのに時間がかかってしまう。師匠には無茶するなと言われたけど、第三王子の宮に至っては私もそれなりに詳しいし、きっと大丈夫よね


王宮は王子たちの宮がそれぞれ分かれていて、多分エレノアを名乗る人物もそちらにいる可能性が高い。城の中を動き回るよりはまだ暗闇の方がマシだろうと、一階だったので窓をあけてそのまま外に出る。獣人の身体は軽く、簡単に窓枠を飛び越えられた。


こういう時、テオがいてくれたら協力してもらえるんだけど


しかし彼は自分の事がわかるだろうか。警戒されるような目でみられる否定的な想像をすると、少し不安になる。今はいない、懐かしい人物を想いながらそのまま夜の闇に紛れた。

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