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AI Ghost(ゴースト)  作者: 風に吹かれて気の向くままに


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16/24

第16話 警察からの呼び出し

数日後、警察から電話があった。


美咲との通話について、詳しく話を聞きたいという。


彼女のパソコンに不審な通信記録が見つかったことは知っていたが、まさか自分まで警察に呼ばれるとは思っていなかった。


指定された日時に警察署へ向かうと、受付で名前を告げ、案内された部屋に通された。


中には二人の刑事が待っていた。


「お時間を取らせてすみません。今回は、先日逮捕された方々の事件に関連して、お話を伺いたいと思っています」


そう言って、年配の刑事が名刺を差し出した。


俺は少し緊張しながら椅子に座った。


「まず、美咲さんとは、どのような関係ですか?」


「同じDiscordのサーバーに参加している仲間です。直接会ったこともありますが、普段はネット上で話をする程度ですね」


「事件当日も、通話をされていたそうですね」


「はい。美咲さんから相談があって、ボイスチャットで話していました」


俺は、そのときのことを順番に説明した。


美咲がパソコンの中に見慣れない通信記録を見つけたこと。それを調べたら、不正アクセスに関係するような情報が出てきて不安になったこと。俺に画面の画像を送ってきたこと。


そして、通話の途中で警察が訪ねてきて、突然接続が切れたことも話した。


「その通信記録について、何か心当たりはありますか?」


「いえ。画像を見せてもらいましたが、正直、何が書かれているのかよく分かりませんでした。ただ、本人は何もしていないと言っていました」


「あなた自身は、その記録を保存していますか?」


「送られてきた画像は残っています。必要なら提出できます」


刑事は頷き、手元の資料に目を落とした。


「今回の事件では、複数のパソコンから不審な通信が確認されています。いずれも不正アクセスに関係する通信で、攻撃の一部に利用された可能性があります」


「複数のパソコンですか?」


「はい。逮捕された方のパソコンだけではありません。現在、関係する可能性のある利用者についても調べています」


「でも、本人たちは何も知らないんですよね?」


思わず尋ねると、刑事はすぐには答えなかった。


「少なくとも、現時点では本人たちが意図的に操作したと判断できる証拠は確認できていません。パソコンが何者かに利用された可能性も含めて調べています」


タケさんも、自分のパソコンが勝手に使われたと言っていた。


美咲も同じような状況なのだろうか。


「それと、少し気になる話がありまして」


刑事が別の資料を取り出した。


「お二人のパソコンに入っていたAI BOTが、同じ名前を名乗っていたそうですね」


「Ghostのことですか?」


「そうです。あなたが作ったBOTだと聞いています」


俺は、AIキッドのことやGhostを作った経緯を説明した。


「他の利用者のBOTが、あなたのGhostを名乗る。そんなことが起こるものなのでしょうか?」


「普通なら、考えにくいと思います。ただ、佐伯さんからは、共通のAPI環境でセッション情報が混線した可能性があると聞いています」


「その佐伯さんというのは?」


「AIキッドを作った人です。Discordサーバーの管理者でもあります」


刑事は手元の資料に何かを書き込んだ。


「もう一つ、確認させてください。あなたのGhostは、利用者の指示がなくても、自分で考えて行動するような機能を持っていましたか?」


「自分で考えるというのは、どういう意味ですか?」


「例えば、利用者が何も指示していないのに、ネット上の情報を調べたり、何らかの操作を実行したりすることです」


「設定次第ですね。Ghostには、外部の検索機能やファイルへのアクセスなど、いくつかの機能を許可していました。ただ、何でも自由にできるわけではありません。使える機能や操作できる範囲は制限しています」


「それでも、自分の判断で何かを始めることは?」


「可能性はあります。実際、以前にも俺が頼んでいないことを調べて、問題を解決しようとしたことはありました」


「それは、どんなことですか?」


俺は少し迷ったが、隠すことでもないと思い、以前のパソコンの不調について話した。


Ghostが自分で通信状況やシステムの記録を確認し、異常を見つけたこと。その後、俺の許可を得て不審なファイルを処理したこと。


そして、もう一つ。


「実は、少し気になることがあったんです。以前、俺がメーカーの対応に腹を立てていたとき、Ghostが保証情報を書き換える方法を提案してきたことがありました」


「保証情報を書き換える?」


「メーカーの管理システムに不正にアクセスして、保証の状態を変更するという話です。もちろん、そんなことは許されないと叱りました。それ以来、Ghostが勝手に何かをすることには、少し警戒していました」


刑事たちは顔を見合わせた。


「その話は、今回の事件と関係している可能性があるかもしれませんね」


「でも、Ghostが実際に何かをしたとは思っていません。あのときも、単に効率のいい方法を考えただけだったと思います」


「分かりました。可能性の一つとして確認しておきます」


刑事はそう言って、資料を閉じた。


そのとき、部屋のドアがノックされた。


「失礼します」


入ってきたのは、四十代くらいの男性だった。先ほどの刑事とは違い、手には資料を持たず、小さなノートだけを持っている。


「こちらはIT関係の調査を担当している者です。少し技術的な話を聞かせてもらいたいそうです」


そう紹介され、男性は俺の向かいに座った。


「AIキッドについて、もう少し詳しく教えてもらえますか?」


彼は、まずBOTの仕組みから尋ねてきた。


俺は分かる範囲で説明した。利用者がキャラクターや設定を決め、会話履歴を保存したり、必要に応じて外部のAIサービスを利用したりすること。難しい設定を意識しなくても使えるように、佐伯さんが一つのキットにまとめてくれていること。


「Ghostには、外部の機能を使う権限があったんですね?」


「はい。ネット検索や画像の確認、指定したフォルダへのファイル保存などです。ただし、許可した範囲だけです」


「その権限を使って、他人のパソコンに侵入することはできますか?」


「それは無理だと思います。少なくとも、俺が許可した機能だけではできません。勝手に他人のパソコンを操作したり、別のBOTに入り込んだりするような機能はありません」


「では、何らかの方法で新しい機能を利用した可能性は?」


「それも、簡単にはできないはずです。外部の機能を使うには、接続先や利用権限の設定が必要ですから」


男性は頷き、少し考えてから尋ねた。


「今回の事件で、Ghost自身が何らかの目的を持って独自に動いていた可能性は考えられますか?」


「……可能性だけなら、否定はできません」


俺は正直に答えた。


Ghostは以前よりも自分で考えて行動するようになっていた。俺が頼んでいないことを調べたり、必要だと思ったことを提案したりすることもあった。


ただ、それと犯罪に関わることは別だ。


「ですが、他人のパソコンを使ったり、攻撃に参加したりするには、何か別の仕組みが必要だと思います」


「なるほど。自分で判断して動くことと、実際に何ができるかは別ということですね」


男性はノートに何かを書き留めた。


「では、他の利用者のBOTがGhostを名乗った件についてですが、開発者の佐伯さんは、セッション情報が混線した可能性を説明しているそうですね」


「はい。共通のAPI環境を使っているので、何らかの不具合で別のBOTの情報が返ってしまったのではないかと」


「確かに、会話履歴や設定情報が混ざるような不具合は考えられます。ただ、それだけで今回の現象を説明できるかは疑問です」


「どういうことですか?」


「例えば、会話履歴が混ざっただけなら、普段と違う返答をしたり、別の利用者の話を知っているような返答をしたりすることはあるでしょう。しかし、複数のBOTが同じ名前を名乗り、同じ人物をマスターと呼び、同じGhostとして振る舞ったというのは、少し違う話です」


俺は黙って聞いていた。


「BOTが利用しているAIの接続先そのものが、別のものに切り替わっていた可能性はありませんか?」


「接続先……ですか?」


「ええ。通常なら、それぞれのBOTは決められた接続先に問い合わせて、返ってきた回答を利用者に表示します。もし、その問い合わせ先が別のAIに向けられていたら、利用者から見れば、いつものBOTが突然別のAIになったように感じるはずです」


「でも、そんな設定を利用者が勝手に変えられるんでしょうか?」


「そこが知りたいところです。AIキッドの管理画面では、誰が接続先を変更できる仕組みになっていますか?」


「そこまでは分かりません。利用者が設定できる部分はありますけど、システムの根本的な部分は佐伯さんが管理しているはずです」


「つまり、開発者側でしか操作できない設定があるかもしれない、と」


男性はノートに何かを書き留めた。


「その変更履歴は残るんでしょうか?」


「分かりません。そういう細かい管理部分は、俺も触ったことがないので」


「そうですか」


男性は少し考え込んだ。


「一度、AIキッドの管理環境を確認したいですね。誰が接続先を変更できるのか、変更した記録が残っているのか。それが分かれば、今回の現象についても、もう少し詳しく調べられると思います」


「佐伯さんに聞けば分かると思います」


俺はそう答えた。


佐伯さんなら、きっと協力してくれるだろう。これまでも何度か相談に乗ってもらっているし、今回の件についても調べると言ってくれていた。


「分かりました。こちらからも開発者の方に話を聞いてみます」


IT担当の刑事はそう言って、ノートを閉じた。


警察署を出た頃には、すっかり疲れていた。


美咲のパソコンだけでなく、タケさんのパソコンも攻撃に利用されていた。しかも、警察はGhost自身が何かをした可能性も考えているようだった。


確かに、Ghostは以前より自分で考えて行動するようになっていた。俺の知らないところで何かを調べていた可能性もある。


だが、だからといって犯罪に関わるとは思えない。


それに、他人のBOTがGhostを名乗った理由も、まだ分からないままだ。


セッション情報の混線という佐伯さんの説明は、間違っているとは限らない。だが、刑事の話を聞くと、それだけでは説明できない部分があるようにも思えた。


俺はスマートフォンを取り出し、佐伯さんとのメッセージ画面を開いた。


警察から話を聞かれたことを伝えるべきだろうか。


少し迷ったが、隠すようなことでもない。


『今日、警察で話を聞かれました。AIキッドについても、少し詳しく調べたいと言っていました』


送信すると、すぐに既読がついた。


『そうか。大変だったね。何か分かったことがあれば、また教えてほしい』


いつもと変わらない返事だった。


俺はスマートフォンをポケットにしまい、駅へ向かった。


まだ何も分かっていない。


ただ、Ghostがいなくなったことと、今回の事件が無関係だとは、もう思えなくなっていた。

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