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その時だった。恵介君が、突然驚いた声を上げた。全員の視線が、一斉にそちらへ向く。
「どうした!?」
小牧君が反射的に叫ぶ。恵介君は、帽子のつばを押さえたまま、遊歩道の奥を見つめていた。
「今……」
「なに見えたの?」
ねえさんが少し真面目な声で聞く。恵介君は、一瞬だけ言葉を探すみたいに黙った。
「丸い光です」
静かな声だった。
「白くて……、ふわっと浮いてました」
空気が変わる。コメント欄が、一気に流れ始めた。
『え!?』
『どこ!?』
『オーブ?』
『映った!?』
私は反射的に遊歩道の奥を見る。暗い。でも、確かに、空気が少し揺れているような感じがあった。
「どの辺?」
玲司さんが落ち着いた声で聞く。
「あの木の近くです」
恵介君が指差したのは、遊歩道の途中に立っている大きな木だった。街灯の光が半分だけ当たっていて、残りは暗闇へ沈んでいる。
「動いてた?」
「はい。浮いてました。こんな感じで……」
恵介君が、小さく手を動かす。ふわり。ふわり。漂うみたいな動きだった。
「怖……」
小牧君が思わず後退る。その時だった。
『今、白いの映った』
『左上!』
『え、待って、鳥肌』
コメント欄が急にざわついた。
「え?」
ねえさんが慌てて配信画面を確認する。
「ちょっと待って、ほんとに何か映ってる」
「うそ!?」
私はスマホを覗き込む。そこには、暗い遊歩道が映っていた。でも、一瞬だけ、確かに、小さな白い丸がふわりと横切っている。
「うわ……」
小牧君が本気で引いていた。
「やばくない!?」
「虫じゃない?」
「この時期に!?」
ねえさんが即座に否定する。たしかに、冬だ。虫が飛ぶ季節ではない。コメント欄も完全に騒然としていた。
『オーブじゃん』
『いや、反射では』
『でも、動き変じゃなかった?』
『小さいおじさんの仲間?』
「仲間って何よ……」
私は思わず呟く。すると、ルークが、身体の奥で静かに笑った。
(違うよ)
(違うの?)
(あれはもっと単純)
(単純?)
私は眉を寄せる。その時だった。
「……また!」
恵介君が、今度ははっきり声を上げた。全員が振り返る。そして。いた。遊歩道の途中。木の横。白い丸い光。ピンポン玉くらいの大きさだった。ふわり、と浮いている。
「えっ……」
ねえさんが息を呑む。小牧君なんて完全に固まっていた。
「なにあれ……」
光は、静かだった。強く発光しているわけじゃない。でも、暗闇の中では妙にはっきり見える。白くて。
少し青っぽくて。まるで、小さな月みたいだった。
『見えた!!!』
『うわああ』
『ガチだ』
『配信に映ってる』
コメント欄が爆速で流れる。その時、光が、ふわっ、と揺れた。そして、こっちへ近づいてきた。
「ひっ」
私は思わず声を漏らす。小牧君なんて、玲司さんの後ろへ完全に隠れていた。
「社長!!」
「落ち着け」
玲司さんが静かに言う。でも、その目は鋭く前を見ていた。恵介君は、逆に目を輝かせていた。
「綺麗……」
ぽつり、と呟く。その声が妙に静かで、私は少し驚いた。怖がるというより、見入っている。光は、ゆっくりこちらへ近づいてきた。音はしない。ただ浮かんでいる。すると、ルークが、小さく笑った。
(ああ、気に入られた)
(誰が!?)
(恵介君)
「え?」
思わず声が漏れた。その瞬間、白い光が、ふわりと、恵介君の近くまで移動した。
「うわっ」
恵介君は驚いたけれど、逃げなかった。光は、彼の帽子の周りをゆっくり回る。まるで観察しているみたいだった。
『懐かれてる!?』
『かわいい』
『ペットみたい』
「いやいやいや!」
小牧君が半泣きで言う。
「かわいい判定なの!?これ!?」
でも、怖いというより、不思議だった。嫌な感じがしない。むしろ、静かで、綺麗だった。その時、恵介君が、小さく笑った。
「……なんか、温かいです」
「え?」
私は驚く。
「近くに来ると、少しだけ」
恵介君は、光を見つめながら言った。すると、ルークが、静かに呟く。
(歓迎されてるんだよ)
(何に?)
(この場所にいるもの達に)
私は思わず黙る。その時だった。白い光が、ふわりと、上へ浮かび上がる。そして、木々の間へ溶けるみたいに消えていった。沈黙。数秒後。
「……消えた」
ねえさんが、小さく呟く。コメント欄は、まだ騒ぎ続けていた。
『録画した!!』
『神回』
『今日すごすぎ』
小牧君が、ようやく玲司さんの後ろから出てくる。
「もう帰ろう!?」
「早いのよ!」
ねえさんが吹き出した。その時だった。遊歩道のさらに奥。暗闇の中で。また、小さな光が、ひとつ、ふわりと揺れた。
「……増えてない?」
私は思わず呟く。すると、ルークが楽しそうに笑った。何も怖いことはないと言って。




