表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
91/180

11-2

 少なくとも、最初に出会った頃に比べれば、今はずいぶん平和になった。喧嘩になることもほとんどない。それは私が大人になったからというわけではなく、単純にルークの扱い方が分かってきたからだった。何か言い出した時に無理に抵抗しても、あまり意味がない。


 食事ひとつとってもそうだ。今日は何を食べるか、自分で決めているつもりでも、気が付けばルークの希望が採用されていることが多い。最初は不思議だった。どうしてそうなるのだろうと思っていた。けれど今なら分かる。ルークは強引に命令したりはしない。ただ、ものすごく粘り強いのだ。静かに。自然に。当たり前のように。自分の希望を言い続ける。そして最終的に、こちらが折れる。その方が早いと思ってしまうのである。考えてみれば、少々危険な気もする。本人に悪気がないからなおさらだ。私はトーストをかじりながら、そんなことを考えていた。


 そして、ふと先日のことを思い出す。玲司さんと恵介君のことだ。結局、あの後どうなったのだろう。私の目には、二人とも特に変わったようには見えなかった。もちろん、どこか雰囲気は柔らかくなっていた気もする。けれど、それだけだった。


「結局どうなったの?」


 私が聞くと、ルークが顔を上げる。


「なにが?」

「玲司さんたちよ」


 すると、ルークが少しだけ笑った。なんとも意地の悪い顔だった。


「知りたい?」

「知りたい」

「内緒」


 私はパンを置いた。


「教えなさい」

「嫌」

「なんでよ」

「本人たちの話だから」


 あまりにも正論だった。ぐうの音も出ない。私は悔しそうに顔をしかめる。すると、ルークはコーンスープを一口飲んでから言った。


「でも」

「でも?」

「大丈夫だった」


 その声は穏やかだった。


「二人とも笑ってた」


 私は少しだけ肩の力を抜いた。詳しいことは分からない。きっと本人たちが話したい時になったら話してくれるだろう。けれど、少なくとも悪い結果ではなかったらしい。窓の外では、冬の陽射しが街を照らしている。穏やかな土曜日の朝だった。私は残っていた味噌汁を飲みながら、ふと思う。今日は静かな一日になりそうだと。仕事の予定も特にない。買い物でもして、のんびり過ごすのも悪くない。そう思った瞬間だった。ルークが真顔で言った。


「昼はカレーがいい」


 私は思わず吹き出しそうになった。


「朝食を食べながら昼の話をしないで」

「大事」

「まだ8時よ?」

「準備が必要」

「どれだけ本気なのよ」


 私が呆れると、ルークは真剣な顔で頷いた。本気だった。どうやら昨夜のうちから決めていたらしい。


「レトルトじゃ駄目?」

「駄目」

「なんで?」

「今日はカレーの日だから」

「そんな記念日は知らないわよ」

「今、決めた」


 あまりにも堂々としている。私は思わず笑ってしまった。ルークは満足そうにコーンスープを飲んでいる。その姿を見ていると、なんだか怒る気も失せてしまう。結局、昼食はカレーになるのだろう。たぶん材料を買いに行くことになる。そうやって、今日もルークのペースに巻き込まれていくのだ。私は苦笑しながらトーストをかじった。静かな朝は、どうやら思っていたより長くは続かなさそうだった。


 静かな朝は長く続かなかった。私が朝食を食べ終え、空になった味噌汁のお椀を流しに運ぼうとした時だった。テーブルの上に置いていたスマートフォンが震える。


「あら」


 画面を見ると、兄からのラインだった。私は思わず笑う。ルークがコーンスープを飲みながら聞く。


「誰から?」

「お兄ちゃんから」


 土産は何がいいのか、ずっと聞かれている。私はトーク画面を開いた。案の定だった。


『土産、まだ決まらないか?』


 その下には困った顔のスタンプまでついている。


「昨日から聞かれてるのに」


 私は苦笑した。兄らしい。気を遣っているのだろう。しかし、いざ聞かれると難しい。チョコレートもいい。お菓子もいい。でも、荷物になるし、消えてしまう。せっかくなら長く残るものがいい。私は少し考えた。そして、昨日からぼんやり思っていたものを思い出す。


「そうだ」


 私はスマートフォンを操作した。


『ポルトガルの小皿が欲しい』


 送信する。マカオは長くポルトガルの影響を受けてきた土地だ。青や黄色の鮮やかな模様が描かれた陶器も多い。小さな飾り皿なら軽いし、棚に置いても綺麗だろう。実用的でもある。我ながら良い案だと思った。数秒後、既読がつく。そして、すぐに返事が返ってきた。


『了解』


 さらに続く。


『ルークは?』


 私は思わず笑った。


「聞かれているわよ」


 ルークが顔を上げる。


「なにを?」

「お土産」

「僕?」

「そう」

「じゃあ、考える」


 そう言うと、ルークは真面目な顔になった。本当に考えているらしい。私は少し待った。その間、ルークは黙っていた。そして、突然言った。


「決まった」

「早いわね」

「うん」

「何?」


 するとルークは当然のような顔で答えた。


「ユリウス君と同じもの」


 私は吹き出しそうになった。


「は?」

「同じのでいい」

「何それ」

「同じがいい」


 理由になっていない。私は思わず笑った。


「そう送るの?」

「送る」

「絶対困るわよ」

「大丈夫」

「何が?」

「凰李が選ぶから」


 私は理解した。ルークらしいと言えば、ルークらしい。


『ルークはユリウスさんのお土産と同じものでいいそうよ』


 送信した。数秒後、既読がついた。そして――。


『なんだそれ(笑)』


 すぐに返事が来た。私は思わず声を上げて笑った。兄がスマートフォンを見ながら笑っている姿が容易に想像できた。絶対に面白がっている。そして、ユリウスさんが聞いたら、さらに笑う気がする。そんな光景まで想像できた。ルークは満足そうだった。私は苦笑しながらスマートフォンを置いた。すると、向かい側で、ルークが真顔で言った。


「カレーの具は大きめがいい」


 私は思わず額を押さえた。どうやらこの人の頭の中は、もう完全に昼食のことでいっぱいらしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ