1-5 星が降る夜、配信中
そのときだった。ひらり。最初は一粒、二粒。頬に触れて、すぐに溶けるほどの小さな雪が降ってきた。
「……あ、雪」
思わず呟く。気づけばそれは、ゆっくりと数を増やし、やがては街路樹の枝先を白く染め始めていた。私は一瞬だけ外カメラに切り替えて、空を映す。
「雪が降ってきたよ。見える?」
画面越しに問いかけると、コメント欄が一気に流れ始めた。
――「寒そう!」
――「いいな、雪!」
――「メリークリスマス!」
「ほんと寒いね。でも、ちょっと綺麗」
笑いながら返す。けれど雪は、すぐに“風情”を超えてきた。降り方が強くなり、視界の中で白が増えていく。私は慌ててニット帽を深くかぶり直した。傘は持っていない。
「やば、ちょっと降りすぎ。お兄ちゃんの家、急ごう」
歩くスピードを上げた、そのときだった。ぐい、と、ルークが私の手を引いた。
「待って」
「え?」
振り返ると、彼は静かに空を見上げていた。
「外カメラにして、街を映して」
「……?」
「見せたいものがある」
その声は、いつもの柔らかさの中に、どこか確信めいた響きを含んでいた。私は言われるままに、スマホのカメラを切り替える。レンズ越しに、雪の降る夜の街を映す。白く染まり始めたアスファルト、街灯の光に浮かぶ雪粒――。その上を、すっと、光が走った。
――宇宙船だ。
視界の上空を滑るように横切り、そのまま、ぴたりと静止する。次の瞬間。船体から、一筋の光が降りてきた。それは地面に触れることなく、空間そのものを照らすように広がっていく。光が、ほどけるように放射される。雪の一粒一粒が、その光を受けて輝き出す。白だったはずの世界が、色を持つ。淡く、きらびやかに。まるで、空から無数の宝石が降ってきているみたいだった。
「……なに、これ……」
思わず声が漏れる。その光景は、ほんの十数秒。けれど、時間の感覚が曖昧になるほど濃密で――、私は、ただ見上げることしかできなかった。そして、それは、配信にもそのまま映っていた。コメント欄が、一気に流れ出す。
――「え、何これ!?」
――「すごい!!」
――「加工!?」「CG!?」
――「やばい泣きそう」
ざわめきが、画面越しに伝わってくる。私は、何も言えなかった。ただ、信じられないものを見ている感覚だけが、胸に広がっていく。やがて光は、すっと収束していき――、宇宙船は、何事もなかったかのように夜空へと消えた。静寂が戻る。降り続く雪だけが、現実を繋ぎ止めている。その隣で、ルークが、ふっと微笑んだ。
「メリークリスマス」
静かな声だった。けれど、不思議と、さっきまでのどんな光よりも、胸に残った。




