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コメント欄が、とんでもない速度で流れていた。さっきの小さいおじさんが見えた人がいるようだ。光に見えた人もいて、様々だ。
『今の何!?』
『見えた!!』
『発光してた!』
『小さいおじさんいたよな!?』
『いや光だけだった』
『五ついた』
『絶対いたって!!』
私はスマートフォン画面を見ながら、思わず目を瞬かせた。
「……見えてる人いる」
ねえさんも、驚いたようにコメント欄を覗き込む。
「え、待って。“小さいおじさん”って言ってる人いるんだけど」
「いや、絶対ネタでしょ!?」
「でも数人いる!」
小牧君が半笑いで声を上げる。コメント欄は完全に二派へ分かれていた。
『光が飛んだだけ』
『いや人型だった』
『小さいおじさんいた』
『帽子かぶってなかった?』
『スーツみたいなのいたよな!?』
「ちょっと待って」
私は思わず額を押さえた。
「見え方違うの?」
(そういうこともある)
ルークが、頭の奥で静かに答える。
(なんで?)
(認識の問題)
さらっと言う。
(分かるように言って)
(脳が理解できる形で見るんだよ)
私は一瞬黙った。つまり、光としてしか認識できない人もいるし、“小さいおじさん”として認識した人もいるということなのだろうか。
「なにそれ……」
私は小さく呟く。その時だった。
「待って待って!」
小牧君が急に声を上げた。
「クリップ切り抜かれてる!」
「早っ!?」
ねえさんが吹き出す。
小牧君が見せてきた画面には、数分前の映像を切り抜いた短い動画が、すでに拡散され始めていた。暗い植え込み。小さい光。そして、確かに、何か小さな人型っぽいもの。
「うわ……」
私は思わず息を呑む。映像は粗い。でも、見る人によっては“いる”ように見える。
『完全に小さいおじさん』
『UMAでは?』
『妖精じゃん』
『宇宙人では?』
コメント欄がさらに加速する。その時、ルークが、小さく笑った。
「人気者だね」
「あなたの知り合いでしょ……」
私はぼそっと返す。すると。
「え?」
ねえさんが振り返った。
「今なんて?」
「なんでもない」
「絶対なんか知ってる言い方した!」
鋭い。私は思わず視線を逸らした。その横で、玲司さんが静かに周囲を見回している。
「……騒ぎすぎるといけないな」
落ち着いた声だった。たしかにその通りだと思う。公園は静かだ。今のところ他人はいない。でも、配信は続いている。人が来る可能性だってある。
「少し場所移動する?」
ねえさんが聞く。その時、恵介君が、ふと小さく声を漏らした。
「あ……」
「どうしたの?」
私が聞くと、恵介君は遊歩道の奥を指差した。
「今、また光りました」
全員がそちらを見る。暗い。何もない。でも、確かに、奥の方で一瞬だけ、小さな白い光が揺れた気がした。
「うわっ……」
小牧君が、思わず玲司さんの後ろへ半分隠れる。
「怖い怖い怖い!」
「さっきまで一番煽ってたでしょ」
ねえさんが呆れる。でも、彼女も少し顔が強張っていた。コメント欄も完全に盛り上がっていた。
『またいた』
『光った』
『録画した』
『ガチじゃん』
その時、ルークの意識が、また静かに反応する。
(……まだいる)
(えっ)
(でも近づいてこない)
私は小さく息を呑む。
(何が目的なの)
(見学)
(見学!?)
私は危うく声に出しそうになった。でも、その時だった。カサッ。遊歩道脇の茂みが揺れた。
「っ!」
全員が反応する。小牧君なんて半歩飛び上がっていた。そして、茂みから出てきたのは――。
「……猫?」
白黒の猫だった。一瞬の沈黙。そして。
「うわあああ!!」
小牧君が叫ぶ。
「びっくりしたあああ!!」
その声で、緊張が一気に崩れた。ねえさんがしゃがみ込んで笑っている。
「もうやだこの人!」
「猫に負けてるじゃん!」
「だって今のタイミング反則でしょ!?」
コメント欄も爆笑だった。
『猫www』
『小牧くんビビりすぎ』
『かわいい』
『癒し枠来た』
猫は、そんな騒ぎなど気にせず、ゆっくり遊歩道を横切っていく。その後ろで。一瞬だけ。また、小さな光が揺れた。まるで、その猫についていくみたいに。
(……あ)
私は目を細める。すると、ルークが静かに笑った。
(仲良しなんだよ)
(猫と?)
(うん)
なんだそれ。私は少しだけ力が抜ける。怖い。でも、どこか変だった。普通の怪談みたいな“嫌な感じ”じゃない。むしろ、妙に生活感がある。小さいおじさん達が、普通に公園をうろうろしているみたいな、不思議な空気だった。
「……なんかさ」
ねえさんが、笑いながら言った。
「今日、“怖い”より“変”じゃない?」
「分かります」
恵介君も頷く。
「不思議ですけど、嫌な感じがしない」
玲司さんも静かに口を開いた。
「場所の空気が重いわけではないな」
その言葉に、私は少し安心した。すると、小牧君が、配信画面を見ながら突然声を上げる。
「待って!」
「今度は何!?」
「コメント欄に、“おじさん六体いた”って人いる!」
「え?」
私は固まった。五体だったはずだ。でも、コメント欄には確かに流れていた。
『いや、六体いた』
『一番後ろの木のとこ』
『帽子のやつ含めて、六』
私はゆっくり振り返る。暗い木々。揺れる枝。その奥。一瞬だけ、木の陰から、小さな何かがこちらを見ていた気がした。そして、ぺこり、と頭を下げたみたいに見えた次の瞬間には、もう消えていた。




