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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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11-6

 14時。


 私たちはスーパーに来ていた。玲司さんの家の近くにある大型スーパーだ。最初は恵介君に頼まれた買い物をするために訪れた店だった。しかし、何度か利用しているうちに、すっかり気に入ってしまった。もちろん、普段利用している近所のスーパーも悪くない。けれど、たまには違う店で買い物をするのも楽しい。品揃えも違うし、価格も違う。思わぬ掘り出し物に出会えることもある。


 そんなわけで、今日は自分たちの買い物のために来ていた。しかも、この店は日替わりの特売品がとにかく安い。それでいて在庫を大量に用意しているらしく、午後になっても売り切れていないことが多い。それも気に入っている理由の一つだった。私は洗剤売り場の前で足を止めた。


「あった」


 目当ての商品を見つける。抗菌Xプラスの詰め替え用特大サイズだ。価格を見て、改めて驚く。普段利用している店より400円近く安い。毎日使うものだから、この差は大きかった。私は棚から商品を取り上げる。


「よいしょっと」


 少し重たい。それでも満足しながらカートのカゴへ入れた。


「無事に買えたわね」


 すると、隣からルークが覗き込んでくる。


「柔軟剤はどうする?」

「え?」

「買っておいた方がよくないか?」


 私は隣の棚を見る。確かに、いつも使っている柔軟剤が並んでいた。しかし、値札を見た瞬間、眉をひそめる。


「うーん……」

「なに?」

「ちょっと高いのよね」

「そう?」

「いつもの店より200円高いわ」


 私は腕を組んだ。


「せっかく洗剤を安く買えたのに、柔軟剤で200百円高くなったら、お得な気分が半分消えるじゃない」


 ルークは首を傾げる。


「いいじゃないか」

「よくないわよ」

「また別の店を回るの?」

「回るわ」

「面倒だ」

「それが買い物の醍醐味なの」


 私は真顔で言った。しかし、ルークは納得していない顔だった。


「紫乙」

「なに?」

「お菓子を買わなかったら節約になるよ」


 私は黙った。痛いところを突かれた。ルークは勝ち誇った顔をしている。私は思わず目を逸らした。確かにその通りだ。今日のお目当ての一つは、たまご煎餅だった。昔からある素朴なお菓子で、時々無性に食べたくなる。甘すぎず、どこか懐かしい味がする。私としては二袋あれば十分だった。二袋買えば、しばらく楽しめる。それで終わりだ。


 しかし、問題はルークだった。ルークはなぜか、そのたまご煎餅を大量に買いたがる。以前など、六袋もカゴへ入れられたことがあった。当然、私が止めた。だから今日の買い物メモには、しっかりと「たまご煎餅、二袋」と書いてある。最初から予防線を張っているのだ。


「二袋よ」


 私は念を押した。


「分かってる」

「本当に?」

「たぶん」

「信用できない」


 即答だった。ルークは少し笑う。嫌な予感しかしない。それでも、今日は買っておきたかった。もし今日買わなければ、後日必ず言われる。


『たまご煎餅を買いに行こう』


 と。しかも、一度では終わらない。何度も言う。そして、最終的に私が折れる。そういう未来が簡単に想像できた。だから、今買ってしまった方が楽なのだ。私は基本的にまとめ買い派だった。週に一回ほど買い出しをして、必要なものを揃える。その方が時間の節約になる。何度も店へ行かなくて済む。面倒も減る。私としては合理的な方法だった。


 しかし、ルークは違う。なぜか、わざわざ小分けに買い物へ行きたがることがある。理由を聞いたことがあった。そして、後悔した。あまり聞かなければよかったと思った。


『紫乙が嫌そうな顔をするから』


 それが答えだった。意味が分からない。


『面倒だなって思ってる顔が面白い』


 さらに意味が分からない。


『記録してる』


 もっと意味が分からない。私はその時、本気で呆れた。ルークによれば、私のそういう表情を覚えているらしい。そして、頭の中のアルバムへ保存しているのだという。楽しかった出来事として。理解不能だった。完全に趣味だった。


「思い出した」


 私はため息をつく。


「なに?」

「あなたの趣味」

「どれ?」

「私が面倒そうな顔をするところを記録してる話」


 すると、ルークが嬉しそうに頷いた。


「いい表情だった」

「褒めてないわよ」

「特に洗剤売り場」

「なんで洗剤売り場なのよ」

「重そうだった」


 私は額を押さえた。どうやら本当に覚えているらしい。しかも、細かい。


「アルバムに入ってる」

「消しなさい」

「嫌」

「なんでよ」

「宝物だから」


 私はその場でしゃがみ込みたくなった。本当に理解できない。しかし、ルークは満足そうだった。どうやら本気で大切にしているらしい。私は大きくため息をつく。そして、カートを押した。


「ほら、行くわよ」

「たまご煎餅?」

「そう」

「二袋?」

「二袋」

「三袋ほしい」

「二袋」

「二・五袋」

「どうやって買うのよ」


 私が呆れると、ルークは少しだけ笑った。そして、私たちは、お菓子売り場へ向かって歩き出した。どうやら今日も、予定通りには終わりそうになかった。

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