1章-16:聖殿の賢者と縁者の見立て(後編)
「カイム、私が触れることでバーリムは何か変化がありましたか?」
ソクエルトさんがバーリムに触れた状態で訊ねてくる。
バーリムが受け入れた様だったので安心していた僕は、バーリムの様子をもっと捉えようと集中した。ソクエルトさんが触れる場所からバーリムを通じて温もりを感じることができた。
「バーリムは特に抵抗も無く受け入れています。あと、バーリムが感じているソクエルトさんの手の温もりが伝わってきます。」
「分かりました。では今から、私は言葉を使うことなく、バーリムを通してカイムに語りかけてみようと思います。返答も言葉を介するもではなく頭に思い浮かべて、私に答えてみて下さい。」
僕はそれに頷いた。バーリムと初めて会った時と同じだ。あの時と同じことをソクエルトさんにもすれば良いだけのはず。
そう思って待っていたけれど何にも聞こえない。僕はソクエルトさんの様子を伺う。ただ、バーリムがいるところを見つめているだけの様だった。…何か伝えようとしているのかさえも分からない。
しばらくして、ソクエルトさんから息を吐く音が聞こえた。
「カイム、一旦、バーリムから手を離しなさい。そして力の入っているところをほぐす様にして安静にししてそこにかけなさい。」
ソクエルトさんも手を離して、僕に話しかけてくる。結局ソクエルトさんんから伝えられたことは何も分からなかった。
バーリムに触れるため、ずっと前に差し出していた腕がしんどくて、腕を揉みながら座具に腰掛ける。その間、ソクエルトさんはマズルさんを呼んで色々と話し合っている。僕はバーリムを見て、何か変化がないか様子を伺った。けども、まだ大きな変化があった様には感じられない。今回の見立ては、いつかやってくる機会というのには含まれないのだろうか?そんなことを考えていたら、マズルさんとソクエルトさんが僕の前に来て、それぞれが座具に腰掛けた。
「まず、カイムの縁者、バーリムについて話しをしましょう。マズルも今から話す内容はカイムのご両親にきちんと伝えて下さい。」
ソクエルトさんが、僕とマズルさんに、バーリムについて見立ての内容を話してくれた。
「カイムは既に縁者の存在を見て、触れて、意志のある存在だということを理解しています。更に付け加えると、縁者の呼称を用いてることから、結び付きの強さは相当なものであると言えるでしょう。」
そういえば初めてバーリムと会った時、お互いの結びつきを安定させるために名前をつけることになった。あの時はバーリムの声も、僕が言いたいことを伝えることもできた。あの時にしたことが、関係を深めることだったんだと分かった。
「カイムとバーリムの関係は、今は何の問題もないと判断いたします。ただ、これほど結びつきが強いと、それを緩めるよりも、正しい対処などを教える方がいいでしょう。まずは、カイムには縁者についてもっと理解をしてもらうことから始めましょう。」
ソクエルトさんはバーリムと僕の関係は問題がないということ、そして縁者がどういった存在であるのかを教えてくれた。
「まず、皆がそれぞれに持つ縁者というのは、自身が、自分として認識できていない領域の自分であるということです。例えてみると、今ここに腰掛けているカイム、このカイムは間違いなく自分であると思えますよね。」
ソクエルトさんは座具に腰掛けている僕の肩に手を置き、腰掛けている僕が間違いなく僕自身だと分かっているはずだという。言葉にすると頭がこんがらがりそうだけども、僕は僕だ。僕は当然だと思い、ソクエルトさんに頷く。
「でも実は、ここに腰掛けているカイム以外のカイムがいるんだとしたら、どうでしょう?」
その言葉に、ハッとしてバーリムを見る。バーリムは以前、僕はバーリムの一部だと言っていたことを思い出した。その様子にソクエルトさんが微笑んで、話を続ける。
「そうです、腰掛けているカイム以外のカイムとは、バーリムのことを指すのです。バーリムはあなたが普段、自分だと認識できていない領域の自分なのです。そしてこの領域は自分の中にも、外にも広げることができます。先ほど、私とマズルが会話している最中に起こったことがそれです。あれは刹那でしたが、あなたの領域がバーリムを介して広がったことに他なりません。我々はあなたの領域に包まれたことで、正直、泡を食った状態だったのですよ。」
「あれは、僕じゃなくてバーリムがやったんだと思ってます。僕はあの雰囲気が嫌だったので…バーリムが僕に代わって…。」
「同じことなのです。あなたの居心地悪いと感じた心が、領域が広がって、バーリムを中心として広がっただけなのです。これは思いの外、あなたの意志と感情を他の者に訴えかけるものです。あなたは自分とバーリムが繋がっていると分かっていても、それがどう作用するのかをこれから学んでいかなければなりません。…安心しなさい。先ほど、あなたがバーリムと呼ぶ領域のあなたと意思を伝え合いました。この後、少し休憩をしてカイム、バーリム、私で話をいたしましょう。」
そう言ってソクエルトさんは奥に控えていた人を呼び、休憩後に必要なものを用意させた。そうしてるとマズルさんが、ソクエルトさんに僕が祈りの言葉を唱えたことについて報告をし始めた。
「総教師、カイムは朝の水捧げの勤めの時、我々の使う古代語を、現代語に言い換えて儀式を行なっていたのですがこれはどう言ったことなのでしょうか?先ほどのお話しだと、これも総教師はお心当たりがついておられる様ですが…。」
それを聞いたソクエルトさんは、僕を見ながら答える。
「カイムはおそらく、縁者バーリムとの繋がりによって、耳にする言葉などの本質を捉えているのでしょう。私の見立てではバーリムという縁者は相当に高次元な存在である様です。それがあらゆる面でカイムの補佐をしていると判断いたします。カイム、先ほど言葉を交わさない様にしてから、私の意思を汲み取ることはできましたか?」
ソクエルトさんはバーリムを介しての意思のやり取りについて、僕ができたのかを確認した。当然、僕は何も聞こえなかったのでその様に答える。
「カイムは今、縁者バーリムが介さないと我々の縁者も捉えられないでしょう。しかし、あれ程の存在です。たった1度の対峙でも、普通の者ではなし得ない結びつきが行われることでしょう。正直、呼称を与えてるのも驚きでした。」
「そんなことが…。はっきり言って、目にしてても信じられません。それほどの存在がどうして実体を乗っ取らないのか不思議です。」
「そういうものだと受け入れなさいな。本来我々は、表層的な自己心理で物事を捉えることができません。縁者との自己一致を成して初めて、深層的に物事を捉えることが出来るのですから…。」
何かよく分からないけれども2人にとって、バーリムは普通の縁者では無いということは分かった。…そう言われても、関係を深めるのを避けるため、バーリムをより知ることもできなかった僕には、どうしようもないことだった。
ご拝読いただきありがとうございます。
少し空いて3パートまとめてのお届けでした。
成文しながら、今回は非常に丁寧にしたいという気持ちと、掘り下げすぎても読者様に伝わるのか、そんなことで頭はいっぱいでした。
でも、カイムが幼いのでそれに合わせたセリフ回しと、視点で程よい程度になったのではないかと思います。
それでもシチュエーションはマニアックなのは否めませんね。
今回は間も手の触れ込みの通り、宗教的あるいはスピリチュアル成分が100%といえる内容です。
こういうのが苦にならない読者様から、ご意見とかも頂けたらと思います。




