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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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 ひとしきり笑いが落ち着いた頃には、食卓には再び穏やかな空気が戻っていた。もっとも、私はまだ少し恥ずかしかった。隣ではルークが何事もなかったかのように手巻き寿司を作っている。原因は間違いなくこの人なのだが、本人はまったく気にしていないらしい。私はため息をつきながら、お茶を一口飲んだ。

すると、上座に座っていた隆さんが静かに口を開いた。


「さて」


 自然と全員の視線が集まる。


「恵介君」


 名前を呼ばれた恵介君が姿勢を正した。


「はい」

「今後の仕事はどうなっているんだ?」


 その質問は、ごく自然なものだった。けれど、この場にいる全員が気にしていることでもあった。中田の件が起きてから、恵介君を取り巻く環境は大きく変わってしまった。本人には何の責任もない。それでも世間は簡単に切り離して考えてくれない。私は恵介君の横顔を見た。少しだけ緊張しているように見えた。すると瀬名さんが口を開く。


「現在の予定をご説明します」


 さすがマネージャーだった。落ち着いた声で話し始める。


「まず昨日行われた対談ですが、週刊『ミルキーウェイ』の3月18日号に掲載予定です」

「ああ」


 隆さんが頷く。玲司さんも興味深そうに聞いている。


「ワタベ電機の伊神課長との対談は大変良い時間でした」

「はい」


 瀬名さんが微笑む。


「予定通り進んでおります。編集部からも問題なく掲載すると連絡をいただいています」


 私は内心ほっとした。もし中田の件の影響で掲載延期などになっていたら、恵介君も落ち込んだだろう。


「対談内容も良かったですし、写真の仕上がりも期待できると思います」

「恵介、緊張してたんだろうね」


 夏樹君が笑う。


「していないよ」

「していたんだろう?」

「していないってば」

「ううん。してたと思うよ」


 子供のようなやり取りに周囲が笑った。恵介君は恥ずかしそうな顔をしていたが、どこか安心したようにも見えた。隆さんが再び話を戻す。


「他には?」

「テレビの仕事が一本、決まっています」


 その言葉に空気が少し明るくなった。


「テレビか。どんな内容なんだ?」

「情報番組の特集コーナーです」


 瀬名さんは資料を思い出すように答えた。


「春のファッション特集で、モデルとして出演予定です」

「それは良かったな」


 隆さんが頷いた。


「テレビは露出が大きい」

「はい」

「今の時期だからこそ価値があるでしょう」


 瀬名さんの声には確かな手応えがあった。恵介君も少しだけ表情を和らげる。しかし、そこで隆さんが尋ねた。


「それ以外は?」


 一瞬だけ沈黙が落ちる。瀬名さんは正直に答えた。


「ありません」


 大広間が静かになった。


「2か月先まで、ほぼ白紙です」


 私は胸が少し痛くなった。モデルとして活動している以上、仕事が入らないというのは不安なはずだ。恵介君も表情を変えなかったが、きっと心の中では色々考えているだろう。しかし、瀬名さんは落ち着いていた。


「ただ、それは予定通りでもあります」

「予定通り?」


 隆さんが聞き返す。


「はい」


 瀬名さんははっきり頷いた。


「中田さんの件が発覚した直後、事務所側でスケジュールを調整しました」

「なるほど」

「無理に仕事を詰め込まず、様子を見る方針にしたんです」


 私は納得した。今はどの現場も慎重になっている。そんな時期に無理をしても、恵介君自身が疲弊してしまうだけだ。


「2か月ほど経てば、状況は落ち着くと判断しています」


 瀬名さんは続けた。


「警察の捜査も進みますし、報道の勢いも今ほどではなくなるでしょう」

「確かに」


 玲司さんが頷く。


「世間は次の話題に移るからな」

「はい」

「ですので、その頃から一気に仕事を入れる予定です」


 恵介君が顔を上げた。その言葉は本人も初めて聞く内容ではないはずだ。それでも少し安心したように見えた。


「具体的には?」


 隆さんが尋ねる。


「雑誌の撮影、広告案件、イベント出演ですね」


 瀬名さんが答える。


「すでに何社かには話を通しています」

「早いな」

「準備だけは進めていますから」


 瀬名さんは笑った。


「今は動かないだけです」


 その言葉に私は感心した。さすがプロだった。表面上は何もないように見えても、水面下ではしっかり動いている。


「恵介君の商品価値が下がったとは思っていません」


 瀬名さんは真っ直ぐ言った。


「むしろ本人には何の問題もありませんから」


 その言葉に恵介君が目を伏せる。きっと嬉しかったのだろう。


「ありがとうございます」


 小さな声だった。すると、瀬名さんは肩をすくめた。


「事実を言っただけだよ」

「でも……」

「それに」


 瀬名さんは少し笑った。


「君は真面目だからね」

「そうかな?」

「うん。頑固だけどね」


 瀬名さんの言葉に、夏樹君が口を挟む。


「うん。頑固だよね」

「みんなして何なんですか」


 恵介君が不満そうに言う。しかし、そのやり取りに再び笑いが起こった。重くなりかけていた空気が自然に和らぐ。そんな様子を見ながら、隆さんは静かに頷いた。


「なら、問題ないな」


 その一言には不思議な重みがあった。黒崎家の主として、多くの人を見てきた人の言葉だった。


「焦る必要はない」


 隆さんは恵介君を見た。


「今は休むといい。働ける時に働けばいい」


 恵介君は少し驚いたような顔をした。それから静かに頭を下げる。


「はい」

「人生は長い」


 隆さんはお茶を口にした。


「2か月など、あっという間だ」


 その言葉に、私も自然と頷いていた。確かにそうかもしれない。今は嵐の中にいるような気分でも、季節は必ず変わる。その頃には、恵介君もまた撮影現場で笑っているのだろう。そして今度は、中田のことではなく、自分自身の仕事で注目されるはずだ。食卓には再び穏やかな会話が戻っていった。そんな中、隣のルークが新しい手巻き寿司を私の皿に置く。


「紫乙」

「なに?」

「元気を出して」

「別に落ち込んでないわよ」

「そう?」

「そうよ」


 私が答えると、ルークは少し考えてから言った。


「じゃあ、結婚の話、続きする?」

「しない!」


 即答した私に、大広間いっぱいの笑い声が響いたのだった。

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