1章‐15:聖殿の賢者と縁者の見立て(中編)
「では時間も惜しいので、挨拶は程々にいたしましょう。まずは…何やら問いたそうにしているマズルの方から片付けましょうか。」
「恐れ入ります。…何故に今回、自ら業務管轄課にお足をお運びになり、カイムの結縁見定めにお出ましになられたのですか?」
マズルさんは、案内の人から聞いたソクエルトさんの行動が納得できないらしい。その訳を求めた。
「大方、貴方が予想している通りでしょう。今朝の儀式の最中、正殿の中で突如起きた異変に当てられて、私はとある予感がよぎりました。面会受付時間中だったこともあり、本日の面会希望者に、この異変に関係する者の来訪があると確信いたしました。そんな中、数ある面会希望の中から唯一、付添人に聖殿関係者である貴方の名前が記された面会届けを見つけましたので、これに自ら先達を申し出たのです。」
その説明に、マズルさんはバツが悪そうな顔をして息を吐いた。
「そんなことをされては、この届け出に要らぬ噂が発ちます。ただでさえ午後の予定を全て白紙になさったのでございましょう?」
この問いかけに、ソクエルトさんは柔らかい表情から厳格なものに変わり語気を改める。
「…マズル詠唱師。そんな些末なことに気を取られて成すべきことを成さず、岐路に立つこの幼子に与えられる貴重な機会が失われることを、良しとするのですか?他でもない貴方が。」
さっきまでのソクエルトさんの朗らかな雰囲気が一変して、有無を言わせないものになる。マズルさんは痛みを感じる様な顔で言葉を捻り出した。
「考えが及ばず申し訳ございません。彼女の息子であるが故に、私は要らぬ気を回していた様です…。」
「いつまでもここを去った者に囚われてはなりません。貴方が目をむけるべきなのは個人では無く、万人であるべきなのですよ。彼女の息子の前では、よりそうあるべきだと思いませんか?」
ソクエルトさんはマズルさんを思いやるように言い聞かせている。僕の母さんも関係あるみたいだけど、聞くに聞けない雰囲気だ。こういう時は何も言わない方が正解だと、僕は過去の経験から学んでいる。でも、僕は居た堪れないこの雰囲気は何とかしたい。
すると普段は僕の周りから離れないバーリムが、ソクエルトさんの目前で水玉である自身を波立たせた。またこの場所にバーリムから波紋が広がる。僕は見ているしかできないけれど、バーリムが何とかしてくれるみたい。
バーリムが放ったのはゆっくりと広がっていく波紋1つだけだった。それがこの場所に行き渡るのにどのくらい時間がかかっただろう。実際はたいした時間じゃないのだろうけれど、いつかのように時間が止まっているかのように感じられた。
ソクエルトさんは僕とバーリムを交互に見つめ、マズルさんは辺りを見回している。
結構派手にやっちゃった…?
さっきまでの気不味い雰囲気は何とかなったものの、バーリムの仕業を目の当たりにした2人を見て、加減をバーリムにしてもらわないといけないと思った。
「本題に入りましょう。マズルはこの子の両親に内容を伝えるためにも同席して下さい。」
ソクエルトさんは、さらっと切り替えて言った。僕もコクコクといきおい良く頷く。マズルさんもそこからは黙って見守る事になった。
「カイム、これからいくつか確認することがあるので質問に答えて下さいね。出来るだけ頭で考えるのでは無く、直感で答えて下さい。それと、言葉は崩してくれて結構です。変に力まないで良いですよ。」
ソクエルトさんは僕の前まで来て、僕にそう告げた。
「まず貴方は、どうしてここに来たのか分かっていますか?」
「はい。縁者のことについて教えてもらうためです。」
僕は即答する。
「その理由を知って、貴方はどう思いましたか?」
「最初は何か後ろめたい気持ちでした。両親にもどう話せば良いのか自分には分からなかったので。だけど話をして、僕だけじゃなく、両親も他の人たちも、同じようなものが側にいるんだと言ってくれて安心しました。そしてこの縁者についてもっと知りたいと思いました。」
「縁者について知って、貴方はどうなると思いますか?」
「僕の縁者、バーリムが僕に託した望みが何なのかを知ることができます。」
「バーリムというのは貴方の縁者ですね?」
「はい。」
「バーリムは今、貴方の側にいますか?」
「はい。」
「バーリムは今どうしていますか?」
「今まで通り、水玉みたな格好で僕とソクエルトさんの間の、ここにいます。」
僕はバーリムがいる場所を指差して、ソクエルトさんに伝える。
「カイムは今、バーリムに触れることができますか?触れれるなら、どんなか感じがするか教えて下さい。」
僕はその場所からバーリムに向かって手を伸ばす。
初めて触れた時のように、水みたいなのに、手が濡れるような感じがしない。
僕は目を閉じる。寄せられる波立ちは前よりも強く感じる。波を感じていたら、どこからか風が吹いて来た。目を閉じているのに、陽の光に照らされている感覚もある。照りつけられて僕の肌が火照ってくる。またそれを風が柔らかくて撫でて、鎮まるのが心地良い。
「触っていると陽に照らされて、風に吹かれたりして、気持ちいいです。」
僕はバーリムに触れていることで感じることをソクエルトさんに伝える。
「ならばカイム、私がバーリムに触ることは可能ですか?可能であれば触れる許可を出して下さい。」
えっ?ソクエルトさんもバーリムに触れられるの?
ソクエルトさんの言葉に僕はとても驚かされた。僕はバーリムを見て、僕以外の人が触れることを伝えるのと同時に、その光景を思い浮かべてみた。…特に嫌な気もしない。僕はソクエルトさんにもバーリムに触れてもらうことにした。
「僕は大丈夫です。ただ、バーリムがどう思うかまでは分かりません。」
「そうですか。では失礼して…。」
僕はソクエルトさんの方にバーリムが移動する様にと、手を前に出す。その延長線上にソクエルトさんの手が平然と差し出される。…波打が激しくなったり、水玉が大きく膨れ上がったりすることもなく、バーリムは穏やかに受け入れた。ソクエルトさんに触れられたことに、僕は安心を覚えたのだった。
ご拝読いただきましてありがとうございます。
3パートまとめてお届けです。
続きも是非お付き合いください。




