1章-18:選択
僕が命を終えるまでに、生死を繰返さないですむ方法を見つけること。
バーリムから託された望みが明らかになったけれども、それ以外のことも僕は知りたくなった。
「バーリムはどういった生と死を繰返してきたの?」
「我は1つの存在として、少なくとも5度の生死を迎えた。1度目は、満たされることで生を謳歌しようとした。しかし、一程度満たされると、より多くを欲するようになり、それを繰返し死をむかえた。2度目の生は、より満たされるように努め、それが悉く手に入った。しかし、死をむかえると手に入れたものを手放すこととなった。3度目の生は、手放さない為に死を避けることを求めた。死が避けられると、生と満たされる悦びが次第に無くなり絶望だけが残った。遂には絶望から逃れる為に死を求めるようになった。4度目の生は、何にも煩わされない生死を求めた。しかし、生があるかぎり我を煩わすものしか無い。全てに煩わされたまま我は死をむかえた。5度目の生は今回だ。どういう訳か、我が一部の“そちら”のみが生を受けている。“こちら”と“そちら”が隔てられた状態が続けば我が望みも果たせるであろう。しかし、我らがどうなるのか、それ次第では難しいかもしれぬ。」
バーリムが話してくれた生死の繰返しは淡々とした話だった。けれど、僕にはかえって、バーリムが詳しく語りたくないことなんだと思えた。上手く言えないけれども、僕には立入らせたくないという意志が感じられる。
そして繰返される生死を終わらせる方法は、僕とバーリムという在り方で探す方が良いみたい。
ソクエルトさんは僕らの一方がどちらかに取り込まれていくって言ってたけれど、バーリムはそんな気がないと思う。むしろ僕が、どうしたいのかというのを待っているんだと思う。
僕は、僕とバーリムのこれからを考えなくちゃいけない。そしてソクエルトさんに考えを打ち明けて、これからに必要なことを教えてもらうんだ。
そう思った瞬間、僕はあることを思い出した。それはバーリムと初めて出会った時のこと。
バーリムは僕を未熟だと言った。そしてバーリムも自分を未熟だと言った。
僕はまだ、お互いの結びつきを感じる様になって、そう時間は経っていない。僕はこのままソクエルトさんに、バーリムとのことを何とかしてもらうのは、何故かおかしい気がする。僕らの、自分のことなんだ。他の人に任せることじゃない気がする。
そのためにも、僕らはもっと自分を、色々なことを知らないといけない。それこそ、僕が歩みたい道。バーリムの望みは、僕の望みの中で見てけられると思う。
「決まりました。」
バーリムとソクエルトさんに考えを聞いてもらう。
「バーリムの望み通り、生死を繰返さない方法を見つけたいと思います。そして、僕とバーリムはこのままでいたいです。僕は、僕でやりたいこと、知りたいことがあります。僕は、僕の望みを諦めたくないです。」
子供みたいな言い分だなと思ったけれども、紛れもない僕の考えだ。
「決してバーリムの望みを拒む訳じゃないです。僕はその望みだけに捉われたくないと思ったんです。」
僕の考えは、分かってもらえるんだろうか。そんな不安が僕の心をいっぱいにする。でも心のどこかで、大丈夫だという思いもある。
ソクエルトさんは僕の考えを聞いて、バーリムの様子を伺う。そしてバーリムが答えてくれる。
「我も、我が望みを“そちら“…カイムと歩む道の中で見つけることを望む。」
この時初めて僕とバーリムは、自分のこれからの在り方、互いの望みを分かちあえた。僕らの関係は一方ではなく、双方が思いを伝えるものに変化した。
「カイムの選択と、貴方たちの望みが明らかにされ、互いにそれを受け入れるということでよろしいですね?」
僕らの様子を見て、ソクエルトさんが僕らに問いかける。
「はい。」
「その通りだ。」
「では互いに、その在り方を私の前で誓い、証を立てていただきます。どうぞこちらにおいでなさい。」
ソクエルトさんが、僕らを大きな流れの近くに来るように言う。
「では貴方たちは…互いに触れて下さい。そのまま私は3度、同じことを貴方たちに問いかけいたします。それに『よく保つ』と返して下さい。」
僕らは言われるまま、もう互いにこうするのが自然だと言う様に触れ合う。バーリムに触れて感じるのは、いつもの僕に向かって波打つ感触。でも、今までとは伝わってくるものが増えた気がする。
ソクエルトさんが僕らに対して問いかける。
「汝ら、互いの望みを知り、どちらも欠けることなく、互いに求め、これを保つか否や。」
『よく保つ』
そう応えた途端、周りの雰囲気が変わった。僕らの周りに多くの存在が現れた。今朝の水捧げで感じた様なものたちだ。でも密度が全然違う。
圧倒されている中で、ソクエルトさんが再び問いかける。
「汝ら、互いの望みを知り、どちらも欠けることなく、互いに求め、これを保つか否や。」
『よく保つ』
僕らを中心に波紋が広がる。波紋に触れたそれらが、波紋をそれぞれに返す。
僕もバーリムも、それらが返す波紋を受ける。自分の中に何かが入ってくる様な感じがする。
受け止めてる中で、最後の問いかけが聴こえる。
「汝ら、互いの望みを知り、どちらも欠けることなく、互いに求め、これを保つか否や。」
『よく保つ』
見えない流れを受けながら、僕らはそれに応える。流れが和いだと思ったら、周りにあった存在が集まり、最後には2つの水玉になる。それはそのまま僕らの中にすっと入っていった。
僕らは直前まで流れを受けるので精一杯だった。でも今は、何もなかったかの様に楽な感じがする。
そんな感覚に浸っていたら、バーリムの声が聞こえた。
「この機会が来るのを、永い間、待っていたのだ。カイム、我が一部よ。これより我らはふたつであり、ひとつのものだ。あちらでは今までと違い、互いの思いが伝わるはずだ。」
僕はバーリムの言葉に精一杯の思いを込めて返す。
「望みをかなえよう。」
ご拝読いただきましてありがとうございます。
これで1章の主要なテーマは終了となります。
5月の始まりから、丁寧にやるつもりが振り返ってみたら、駆け足な部分もあります。
まだまだ稚拙ではございますが、これからも日常と非日常をメリハリをつけて表現していければと思います。
少しペースが落ちますが、長い目でお付き合いくださればと思います。(コロナの混乱が少し落ち着きましたので。)
また、1章が終わりましたら、少し改訂をしていく所存です。




