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試験の参加者たち

数日後が経ち、今日は採用試験の日である。

しばらく城下町にいたが、思いのほか獣人には厳しい環境だった。

そのひとつが宿屋で、表通りの宿は悉く断られた。理由は何か問題を持ち込まれると困るなどから、獣人はお断りと辛辣な言葉まで様々だったが、皆露骨に嫌な顔をされた。


結局裏通りの格安宿しかなかったのよね


あまり治安がよくなかったので避けたかったが野宿よりマシだ。あいにく何もなかったから良かったものの…。


今日は朝早くに宿を出て、風呂屋で清潔にして身だしなみを整えた。やはり第一印象の清潔さは大事だろう。


初日に獣人の子供と会って以来、他の獣人には会えていない。数が少ないのか隠れているのか、その両方かはわからないけれど、この状況で採用試験に獣人が集まるのか疑問だ。


エレノアは時間を何度も確かめて、早めに城に向かった。




大きな城門の前に着くと、衛兵がこちらに気付いた。流石に城では獣人を見慣れているのか、嫌な顔はされなかったが淡々と要件を伝えられる。


「ここは正門である。召使は通れないから裏門にまわれ」


なるほど


確かに平民や召使が貴族と同じ門を潜れないのは当然だ。頭を下げて素直に裏手にまわる。裏は王宮が見えて少し不思議な気持ちになった。


あそこにずっと住んでたのね


いつもは王宮からの景色を今は外から眺めている。ずっと逃げ出したい気持ちもあったがこんな形は想像してなかった。

そんな事を思いながら歩いていると、庭園が見えた。妃たちが自由に使っていい場所のひとつだが人がいる事はあまりない。そんな場所に誰かがいる。


え…?


礼服を着ている男性だ。見るからに立派な装いで上流の貴族だとだとわかるが、エレノアは見覚えがなかった。


誰かしら


長椅子に座って花のついてない葉を時間が止まったかのように見ている。その横顔が寂しそうで思わずじっと見ていると、男性がこちらと目線を合わせた。するとにこりと笑って手を振るので、軽く頭を下げて通り過ぎた。


誰かに似てたような…?


小さな門を潜り、門番の指示に従い進むと開けた場所に沢山の人がいた。


わっ


年配の女性が名簿を見ながらこちらに近づいてくる。


「獣人はあちらに」

「は、はいっ」


ぱっと見ても平民の男女が圧倒的に多い。そして獣人が集められていた場所には自分を入れてもたった五人だった。全員女性でそれなりに綺麗な身なりをしている。


「よろしく」

「幼くない?何歳?」


その内の二人が気さくに話しかけてくれる。しかし年齢なんて自分もわからない。


「ええっと…多分十五歳」


そう言う事にした。なぜなら採用年齢が十五だからだ。言った者勝ちである。


「多分って…」


陽気に笑う色黒の女性はカーラ、最初に話しかけてくれた最年長らしい女性はミレイと言うらしい。他二人は自分より少し上くらいで、カーラ達より大分幼く見えた。


「私今回で三回目なのよね。今回は受かりたいわ」

「あら、いいじゃない。私は五回目よ」


エレノアは驚いて二度見した。


「採用試験てそんなに受からないんですか」

「毎年ひと枠だからね。でも今回は少ない方だから、チャンスはあるわよ」


つまりこの中で一人しか受からないって事?


これはギスギスしても仕方ない。カーラ達は初めてじゃないので柔軟性がありそうだが、他二人が気まずそうにしてる意味がわかった。


まあ、ライバル同士で仲良く出来ないよね


「試験てどういうものがあるんですか?」

「うーん、人間の試験を見ていると給仕が多いけど、獣人は関係ないんじゃない?するとしたら主に口頭面接でしょうね」


面接?どうして獣人は関係ないんだろ?


話していると時間になったのか、先ほどの年配の女性が前に立って話し出した。


「お待たせしました。侍女長を務めております」


主に平民向けの試験内容、順番や規則などが説明される。そして獣人はそれが終わってからなので待機しておくようにと、最後に付け加えられただけだった。


それだけ!?


これは時間がかかりそうだと置かれていた椅子に座った。すると話してなかった二人のうちのひとりが隣に座った。見た目はとても大人しそうな少女だ。


「…は、はじめまして」


声も小さく可愛らしい。緊張しているのか、少し震えているように見えた。


「初めまして。貴方はどこから来たの?」

「え、と北の領地から」


北は気候的に人が少ない地域だったはずだ。獣人が暮らして仕事を見つけるのは大変なのではないかと思った。言わんとしている事がわかったのか少女は続けた。


「私は文字が書けるからお仕事が貰えるの」

「えっすごいね」


獣人は教育を受ける事はあまり出来ないので、識字率はそこまで高くない。


「そ、そんな事ないの。書けるけど、全部読むことは出来ないし…」


書けるけど読めないってどういう…?


エレノアが首をかしげていると、少女は何か聞きたそうにこちらを見ている。元々何か目的があって近づいてきたのだろう。


「あの…貴方は誰の推薦をもらったのか聞いてもいい?」


推薦…?そんな事聞いて何になるんだろう?でも別に言ってもいいよね?


「ええっと、魔法使いの師匠だけど」


少女が突然絶望したように青ざめた。


え!?


「魔法使い…すごい」

「ちょっと変人だけどね」


変な間が開いた後に少女は、私は今回絶対に受かりたいのと言った。それは独り言と言えるくらい小さな呟きだった。けれどそれは皆同じだろう。


「そうだね、私もだよ。頑張ろうね」

「…そうよね。ねえ、その推薦状見せてもらえる?」


ん?


エレノアは怪訝に思いながらも素直に紙を見せた。それを少女は食い入るようにしばらく見つめていた。


少女がいなくなって、今度はカーラが話しかけてくれた。姉御という感じでとても話しやすい。エレノアが先ほどの少女とのやり取りを話すと困ったような顔をした。


「あ~私達獣人の合格率はほとんど推薦人の権力と比例するんだよ。どれだけお偉い様がバックについてるかが全てなの。私も商人の旦那様だし皆も同じようなものだと思う。だから魔法使いなんて希少職から推薦もらえる人なんてかなり珍しいのよ」


ああ、だから試験は関係ないって事なのか


今回はアンタかもねと笑って言ったカーラも内心は落胆しているかもしれない。自分は偶然位の高い魔法使いに拾われただけで、とても幸運だった。

けれど世の中そんなものなのかもしれない。平民で生まれた自分が王族の婚約者になったのも、奇異な人生を歩むことになったのもきっと必然ではない。自分でなければ誰かが同じような人生を送っていたかもしれないな、なんて思った。


ただ出会い手を差し伸べてくれた人たちに感謝した。


ようやく獣人の番がやってきて個別に部屋に案内される。

自分が呼ばれたのは二番目だったが、内容は特に意味のないものだった。推薦人の事ばかりで、仕事内容は平民の召使に教わる事前提で特に説明もない。


そして事件は起こった。


先ほど話していた少女が最後だったのだが、その後に何故か自分にお呼びがかかる。


「貴方に私文書偽造の疑いがかかっています」


え?


何が何だがわからずにエレノアは指定の部屋に急いだ。

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