1章-13:出来事の振り返りとマズルの気付き
マズルさんは、人同士の関係はそのまま、人と縁者にも当てはまると言う。
「縁者の個性、性格はそれぞれ違うんだ。言ってみれば人の数だけ、多種多様の縁者がいるということだね。2つとして同じものがいないというのは、我々、人と同じだと思わないかい?」
「僕たち1人1人が違うから、縁者も違うと母さんから聞きました。でもそれは母さんの話だけでは、よく分からなかったんです。…今朝の水捧げの出来事で、ようやく分かった気がします。」
今朝の聖殿での出来事の最中、僕はマズルさんの縁者らしき存在を感じ取っていた。
「あれには本当に驚いたよ。カイム、お母さんから縁者と深く結びつくのはまだ早いと言われていただろう?あんなことがあったから、聖殿で見立ててもらう前に話ておかなければいけないと思ったんだ。今ならある程度、君の中で整理ができているんじゃないかと思ったんだけれども、どうだい?」
マズルさんは見立てまでに、僕にあの時の話してほしいと言う。
僕も何が起きたのかはよく分かっていない。いつものように水捧げの祈りに気を向けようとしただけのことだった。そして、僕は今までバーリムと関係が深まるようなことは何もしていない。そのことをそのままマズルさんに聞いてもらう。
「僕は縁者と深く結びつく様なことはしてないです。でも、今日の水捧げの時、いつもと違う雰囲気だなとは思いました。そしたら祈りの言葉を唱えている僕の姿を見ている状態になって…。」
あの出来事についてと、母さんに言われたことをちゃんと守っていたとを説明する。話をしながら、僕は自分に起きたことを振り返った。思えば、自分の後ろ姿を見るなんて、こんな不思議なことはそうそうないね。
するとマズルさんは、別の疑問に思うことについてたずねてきた。
「そもそも、カイムは祈りの言葉をどうやって知ったんだい?お母さんから聞いたのかい?」
「母さんではなく、父さんに祈りの言葉について意味は聞きました。それ以外は、いつも朝の水汲みで、マズルさんが唱える祈りを聞いてたくらいです。」
これが僕の今までに祈りの言葉に触れた機会だと、それ以外は何もないとマズルさんに伝える。
マズルさんは眉間に深くしわをよせて、僕に言葉を返す。
「それはおかしいだろう。祈りで使っているのは、普段私たちが使っている言葉ではない。古い別の国の言葉だ。それを毎朝聴いていたとしても、全く間違うことなく普段使いの言葉に置き換えるというのは…ちゃんと教わってないとできないことだ。君は、それをお母さんから教わってないと言うのかい?」
「…え?マズルさん、普段の言葉で祈りを唱えてたんじゃないんですか!?」
「私ま今まで1度も、普段の言葉で祈りをしたことは無い。…カイム、今ここで、水捧げの祈りの言葉を唱えることはできるかい?」
そう言われた僕は、水捧げの言葉を唱えようとする。
途端に頭がすぅっと空っぽになって口が動き始めた。
…気が付けば、あの時の様に自分で祈りを唱え終わっていた。この祈りの最中も、弱かったけれどバーリムとそれに反応した何か、マズルさんの縁者の存在、全てが同じだった。
「…もはや疑いようが無いな。」
マズルさんが、今も祈りを唱えられた僕を見て呟く。
「カイム、君はある理由で、祈りに使われる古代の言葉を普段の言葉として聴いて、憶えている。そしてどこであっても、唱えると儀式ができる状態になっているようだ。」
マズルさんが何か突拍子もないことを言い出した。もう何がなんだか分からない。
「カイム、急いで宿場に戻って、聖殿への礼の品を持っていこう。聖殿の見立てを受けないことにはどう仕様もない。」
マズルさんは僕を急かし、宿場に戻ることになった。預けてあった母さんが用意してくれた絹の布と薬草の包みを手に持って宿場を出た。
昼食後の面会約束だったけど少し早くに着いた。朝と同じ水汲み場で、口と手を清める。朝に水を捧げているけども、それでも清めを行うのだそうだ。清めが終われば、マズルさんと一緒に面会を申込んだ建物に入っていく。
「へーラナ聖殿、トリオウノ派所属、詠唱師のマズル・オクシスです。今朝に結縁の見立てを申し込んでおります。ご指定の時間より早いですが、約束をさせて頂いておりますので、お取次お願いいたします。」
「承っております、どうぞこちらへ。この部屋でお待ち下さい。」
僕とマズルさんは6人程が入れる部屋に通された。入るとほのかに甘い匂いが、部屋中にこもっていた。
「マズルさん、この匂いは何ですか?」
「これはお香の匂いだ。熱を加えることで匂いを放つんだよ。」
僕は初めてのお香の匂いに、すんすんと鼻を利かせる。自然と安らげる柔らかな匂いだった。
「清めはこちらでいたしますので、おかまいなく。」
マズルさんは案内の人にそう言って、部屋に置いてある道具を使って煙を立たせた。部屋中に濃厚な匂いが新たに広がっていく。そしてマズルさんは煙に自分の手をかざしたり、煙を手で仰ぎ寄せたりしている。続いて僕にも煙に手をかざさせ、煙を仰いで僕に浴びさせる。お香の匂いでが初めてで、浮き立っていた気持ちも自然と静まってきた。
「やはり香の匂いというのは落ち着くな。好奇心旺盛なカイムにも効果的面だったようだし、見定めを受けるまでは安静にしていなさい。」
「はい。」
そうして待っているうちに、案内の人が僕らを呼びに来た。
僕はバーリムに目を向ける。そこには、いつもと同じように浮かぶ水玉が浮かんでいる。これから僕とバーリムのことについて、もっと知ることができるんだと期待を胸に、僕は待合室を出た。
ご拝読いただきましてありがとうございます。
本来は、3年後の職業登録の為に都に行く時に受けるのですが、カイムは早くにバーリムとの結び付きが強くなったので今からと言った状況です。
そしてそんな最中、マズルさんが告げて、新たに見つかった新事実。
マズルさんは自分ては対処できないからと急ぎ聖殿へ。
次から、カイムとバーリムの関係について掘り下げていくことになります。
数パートにまたぐことになりますので、長い目でお付き合いください。




