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1章-12:都散策とマズルとの語らい

 集落の問題についての話し合いが終わると、今日の予定について確認する。

 あちらの長と管理人さん2人は役所で話し合い、僕らの長は1人で他の集落の長に相談、僕とマズルさんは昼以降に聖殿で面会。3つに分かれて行動することになった。そして、全ての用事が終わる時間の見当がつかない。

 「こうなると、昼食も一緒にとるのも難しいかな。」

 僕らの長が、昼食は各自で取るしか無いだろうと言う。そしてマズルさん、集落の管理人さんそれぞれにお金を渡していく。

 「昼食の支払い分だ。代金をふっかけてくる店には気をつける様に。今日は1日、各自で過ごす事になるが用事がすめば宿場に戻ってくれ。夕食は一緒にとって、1日の報告を行おう。」

 僕とマズルさんを除く4人はこの場所を後にした。

 さて、僕ら2人は用事まで時間ができた。これからどうしようかと考えるが答えは1つしかない。せっかくの都に来たんだ、色々と見て回りたい。

 考えはお見通しだよ、という表情を浮かべたマズルさんと僕は目を合わせる。

 「ではまず、宿場に聖殿へのお礼の品をとりに戻ろう。その最中、商店などを見て回るので良いかい?」

 「はい。」


 2人で気のまま、商店や露店が並ぶ通りを歩く。朝程の人出はなかったが、それでもみんなが品を求めて、通りは賑わっていた。

 露店は食糧を扱っているところが多い。商店はその店独自の商品を扱っているみたいだ。色々と見て回りながらある商店で足が止まった。色々な金属製品を扱っている店だった。

 「マズルさん、ここに入ってもいいですか?」

 「ああ、良いとも。」

 中に入ると色々な素材でできた日用品が並んでいる。そんな中で僕の目が向いたのは、大工道具である鉄製の(のみ)一式だった。

 父さんも仕事道具として持っているけど、こういった道具は持っているだけで一財産になる。父さんの仕事道具は職人の腕と信頼を表すもので、都から下賜されたものなのだそうだ。そういったものだと思っていた職人道具の扱いが、集落と違うことに驚いた。


 「その道具は…ドルドの仕事道具と同じものか。やっぱりカイムも父親と同じ道に進むつもりかい?」

 「父さんは大工職人の仕事は、昔に比べて少なくなっていると言っていました。集落の開拓が減ってきているだからだそうです。前に、新集落に行って父さんの手伝いをすると言いましたけど、父さんは考えさせてくれって。」

 「確かに昔と比べて、新集落の開拓数は減っているからな。大工職人の主要な仕事である家屋の建築が減っている状態なら、ドルドがそういうのも仕方ない。」

 仕事が減っているならば、大工職人として色々な場所に行くのも少なということだ。それは僕が大工職人になりたい1番の理由が失われることでもある。

 都から、腕のある大工職人とされている父さんは誇らしい。

 けれども、僕が大工職人を目指すのは仕事で行く場所を、自分で見て、聞いて、感じることができると思ったからだ。腕を評価される大工職人になることが1番じゃない。

 父さんは大工職人として、僕の考えが仕事をする上で、折り合いがつかないと考えているみたいだ。

 僕が今のまま大工職人になるのは、父さんに認めてもらえないかもしれない。

 そんな不安な気持ちを胸に溜めながら、僕は(のみ)を見ていた。


 しばらく店内を見ていたら鉄製品が多いのに気付いた。よく使われる刃物の包丁、裁縫の断ちはさみ、よく分からないものも鉄製品として並んでいる。

 「マズルさん、都ではこういった道具も鉄のものを使うのが普通なのですか?」

 「今でこそ当たり前になっているが、10数年前はここまで品揃えは無かったと思う。ここに並んでいるものは、私も使い方が分からない物も多いかな。」

 そこからは、鉄製品を色々見ては店主さんに使い方などを尋ねた。店主さんの話だとここ最近、鉄でものを作る技術が上がり鉄製品が増えてきてるらしい。

 ここでも好奇心が抑えられず、店主さんんを付き合わせたお詫びに、マズルさんが儀式で使う道具と併せて、父さんと母さんへの土産として、木材の表面を平すヤスリと銅製の裁縫針を買ってくれた。代金はマズルさんが管理人として、集落から入るものから出してくれた。

 

 昼時になり、聖殿の面会があるので軽い目ですますことにした。

 「役所での話、どうなってますかね。」

 僕は昼食を取りながら問いかける。

 「比較的上手くいく条件だと思う。まあ、伝手のある人物が話を聞いてくれる人物であればだが。こればかりは結果が出ないと分からないな。」

 たとえ、支援をすると言っても、こっちが困っている状況を利用し、自分に利益が入るようにする人がいるらしい。僕の身の周りにはそういう大人がいなかったので、いまいちピンとこない。

 そんな僕を見てマズルさんは言う。

 「何かを依頼されて、依頼者が望んだ通りの結果が出たとしよう。協力したのだから、報酬を貰うのは当然だ。これは我々の集落でも普通に行われているだろう?けれど結果が出ていないのに、先に報酬を出せと言ってくる者を、はたして信頼できるのかどうかと言う話だよ。」

 「でも伝手がある人なので、信頼して良いんじゃないんですか?」

 「最初から疑ってかかるのは良くないことだけども、初対面の者同士の場では控えるべきだ。相手とよく話をして、相手がこちらの話を聞く気があるか、言っていることに嘘がないかを見極めないといけない。そして、信頼とはそういったものが積み重なって、初めて結べるものなんだ。カイム、君は今まで両親が信頼を得て、両親が信頼をおく者ばかりの、あの集落で育った。良い関係とはどういったものか知っている。しかし、人は良いものだけで結びつくのではないんだ。」

 僕は、マズルさんの話を聞いているうちに、ある存在にも当てはまると気付いた。

 「人は信頼・愛情といった、比較的良いもので繋がりを持とうとするけども、これよりも強く、人と人を結びつけるものがある。憎悪・妬みといったもの、悪感情と言われるものがそれなんだ。これで結びついてしまった関係はちょっとやそっとのことでは断ち切れないんだ。」

 マズルさんは痛みを感じるかのような顔で僕に語りかける。

 「君はあの集落で本当に良い人たちに囲まれて、人との良い関係しか知らない。でも、みんながあの集落の様に良い人ばかりではない。これは縁者という存在にも当てはまるんだ。」

 それからマズルさんと、今朝の出来事を振り返るのだった。

ご拝読いただきましてありがとうございます。

今回の話は物語の分岐点、前振りです。

カイムの周りにあったものは、他所とは違うこと、人が持つ繋がりの良いものと、悪いものがあること。

それがそのまま、縁者というものにも当てはまるということ。

カイムはいわゆる無垢な存在で今まで過ごしてきました。

でもそれは周りに守られて、保たれていただけに過ぎません。

これから、自分が見る世界を広げていきたいと思っているカイムに、現実が突きつけられる段階に入りました。

この先のお話、朝の水捧げでの出来事と聖殿の見立てと続けて、カイムには向き合うべきものが出てきます。

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