表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/176

9-8

 伊神さんは、私の言葉を静かに聞いていた。応接室の外では、スタッフたちの話し声がかすかに聞こえている。コーヒーカップの触れ合う音。資料をめくる音。そんな現実的な空気の中で、私たちはまるで別の話をしていた。


「実は」


 伊神さんが、小さく息を吐く。


「久弥の件がある前から、時々いたんです」

「え?」

「“重なっている人”が」


 私は瞬きをする。


「街中とか、仕事先とかで、妙に違和感のある人を見ることがあって」


 伊神さんは少し言葉を探すように続けた。


「一人なのに、一人じゃない感じがするんです」

「……」

「視線の向きとか、空気の揺れ方とか、声の間とか」


 私は黙って聞いていた。


「でも、説明できなかった。自分の勘違いだと思っていたんです」


 伊神さんは苦笑する。


「だから、月島さんから事情を聞いた時、“ああ、そういうことだったのか”って、妙に納得したんですよ」


 私は小さく息を吐いた。この人は、本当に見えていたのだ。しかも、かなり前から。


「今日は、紫乙さんを見た時に、最初、“地球側の人じゃない”と思ったので、月島さんと兄妹関係なのは、ここでの血縁というより、過去世での繋がりなのかなと思ったんです。でも、あなたは地球人なんですね。エネルギー体なのに。どういう仕組みなんだろう」


 私は思わず黙り込んでしまった。すると、ルークが頭の奥で小さく笑う。


(鋭いね)

(他人事みたいに言わないで)

(でも、半分正解)


 私は小さく息を吐いてから、伊神さんへ向き直った。


「兄には、“ハトホル”にいた過去世があるそうです」

「ハトホル……」


 伊神さんが静かに繰り返す。


「軍機関みたいなものだって聞いています。そこで、ルークと知り合ったみたいで」


 自分で言っていても、不思議な話だと思う。普通なら、絶対に信じない。でも、私はもう、“完全に否定もできないところ”まで来てしまっていた。


「ただ」


 私は少し困ったように笑った。


「まだ、全部を思い出したわけじゃないんです。ルークが時々、夢を見せてくるんです。それで少しずつ事情を知っていて」


 金星近傍の星。ミケーネ。ミレイニー。谷から飛び降りる転生。あの夢たちは、妙に現実感がある。でも。


「……正直、本当なのかは分からないんです」


 私は素直に言った。


「ルーク、嘘をつく時があるので」


 その瞬間、頭の奥で不満そうな声がした。


(そんなに嘘ついてないよ)

(十分ついてるわよ)

(演出だよ)

(それを嘘って言うの)


 私は小さくため息を吐く。


「だから、“本当に過去世なのか”“ルークの創作なのか”、まだ信じ切れていない部分もあります」

「なるほど」


 伊神さんは、否定も肯定もせず頷いた。


「困った人なんです」


 私がそう言うと、伊神さんがくすっと笑った。その笑い方が、妙に優しかった。


「でも」


 伊神さんは静かな声で続ける。


「久弥の声帯を治してもらったことは事実です」


 私は顔を上げる。


「だから、僕は信じていますよ」


 その時だった。胸が、きゅん、とした。


(あっ……)


 私は思わず視線を逸らしそうになる。こういうタイプに弱いのだ。真面目そうで、落ち着いていて、普段あまり感情を表に出さない人が、ふっと柔らかく笑う瞬間。あれは反則だと思う。しかも、伊神さんは、話し方まで穏やかだった。声が低くて、安心感がある。


(危険……)


 私は内心で呟く。すると、その瞬間だった。


(紫乙)


 頭の奥で、ルークの声が妙に低くなる。


(なに?)

(今、“きゅん”とした)

(してない)

(した)


 まずい。完全にバレている。私は誤魔化そうとした。でも、その時だった。


 ――コンコン。


 応接室のドアがノックされた。


「失礼します」


 聞き覚えのある低い声。次の瞬間、ドアが開く。私は思わず固まった。


「……は?」


 入ってきたのは、ルークだった。本体だ。しかも、今日は珍しくスーツ姿だった。黒のスーツ。細身のシルエット。ネクタイまで締めていた。ちゃんと黒髪に変装している。なんで来たの。本当にそう思った。私の中では、まだウォークイン中のルークがいる。つまり今、“二人”いる状態だ。


(ちょっと!?)

(来ちゃった)

(来ちゃったじゃないのよ!)

(だって、紫乙が他の男にときめいてるから)

(聞こえてたの!?)

(全部聞こえてた)


 最悪だった。すると、伊神さんが一瞬だけ目を見開いた。でも、すぐに理解したらしい。


「……なるほど。こういう感じなんですね」


 その声が少し面白がっていて、私はさらに恥ずかしくなった。ルークは、そんな私を完全に無視して微笑む。


「こんにちは」


 優雅に会釈する姿が、妙に様になっていた。そして次の瞬間、ルークは真っ直ぐ伊神さんを見た。


「紫乙を口説かないでくれる?」


 私は思わず頭を抱えた。とんでもないことを言い放ったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ