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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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10-4

 全員の席が決まると、ようやく昼食が始まった。手巻き寿司の具材が並ぶテーブルは見ているだけでも楽しい。夏樹君はさっそくサーモンを手に取っているし、ルークは何を巻けば一番豪華になるのか真剣に研究していた。六槍君はそんなルークを見て、


「子供みたいだね」


 と呟いている。そんな賑やかな空気の中だった。隆さんが静かに湯呑みを置いた。それだけで自然と周囲の空気が落ち着く。黒崎家の主として長く人の上に立ってきた人だからだろう。声を荒げることはない。けれど、誰もが耳を傾ける。


「恵介君」


 穏やかな声だった。恵介君が顔を上げる。


「はい」


 少し緊張しているようだった。隆さんは優しく微笑む。


「まずは、この家の近くへ来てくれて良かった」


 恵介君が目を瞬く。


「遠藤君から話は聞いている」


 隆さんが続けた。


「大変だったな」


 その言葉に、恵介君が少しだけ目を伏せた。


「……はい」


 小さな声だった。無理もない。ここ数日は怒涛だった。仕事、取材、待ち伏せ、引っ越し。心が休まる暇などなかっただろう。


「今回の件だが、黒崎家としても力になりたいと思っている」


 私は思わず顔を上げた。大広間が少し静かになる。恵介君も驚いたようだった。


「そんな……」

「遠慮はいらない」


 隆さんは穏やかに言う。


「夏樹とも縁がある」


 その言葉に夏樹君が頷いた。


「そうそう」


 明るい声だった。


「俺たち結構話したもんね」


 クリスマスツリーの撮影。あの日のことを思い出しているのだろう。恵介君も少し笑う。少しだけ照れたような顔になる。隆さんが続けた。


「黒崎家は昔から記者対応には慣れている。役に立てることもあると思う」


 恵介君は戸惑ったように周囲を見る。


「でも……」


 言葉に詰まる。迷惑をかけたくないのだろう。その気持ちはよく分かった。すると、健吾さんが笑った。


「遠慮する子だな」

「そうよね」


 佳代子さんも微笑む。そして、優しい声で続けた。


「こういう時は甘えていいのよ。誰だって困る時はあるんだから」


 その言葉は母親みたいだった。私は胸が少し温かくなる。すると、ユリウスさんも静かに口を開いた。


「僕もそう思う」


 全員がそちらを見る。


「一人で抱える必要はないよ」


 穏やかな声だった。


「助けてくれる人がいるなら、頼っていい」


 恵介君が目を伏せる。そして、小さく息を吐いた。何かを堪えるように。


「……ありがとうございます」


 その声は少し震えていた。すると、隣にいた夏樹君が笑った。


「よし」


 そして、サーモンを巻く。


「その話は終わり!」


 全員がぽかんとした。


「せっかくの手巻き寿司だからね~」


 夏樹君は真剣だった。


「今は食べようよ~」


 大広間に笑い声が広がる。隆さんまで少し笑っている。その時だった。ルークが手を挙げる。


「質問」

「なに?」


 夏樹君が振り向く。


「手巻き寿司ってどこまで乗せていいの?」

「好きなだけ」

「全部?」

「全部は駄目」

「なんで」

「巻けなくなるから」


 真顔で返される。ルークは納得していないらしい。六槍君が横から覗き込む。


「海苔が破れるよ」

「なるほど」


 本気で勉強していた。その様子にまた笑いが起きる。私は周囲を見回した。みんな自然に恵介君を囲んでいる。守ろうとしている。それが言葉にしなくても伝わってきた。そして、恵介君も少しずつ肩の力が抜けてきている。昨日までは張り詰めていた表情が、今は柔らかい。ここへ来て良かった。私はそう思った。騒動はまだ終わっていない。でも、少なくとも今この瞬間だけは、恵介君は一人じゃなかった。そして、それを誰より実感しているのは、きっと本人なのだろう。


 その後、ようやく食事が始まった。恵介君は佳代子さんに勧められながら手巻き寿司を作っている。


「それ、美味しそうだね」


 夏樹君が覗き込む。


「真似していい?」

「どうぞ」


 そんなやり取りが聞こえてきた。気付けば、さっきまでの重い話題は誰も口にしていない。それでも、誰も無関心になったわけではなかった。ただ、今は安心して食事をしてほしいと思っているのだろう。私はそんな空気が好きだった。


 その時だった。リクが恵介君の足元へやって来る。そして、当然のように顎を乗せた。リクは見上げていた。完全に何かを期待している顔だった。


「リク」


 健吾さんが苦笑する。


「刺身を狙っているな」


 大広間に笑い声が広がった。恵介君も吹き出す。そして、そっとリクの頭を撫でた。リクは満足そうに尻尾を振る。その姿を見ていた佳代子さんが微笑んだ。


「良かった」

「何がですか?」


 私が聞くと、佳代子さんは優しい目をした。


「リクはね、本当に落ち込んでいる人のところへ行くの」


 私は思わずリクを見る。幸せそうに目を細めていた。まるで『大丈夫だよ』と言っているみたいに。その様子を見ながら、私は静かに思った。恵介君はきっと、ここで少しずつ元気を取り戻していくのだろうと。

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