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1章-19:バーリムの望みを叶える手立て

 選択と誓いを立てたことで、僕とバーリムの在り方は一歩前に進むことになった。どちらか一方が欠けることがなく、僕とバーリムのそれぞれの望みを叶える。今まで通りの自分達でいるというものだ。

 ある意味では当たり前のことだ。でも、当たり前のままでいるということを、2者の間で共有することに意味があるのだと、ソクエルトさんは言う。

 「絶えず波の様に変化するものが、あるべき処はここだと定めることはとても重要です。どう仕様も無い変化が訪れて、自分の立ち位置が変わる事が起きた時、自分が戻るべき場所を分かっていなければ、物事が以前の様にできないこともあり得るのです。自分の有り様を、自分らしく正しく保つ…一辺倒な在り方では、存外見落とすものが多いのだという古代から伝わる教えの1つです。貴方達の普通は今だけで、時が経てばそれもどうなるのか分かりません。だからこそ受け入れられる今を、自分達の進む道なのだと認識できれば、それが大きな楔となって互いの拠り所となることでしょう。」

 そういう訳で、この誓いが僕とバーリムの出発地となった。


 「ここで今、すべきことは終えましたのであちらに戻りましょう。」

 ソクエルトさんがそう言った途端、聖殿の建物に僕等は戻っていた。結構な時間、向こうにいたと思っていたけれども、こっちに戻ってみたらそうでも無かったみたいだ。火が付いた蝋燭の長さが変わっていない。香の匂いもまだ続いているみたいだ。

 「バーリム、カイム、お疲れ様でした。」

 ソクエルトさんが僕らに声をかけたことでハッとして、今ここにいるんだという感覚が追いついてきた。

 「いや大事は無い。其方のおかげで我もカイムも消耗すること無く事を終わらせる事ができた。深く感謝する。」

 「バーリムはこう言ってますがカイムはどうですか?」

 「僕も疲れは大してありません……問題無いと思います。」

 ソクエルトさんの問いかけに僕はそう答えた。それを受けてソクエルトさんが、僕に何か言いたそうに微笑みながら見つめてくる。

 …どうしたんだろう?

 僕はソクエルトさんの意図が分からず、反応に困っているとバーリムが僕に訴えてきた。

 「カイム、我との意思疎通がこちらでもできていることに、あの者は思うところがあるのでは無いか?」

 そう言われて初めて気付いた。僕は今、バーリムとやりとりができている。あっちにいた時のように、ごく自然に。どうもソクエルトさんは、僕の反応を伺っているようだっだ。

 「…バーリムの声が聞こえます。その、ソクエルトさん、ありがとうございます。」

 僕はこう告げると、ソクエルトさんは笑みを深めて僕とバーリムに語りかける。

 「貴方達が語り合えるのが自然であるという今の状況が見れましたので、私も安心いたしました。新たな門出が、より良きものになるように祈っております。では結縁の見立ては異常となります。続いて貴方達のこれからについて指南させて頂きますね。」

 ソクエルトさんは僕ら互いの望みをどう叶えていくのか、その手立てについて聞かせてくれた。


 「まずバーリムの望みに関してですが、これはバーリムをはじめ、カイムも取り組むべきことになります。まず生死を繰返さない存在に至るには、死によって肉体を失っても成す力、訴える力、念う力の3つを発揮できるようにならねばなりません。」

 ソクエルトさんの話では、命を終えた存在は戻るべき場所に至ったら、意思を示すことが出来るものとそうで無いものの2つに分かれるそうだ。

 意思が示せないものは生前、肉体を頼りにし過ぎていて3つの力を発揮する方法を持たず、選択も何も出来ないため、新たな生の道に流されるしかないそうだ。

 対して、意思が示せるものは生前の肉体だけにとらわれず、3つの力を発揮する手立てを持っているので、命を終えて肉体を失くしても、流れから離れて新たな道を選べるそうだ。

 つまりバーリムが望む、生死を繰返さない存在になるためには、僕が命を終えるまでに肉体を頼りとしない3つの力の発現が出来ないとダメなんだそうだ。


 「なるほど。では未だに、我は肉体を介してでしか力を発揮出来ず、道を選択出来る存在に至っていないという事か。こうして教わることで、成すべき事が明らかになるのは実に僥倖(ぎょうこう)であるな。」

 バーリムは今の自分がどういった状態であるのか、どうなれば良いのか理解したらしい。

 一方、僕は話が難し過ぎて置いてけぼり、というよりも肉体を失って物事を行う、というのがどうにも想像できない。僕の命が終わり、肉体を失ってそういう事が出来るのだろうか?

 「カイム、言わなくとも其方の思いは我には充分に伝わっている。我を見よ。現に肉体を失っていて、こうして其方と想いをやり取り出来ているのだ。こうした事が自分達だけでなく、他方にも出来るのだと思えば良い。」

 「そうですよカイム。目の前にバーリムという実例が存在するのです。そして貴方はこの場所に至るまでに、そういったことを自分で受け入れることが出来ていたのです。次はその領域を広げるだけなのですよ。自分が出来ることを広げる、ただそれだけで良いのです。」

 「カイムは頭で理解するよりも、実際に経験しているはずですよ。今朝の水捧げがそれです。あれはバーリムが貴方という肉体を介して、祈りの言葉を聞き留め、唱え、祈りったための出来事です。今は肉体を介する必要がありますが、儀式の祈りを通して、成す力、訴える力、念う力を養えるはずです。」

 今朝の水捧げの儀式がそうであったこと、そこで出来ることだと聞いて僕のモヤモヤは晴れていく。

 「バーリム、カイム、貴方達の望みが叶うかについては、日頃の過ごし方にかかって参ります。今ある手立ては水捧げという水の護り手への祈りがあります。自らの在り方を認め、口にし、どう在りたいかを訴えかけなさい。それが自分とその場の全ての存在にも届き、返ってくるものを受け止めることが3つの力を育む術となることでしょう。」

 ソクエルトさんに水捧げの儀式を通して、3つの力を発揮出来るようにと教えられたことで、バーリムの望みに近づけることが分かった。

ご拝読いただきましてありがとうございます。

少し時間が空きましたが、続きをお届けです。

カイム、バーリムの指針を整理して、次からの展開に進んでまいります。

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