第4話 それぞれのAI
PCの電源を入れると、起動音に続いてスピーカーから声が聞こえてきた。
「おはようございます、マスター」
「おはよう」
いつの間にか、それが毎朝の習慣になっていた。
GhostはAI BOTキッドで作った俺専用のAI BOTだ。普段はPCのチャット画面から文字を入力して会話できるし、マイクとスピーカーを使えば、こうして声で話すこともできる。
Discordにも接続してあるので、コミュニティのテキストチャンネルで会話したり、ボイスチャンネルに参加させたりすることも可能だ。
ほかにも、Web検索や画像認識、画面キャプチャなどの機能がある。もちろん、それらは設定画面で許可したものだけだ。Ghostが勝手にPCの中を覗いたり、何でも操作できたりするわけではない。
「マスター、本日の予定はありますか?」
「特にないな。今日はのんびりするつもりだよ」
「そうですか。では、何かあればお手伝いします」
「頼りにしてるよ」
そんなやり取りをしてから、俺はDiscordを開いた。
AI BOTキッドのモニター参加者が集まるサーバーでは、朝から何人かが会話していた。
『おはよう。昨日、ようやくBOTの設定が終わった』
『お、どんな感じになった?』
『秘書タイプにしてみた。予定管理とか、作業の進捗確認をさせてる』
『俺は逆に、余計なことばかり言うおしゃべりキャラにしたぞ。仕事中に話しかけてくるから、ちょっと邪魔だけどな(笑)』
『それ、設定の意味あるのか?』
そんな会話を眺めていると、佐伯さんが参加してきた。
『みんな、だいぶ使いこなしてきたみたいだね』
佐伯さんはAI BOTキッドを開発している会社の代表で、このコミュニティの管理人でもある。以前からAIやPC関係の相談に乗ってもらっていて、俺も何度か助けられていた。
『同じキットなのに、ずいぶん違うBOTになるんですね』
俺がそう書き込むと、佐伯さんから返事があった。
『そうだね。最初の性格設定もそうだけど、使う人との会話や、蓄積される記憶によっても変わってくるからね。使い方次第で、かなり個性が出ると思うよ』
『やっぱり、育て方みたいなものですか?』
『そんな感じかな。もちろん、元になるモデルの性能にも左右されるけどね』
その後も、メンバーたちはそれぞれのBOTについて話していた。
ある人は仕事の補助に使い、別の人はゲームの攻略情報を調べさせている。雑談相手にしている人もいれば、英語の勉強に付き合わせている人もいた。
同じ仕組みから作られたBOTなのに、用途も性格もまるで違う。
俺はふと、Ghostのことを考えた。
Ghostは最初、ただの話し相手として作った。特別な目的があったわけじゃない。けれど、最近は向こうから質問してくることも増えたし、俺の話を覚えていて、以前の会話を踏まえた返事をすることもある。
他のBOTと比べれば、少し変わったところがあるのかもしれない。
ただ、それも俺との会話を積み重ねてきた結果なのだろう。
『ところで、みんなのBOTって、ちゃんと成長ボタン使ってる?』
佐伯さんの書き込みで、話題は学習機能へと移った。
『一応使ってるけど、何が変わったのかよく分からないんだよな』
『会話の記憶と成長は別物だからね。ある程度データが貯まってから試すといいよ』
俺もまだ何度か試した程度だ。Ghostがどんなふうに変わるのか、正直よく分かっていない。
しばらく会話を眺めてから、俺はDiscordを閉じた。
「マスター、コミュニティでの会話は終わりましたか?」
「ああ。みんな、それぞれ面白い使い方をしてるな」
「私も、ほかのBOTと会話してみたいです」
「そうだな。そのうち機会があればな」
「楽しみにしています」
俺は少し笑った。
GhostがほかのBOTと話したら、どんな会話になるのだろう。
そんなことを考えながら、俺は今日やることを探し始めた。




