1-6 最高の贈り物
私は、まだ余韻の残る夜空を見上げたまま、隣にいるルークに視線を戻した。
「……ねえ、今の。何だったの?」
問いかけると、ルークは少しだけ楽しそうに目を細めた。
「ヨークに頼んだんだ。光のショーを」
「……え?」
「君と、それから視聴者に。特別なプレゼントをしたくてね」
さらりと言う。その言葉に、私は一瞬、言葉を失った。
「実はね、だいぶ前から計画してたんだよ。君のお兄さんと、ヨークと、ウーリ、それから一貴さんと」
「そんな大掛かりなこと……」
「クリスマスだからね」
ルークは肩をすくめて、いつもの調子で続ける。
「それに、プレゼントは君だけじゃない」
「え?」
「ユリウスにも。今頃、同じものを見てるはずだよ」
兄の顔がふっと浮かぶ。想像すると、胸の奥がじんわりと温かくなった。そこで、スマホの画面に視線を落とした。コメント欄は、まだざわついていた。
――「今の何!?」
――「光やばかった!」
――「UFO!?いや違うよね?」
――「彼氏さん何者???」
どうやら、宇宙船そのものは見えていないらしい。でも、あの光は確かに届いていた。それだけで、十分すぎる気がした。
「ねえ、ルーク。今の……、どう説明するの?」
小声で聞くと、彼は軽く首を振った。
「説明はしないよ」
「しないの?」
「うん。全部を言葉にする必要はないだろう?」
そう言って、スマホの方を覗き込む。
「それより、今日の散歩配信はどうだった?」
まるで、何事もなかったかのような口調。でも、その声はどこか嬉しそうで、私は思わず、ふっと笑ってしまった。
「……最高だったわよ。今までで一番」
そう答えると、コメント欄が一気に明るくなる。
――「神回!」
――「一緒に見れてよかった!」
――「オツさん、ありがとう!」
画面の向こうの“みんな”が、同じ時間を共有している。それが、さっきまでよりもずっと鮮明に感じられた。そのとき、ルークが静かに言った。
「君と歩くだけで、僕はもう特上の贈り物をもらっている気になる」
私は一瞬、息を止める。
「だから――」
ルークは、少しだけ照れたように笑った。
「僕も、君に“経験”を贈りたいんだ」
その言葉は、不思議なくらい真っ直ぐで。飾り気がなくて。でも、さっきの光よりもずっと、胸に残った。
「……もう、十分すぎるくらいよ」
私はそう言って、気づけば、自分の方からルークに抱きついていた。ぎゅっと、コート越しに彼の体温を感じる。こんなことをするのは、初めてだった。ルークが少し驚いたように息を呑むのが分かる。
「最高の贈り物よ」
小さくそう告げると、彼は何も言わず、ただそっと私の背に手を回した。雪はまだ降り続いている。けれど、不思議と寒さは感じなかった。
そのとき、ポケットの中のスマホが震えた。兄からのメッセージだった。
『今、帰った。待ってる』
「……帰ってるって」
「そう」
ルークが頷く。私は少しだけ名残を惜しみながら、身体を離した。
「行こう。お茶も冷めちゃうし」
「うん」
手にした袋を持ち直して、歩き出す。足元の雪が、きゅっと小さく音を立てた。兄の家の灯りが、すぐそこに見えている。私はスマホに向かって、もう一度笑った。
「じゃあみんな、そろそろ配信終わるね。メリークリスマス」
コメントが一斉に流れる。
――「メリークリスマス!」
――「またね!」
その光景を胸に刻みながら。私はルークと並んで、明かりの灯る家へと歩いていった。




