8-10
ルークが、ふわりと浮かぶ光へ向かって微笑んだ。そして、まるで誰かを歓迎するみたいに、優雅な仕草で静かに礼をする。その瞬間だった。恵介君の頭上に浮かんでいた白い光が、ぴょん、と小さく跳ねた。
「えっ」
恵介君が思わず声を漏らす。さらに、私の肩の辺りにも、ふわりと、別の光が現れていた。
「うわっ!?」
私は反射的に肩をすくめる。白く淡い光。でも、さっきより少し柔らかい色だった。ほんのり金色が混ざっているようにも見える。
『増えた!?』
『肩にいる!』
『かわいい』
『待って、今日情報量多い』
コメント欄が完全にお祭り状態になっていた。その中で、ルークだけが妙に落ち着いている。
「この光は、恋守神社から来ているんだよ」
静かな声だった。
「近くにあるお稲荷さんだ」
「え?」
ねえさんが目を丸くする。
「神社の……?」
「うん。光と影っていう稲荷の他に、“玉姫”っていう子もいる」
さらっと名前まで出てくる。私は思わず額を押さえた。
「待って。なんでそんな普通に説明できるの」
「知り合いだから」
「知り合いって何よ……」
小牧君なんて、完全に混乱していた。
「神様と知り合いってどういう世界!?」
コメント欄も爆速で流れていく。
『玉姫。かわいい名前』
『恋守神社、行ったことある』
『稲荷様!?』
その時。私の肩に浮かんでいた光が、ふわっと揺れた。まるで反応したみたいだった。ルークが小さく笑う。
「彼女、紫乙について行くって言ってる」
「えっ」
「気に入られたみたいだね」
私は思わず肩を見る。でも、そこに触れる感覚はない。ただ、温かい空気だけがある。
「え、家まで来るの?」
「うん」
ルークは平然としていた。
「恵介君には“光”がついてる。これから家へ行くらしい」
「家!?」
「お宅訪問だね」
ルークが、なぜか少し楽しそうに言う。
「神様ならではだ」
「いやいやいや!」
小牧君が慌てて声を上げる。
「そんな気軽に来るの!?」
「神社へ行くと、たまにあるよ」
ルークは静かに続けた。
「神様とか、眷属とか。気に入った相手の家へ遊びに来ることがある」
「遊びに……」
私は呆然と繰り返す。その時、恵介君の頭上にいた光が、またふわっと揺れた。まるで話を聞いているみたいだった。玲司さんが、その光を静かに見つめる。
「……悪いものではないんだな」
「うん」
ルークが頷いた。
「むしろ逆だよ」
その声は、珍しく真面目だった。
「悲しみの想念を掃き掃除してくれる。だから、怪異が起こりにくくなったり、病気が平癒へ向かったりするんだ」
風が吹く。木々がざわりと揺れた。私は、ふと恵介君を見る。帽子とマスクで顔は隠れている。でも、その目は少しだけ柔らかくなっていた。
「……掃除」
恵介君が小さく呟く。
「そう。人って、疲れたり苦しかったりすると、暗いものを溜め込むだろう?」
ルークの声は静かだった。
「神社っていうのは、そういうものを流す場所でもある」
コメント欄が、一瞬だけ静かになった気がした。
『なんか泣きそう』
『優しい話だった』
『怖い配信じゃなくなってる』
ねえさんが、小さく笑う。
「今日、ジャンル変わってない?」
「ほんとにね……」
私はため息混じりに呟く。でも、不思議だった。さっきまで怖かったはずなのに、今は空気が柔らかい。冷たい夜の公園なのに、どこか温かかった。
その時、私の肩にいた光が、ふわっと頬の近くまで浮かび上がる。
「ひゃっ」
思わず変な声が出た。すると、コメント欄が爆笑した。
『私もびっくりした』
『紫乙ちゃん、びびってる』
『玉姫ちゃん、距離近い』
「ちょ、近い近い!」
私は慌てる。でも、その光は楽しそうに揺れているだけだった。まるで、小動物みたいだった。その様子を見て、ルークが肩を震わせる。
「懐かれてるね」
「他人事みたいに言わないで」
私が睨むと、ルークは楽しそうに笑った。その隣で、恵介君が、頭上の光を見上げながら、小さく微笑んでいた。その顔が、少しだけ穏やかに見えて、私はなんとなく安心したのだった。




