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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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11-1 二人の買い物

 1月24日、土曜日。午前8時。


 冬の朝の光が、アパートの窓から静かに差し込んでいた。平日なら通勤する人たちで賑わい始める時間だが、土曜日の街はまだ少しゆっくりしている。窓の外を見れば、雲一つない青空が広がっていた。


 私はキッチンに立っていた。電気ケトルのお湯が沸く音が聞こえる。その横では、トースターが食パンを焼いていた。今日は特別なことは何もない。ごく普通の朝だ。だから、朝食も簡単なものだった。私は食器棚からマグカップを取り出す。すると、ソファーに座っていたルークが顔を上げた。


「紫乙」

「なに?」

「コーンスープ、飲みたい」

「はいはい」


 私は苦笑した。言い方が子供みたいだ。


「作る?」

「作って」

「自分でやればいいのに」

「君が作った方が美味しい」

「同じよ」

「違う」


 真顔で言うので反論しにくい。私はため息をつきながら、戸棚からインスタントのコーンスープを取り出した。袋を開けて粉をマグカップへ入れる。そこへ、沸いたばかりのお湯を注ぐ。スプーンでくるくるとかき混ぜると、甘いコーンの香りが広がった。


「はい」


 ルークの前へ置く。


「ありがとう」


 嬉しそうだった。本当にこれだけで満足するのだから不思議である。私はその様子を見ながら、自分の朝食の準備を続けた。今日はキシヤマ味噌のフリーズドライ味噌汁だ。最近発売された、かぼちゃの味噌汁。兄からもらったものだ。大量にあるから、しばらく味噌汁を作らなくてもいい。小袋を開けて、お椀へ中身を入れる。乾燥したかぼちゃと味噌のブロックが入っていた。そこへお湯を注ぐ。ふわりと味噌の香りが立ち上った。


「いい匂い」


 ルークが言う。


「飲む?」

「今日はコーンスープ」

「そう」

「コーンスープの日だから」


 何だそれはと思う。どうやら本人の中では決まっているらしい。私は笑いながら冷蔵庫を開けた。昨日のうちに茹でておいた卵を取り出す。殻を剥いて半分に切る。さらにサラダ用の野菜を皿へ盛り付ける。レタス。ミニトマト。きゅうり。彩りだけはいい。そして、ちょうどその頃、トースターが軽快な音を鳴らした。パンが焼けたらしい。私は取り出して皿へ乗せた。こんがりとした焼き色がついている。バターを塗る。じわりと溶けていく様子を見ながら、私はようやく満足した。


「完成」


 朝食のトレーを持って部屋へ移動する。ルークはすでにコーンスープを飲み始めていた。両手でカップを持ち、ふうふうと息を吹きかけている。その姿はどう見ても地球人だった。宇宙人には見えない。


「熱い?」

「少し」

「猫舌なの?」

「猫じゃない」

「そういう意味じゃないわよ」


 私が笑うと、ルークも少しだけ笑った。私は向かい側へ座る。そして、手を合わせた。


「いただきます」

「いただきます」


 二人で朝食を食べ始めた。味噌汁を一口飲む。優しい味だった。かぼちゃの甘みがよく出ている。


「美味しい」

「良かった」


 ルークがなぜか満足そうに言う。


「作ったの私じゃないけど」

「でも、選んだ」

「そうね」


 確かにそうだった。私はもう一口味噌汁を飲む。温かい。身体の芯まで温まるようだった。しばらく静かな時間が流れた。テレビもついていない。ただ朝の光だけが部屋を満たしている。こういう時間は嫌いじゃない。むしろ好きだった。何も考えなくていい。仕事のことも。記者のことも。全部少しだけ脇へ置いておける。


 すると、不意にルークが言った。


「今日さ。11時からだよね?」


 私は顔を上げた。


「ああ、バンジージャンプのことね」

「うん」


 やっぱりその話になるかと思った。兄は今、知り合いの人が開催したセミナー参加のために、マカオにいる。セミナーは昨日無事に終わり、今日は別の知り合いがマカオタワーからバンジージャンプをするというので、同行するという。ジャンプ台まで付き添って、秘書の山本君が私とビデオ通話をつないで、中継してくれることになっている。兄はユリウスさんとビデオ通話をする。


 兄にはいいことがあった。ユリウスさんが交際を承諾してくれて、二人は付き合い始めたところだ。それはこの間の水曜日の夜の話であり、翌日、私に報告があった。でも、次の日からマカオ出発だったから、離れ離れになって寂しいだろうと思った。兄は明日の夜、帰ってくる。でも、ユリウスさんに会うのは、明後日だそうだ。ユリウスさんが、兄にはゆっくり体を休めてほしいと言い、帰国日に会いに来るなと言ったらしい。思いやりだと思う。なのに、兄は妙にがっかりしている。


「233メートルからのジャンプだなんて、足がすくむでしょうね」

「うん。しかも、植村(うえむら)君は2回目だって言うから、ハマったんだろうね」

「そうよねー。買い物には、午後から行きましょう。バンジーを見た後の方が急がないから」

「オッケー。楽しみだな」

「そうね」


 私は頷いた。今日は週に一度のまとめ買いの日だ。冷蔵庫をいっぱいにしておく。また雪が降らないとは限らないし、食べ物があるだけで、ホッとくつろぐ。ルークがいるから、荷物持ちを任せられる。私はテーブルの上のメモに視線を向けた。買いたいものを書いてある。ルークがあれやこれや買いたいというから、二人の意見を集約してまとめてある。そうしないと喧嘩になってしまう。だから、メモをして買い物に行くのは、私たちがうまくいくための工夫だった。

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