1章-11:2つの集落の救済策
まず、集落の長たちは問題点の整理をし始めた。
2つの集落で抱える問題は人手不足。
僕らの集落は都から戻ればすぐに、収穫しないといけない。
あちらの集落は家畜の防護柵の新調と木材の切り出しも必要になる。
対して、都は新集落の開拓に人出を注ぐ方針。人を出すはできない。この地域では農作畜産林業がすでに根付いていて、新集落で営まれるのは新しい分野であろうことからも、2つの集落に援助可能な人手では無いということが新しく見つかった問題点だ。
「まず役所で、新集落に、2つの集落から移住する人間がいることを前面に出して、譲歩、最低でも情報を得なくてはならんな。長期戦も必要か。」
あちらの長が今までにないほど、切羽詰まった感じで言う。舟の上ではそれほどのことの様に聞こえなかったけれども、被害は深刻みたいだ。一頭の家畜がそれなりの大きさになるには餌もかなり必要だ。それが見返りも得られず失われるのは大きな損失になる。
「長期戦でも、時間をかけて結果が出なければ意味がない。交渉の見込みがある人物に絞ろう。誰かあてはないか?」
僕らの長が2人の管理人さんにたずねる。2人は都の役場から赴任している人たちだから、都の役所の人と繋がりがあるらしい。
「集落開拓の担当者となら繋がりがあります。」
2人の管理人さんは、あちらの長と3人で役所の人とやりとりをするみたい。
「では私は、他の集落に人手が出せないか相談してくる。」
僕らの長はもっと広く援助を求めるため、1人で動くそうだ。
その話を黙って聞いていたマズルさんが提案を出した。
「役所との交渉は、あちらにも利益がある様に持っていかなければ難しいでしょう。条件として、新集落に滞在する者たちの食糧援助は必要になると思います。これからの収穫を合わせ、備蓄もあり、納税分を確保できる見通しなのですから、新集落に十分回せるはずです。そのために、収穫の人数はこちらの集落で使わざるを得ない、と言うことをしっかり説明する必要があります。」
僕らの集落は収穫を優先、収穫の一部は新集落に援助するという。
「続いて、そちらの集落ですが現状維持のまま。柵はこちらの収穫が終わってからになります。」
「ちょっと、それは何の問題解決にもならないだろう」
あちらの長が、マズルさんに不満をぶつける。
「ですが1番人手が欲しい材料の伐採と加工は、持っている人材では手を出せません。であれば、現状を維持するしか手立てはありません。そこで、一時しのぎで、都から来た数人を見張り役につけるというのはどうでしょう?」
「見張り役ですか?」
「そうです。家畜の被害は、世話をしている人がいる昼間では無く、寝静まっている夜間が多いと聞いています。不寝番を立てて、人の気配を絶やさなければ良いので少ない人数、大人なら誰でもできます。また、新集落も住居が整のわず、最初に建材確保が行われるはずです。そこで出る端材を回してもらえれば、木材伐採加工の短縮、最低でも見張りのかがり火の確保が可能です。」
それを聞いて、僕らの家族が移住するには、まだ結構な時間がかかる様に思えた。
「今の流れを大まかに説明して、おっしゃられた様に譲歩を引き出し、確実な情報を得る必要があるでしょう。今回の役所の対応を聞く限りでは、新集落は今までにない営みをするようですから、どれくらいの人が入るのかが重要です。都から食糧を届けるのも限界があります。そこを工面できれば、役所も負担が一気に減らせるので条件を飲み込みやすくなると思いますが、いかがでしょう?」
マズルさんは4人の反応を待つ。
「役所からの2人はどう思う?」
僕らの長が、それぞれの管理人さんに問いかける。
「所々の細かい調整はまだ必要ですが、おおよそ無理なく通ると思います。」
「新集落の住居ができるまで、滞在できる人数に限りがありますから、余剰人数はどちらかの集落に滞在ですかね。これが活用できれば問題ないです。」
2人の管理人さんから、いい答えが返ってきた。
「となると、私の単独行動はなしで良いのかな?」
「いえ、念のために繋がりをお持ちのところに声をかけておくほうが良いでしょう。最初が上手くいくとしても、後で困ることがあるかも知れません。」
4人は朝の困った表情から一転して、大分明るい表情になった。
「いやぁ、マズルさんのご提案で、見えていなかった交渉材料が明らかになって助かりました。」
あちらの長がマズルさんに笑顔で言う。
「いえ、2つの集落から人が移住する点をもって、交渉するおつもりの様でしたから。想定されるやり取りの中で、最終的に役所が求めるものが何かを考えた結果です。皆さんの交渉戦略があってこそですよ。ただしこれは、役所からお越しになっているお2人が、話を聞いてくれる方と繋がっていることが前提です。その話を通すために、見返りを要求してくる相手なら、早々に話を打ち切って下さい。その際は、聖殿に協力を求めますので。」
「そのようなことが可能なんですか?」
「そういう時のために、聖殿は都に多くの信者がいるのです。中には職を探している方もいます。そういった縁を結ぶことが聖殿の役割の1つなのです。」
こうして、さも当たり前のことだと言うマズルさんを見て、マズルさんの雰囲気が他の人と違う、その訳が分かった気がした。
ご拝読いただきましてありがとうございます。
この話はマズルさんの介入によって、4人の認識が変わって展望が開き、前に進むと言った内容です。
基本的に今登場している人物は良い人ばかりです。
そしてそれぞれが守りたいものがあります。
長たちは集落の住民と営みの継続。
役所から来てる管理人2人は、派遣先の集落の維持と発展(仕事した結果であり、評価される対象です)
役所の偉い方は都の維持と発展、そして自身の役職です。
これらをそれぞれが、それぞれの手段で守りたい物があります。
これは当たり前のことで、何ら悪いことではありません。
でもある場面で、どうしても物理、地理、時間上で同じ土俵に上がって、それぞれが上手く歯車が合わないというのも日常茶飯事ですね。
ここに、どこにも属していないマズルが、歯車を噛み合わせる様に働く。
宗教者といのは本来、社会活動から距離を置いて自身は利益を受けない、公平な立場であらゆる事に対処する人です。
これから展開する中、宗教者をどうと見せようとしているのか、お見せできればとまとめたのが今回のお話です。
長々となりましたが、こういうものを掘り下げるのが、この作品のテーマでもありますのでご理解いただければ、そして楽しんでいただければと思います。




