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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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8-8

 コメント欄が、とんでもない速度で流れていた。さっきの小さいおじさんが見えた人がいるようだ。光に見えた人もいて、様々だ。


『今の何!?』

『見えた!!』

『発光してた!』

『小さいおじさんいたよな!?』

『いや光だけだった』

『五ついた』

『絶対いたって!!』


 私はスマートフォン画面を見ながら、思わず目を瞬かせた。


「……見えてる人いる」


 ねえさんも、驚いたようにコメント欄を覗き込む。


「え、待って。“小さいおじさん”って言ってる人いるんだけど」

「いや、絶対ネタでしょ!?」

「でも数人いる!」


 小牧君が半笑いで声を上げる。コメント欄は完全に二派へ分かれていた。


『光が飛んだだけ』

『いや人型だった』

『小さいおじさんいた』

『帽子かぶってなかった?』

『スーツみたいなのいたよな!?』


「ちょっと待って」


 私は思わず額を押さえた。


「見え方違うの?」

(そういうこともある)


 ルークが、頭の奥で静かに答える。


(なんで?)

(認識の問題)


 さらっと言う。


(分かるように言って)

(脳が理解できる形で見るんだよ)


 私は一瞬黙った。つまり、光としてしか認識できない人もいるし、“小さいおじさん”として認識した人もいるということなのだろうか。


「なにそれ……」


 私は小さく呟く。その時だった。


「待って待って!」


 小牧君が急に声を上げた。


「クリップ切り抜かれてる!」

「早っ!?」


 ねえさんが吹き出す。


 小牧君が見せてきた画面には、数分前の映像を切り抜いた短い動画が、すでに拡散され始めていた。暗い植え込み。小さい光。そして、確かに、何か小さな人型っぽいもの。


「うわ……」


 私は思わず息を呑む。映像は粗い。でも、見る人によっては“いる”ように見える。


『完全に小さいおじさん』

『UMAでは?』

『妖精じゃん』

『宇宙人では?』


 コメント欄がさらに加速する。その時、ルークが、小さく笑った。


「人気者だね」

「あなたの知り合いでしょ……」


 私はぼそっと返す。すると。


「え?」


 ねえさんが振り返った。


「今なんて?」

「なんでもない」

「絶対なんか知ってる言い方した!」


 鋭い。私は思わず視線を逸らした。その横で、玲司さんが静かに周囲を見回している。


「……騒ぎすぎるといけないな」


 落ち着いた声だった。たしかにその通りだと思う。公園は静かだ。今のところ他人はいない。でも、配信は続いている。人が来る可能性だってある。


「少し場所移動する?」


 ねえさんが聞く。その時、恵介君が、ふと小さく声を漏らした。


「あ……」

「どうしたの?」


 私が聞くと、恵介君は遊歩道の奥を指差した。


「今、また光りました」


 全員がそちらを見る。暗い。何もない。でも、確かに、奥の方で一瞬だけ、小さな白い光が揺れた気がした。


「うわっ……」


 小牧君が、思わず玲司さんの後ろへ半分隠れる。


「怖い怖い怖い!」

「さっきまで一番煽ってたでしょ」


 ねえさんが呆れる。でも、彼女も少し顔が強張っていた。コメント欄も完全に盛り上がっていた。


『またいた』

『光った』

『録画した』

『ガチじゃん』


 その時、ルークの意識が、また静かに反応する。


(……まだいる)

(えっ)

(でも近づいてこない)


 私は小さく息を呑む。


(何が目的なの)

(見学)

(見学!?)


 私は危うく声に出しそうになった。でも、その時だった。カサッ。遊歩道脇の茂みが揺れた。


「っ!」


 全員が反応する。小牧君なんて半歩飛び上がっていた。そして、茂みから出てきたのは――。


「……猫?」


 白黒の猫だった。一瞬の沈黙。そして。


「うわあああ!!」


 小牧君が叫ぶ。


「びっくりしたあああ!!」


 その声で、緊張が一気に崩れた。ねえさんがしゃがみ込んで笑っている。


「もうやだこの人!」

「猫に負けてるじゃん!」

「だって今のタイミング反則でしょ!?」


 コメント欄も爆笑だった。


『猫www』

『小牧くんビビりすぎ』

『かわいい』

『癒し枠来た』


 猫は、そんな騒ぎなど気にせず、ゆっくり遊歩道を横切っていく。その後ろで。一瞬だけ。また、小さな光が揺れた。まるで、その猫についていくみたいに。


(……あ)


 私は目を細める。すると、ルークが静かに笑った。


(仲良しなんだよ)

(猫と?)

(うん)


 なんだそれ。私は少しだけ力が抜ける。怖い。でも、どこか変だった。普通の怪談みたいな“嫌な感じ”じゃない。むしろ、妙に生活感がある。小さいおじさん達が、普通に公園をうろうろしているみたいな、不思議な空気だった。


「……なんかさ」


 ねえさんが、笑いながら言った。


「今日、“怖い”より“変”じゃない?」

「分かります」


 恵介君も頷く。


「不思議ですけど、嫌な感じがしない」


 玲司さんも静かに口を開いた。


「場所の空気が重いわけではないな」


 その言葉に、私は少し安心した。すると、小牧君が、配信画面を見ながら突然声を上げる。


「待って!」

「今度は何!?」

「コメント欄に、“おじさん六体いた”って人いる!」


「え?」


 私は固まった。五体だったはずだ。でも、コメント欄には確かに流れていた。


『いや、六体いた』

『一番後ろの木のとこ』

『帽子のやつ含めて、六』


 私はゆっくり振り返る。暗い木々。揺れる枝。その奥。一瞬だけ、木の陰から、小さな何かがこちらを見ていた気がした。そして、ぺこり、と頭を下げたみたいに見えた次の瞬間には、もう消えていた。

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