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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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8-6

 風が吹いた。木々がざわりと揺れる。暗い遊歩道の奥から、冷たい空気が流れてくる。その直後だった。ふわりと、身体の奥へ、静かな熱が入り込んでくる感覚があった。


(あ……)


 分かる。ルークだ。ウォークインしてきたのだと、すぐに理解した。視界が少しだけ澄んでいく。耳へ入る音が、妙にはっきり聞こえる。遠くの車の走行音。風で擦れる葉の音。誰かの足音。全部が近い。


「紫乙ちゃん?」


 ねえさんが、少し不思議そうにこちらを見る。私は返事をしようとして、身体が自然に前へ動くのを感じた。まるで、誰かにそっと背中を押されたみたいだった。でも、怖くはない。ルークは、無理やり動かしたりはしない。私が「動きたい」と思う方向へ意識を合わせてくる。だから、最初だけ少し感覚がズレるけれど、すぐに馴染む。歩幅も。呼吸も。ゆっくり重なっていく。その感覚に慣れた頃には、動きはもう自然だった。


(……また、何か見せる気ね)


 私は小さく息を呑む。こういう時は決まっている。ルークが、何かを感じ取っている時だ。そして、それは配信にも映る。私は少し緊張した。本当は、怖い話なんて苦手なのだ。暗い場所も好きではない。子供の頃なんて、怪談番組を見た日はトイレへ行けなくなるタイプだった。なのに、どうして今、自分が夜の公園で心霊配信なんかしているのだろう。


(不思議……)


 もともとは、兄の体験談を話すだけの配信だった。兄が見たもの。聞いた声。妙な体験。それを雑談みたいに話していただけだったのに。いつの間にか、実際の場所へ行くようになっていた。国道脇のビニールハウス。山のトンネル。夜の公園。古い階段。配信者たちと一緒に、そういう場所を巡るようになっていたのである。そして今も。コメント欄が高速で流れていた。


『雰囲気変わった?』

『今なんか空気変わった』

『ルークさんがいるから』


 鋭い人は、本当に鋭い。私は苦笑しそうになる。その時だった。ルークの意識が、静かに私の視線を誘導した。遊歩道の奥。街灯と街灯の間。暗く沈んでいる場所。そこに――。


(……誰かいる?)


 一瞬だけ、人影みたいなものが見えた気がした。背の高い影。でも、次の瞬間には木の陰へ溶けるみたいに消えてしまう。


「っ……」


 私は反射的に息を呑んだ。


「紫乙ちゃん?」


 ねえさんが声をかける。小牧君も、すぐカメラをこちらへ向けた。


「なになに!?」

「今、なんか見た?」

「え、ガチ?」


 コメント欄が一気に加速する。


『いた?』

『今の何』

『鳥肌立った』


 私はすぐ答えられなかった。でも、その時、ルークの声が、頭の奥で静かに響く。


(大丈夫)


 落ち着いた声だった。


(怖がらせたいわけじゃない)

(……なにがいるの)

(人じゃない。でも、悪意は薄い)


 私は少しだけ肩の力を抜いた。すると、身体がまた自然に前へ動き始める。ルークが導いている。私はそれに合わせて歩いた。遊歩道へ足を踏み入れる。落ち葉を踏む音が、妙に大きく響いた。


「うわ、雰囲気ある……」


 小牧君が小声になる。さっきまで騒いでいたのに、さすがに緊張しているらしい。ねえさんも、少し真面目な顔になっていた。玲司さんは小牧君の配信に映りながら、静かについてきている。その隣には恵介君。帽子を深く被ったまま、周囲を見回していた。


「大丈夫?」


 私は小声で聞く。


「はい……」


 恵介君は頷いた。


「怖いですけど、楽しいです」


 その返事に、私は少し笑ってしまう。分かる気がした。怖い。でも、どこかワクワクしてしまう。夜の非日常。仲間と一緒に歩く暗い道。配信のコメント。遠くの笑い声。そういう全部が混ざって、不思議な高揚感になっていた。


 その時だった。ルークの意識が、急に強く反応した。


(止まって)


 私は足を止める。


「え?」


 ねえさん達も止まった。風が吹く。木々が揺れる。そして。


 ――カラン。


 どこかで、金属音みたいなものが鳴った。全員が息を止める。


「……今の何?」


 小牧君が小声で言う。コメント欄が一気に流れた。


『聞こえた』

『やば』

『誰かいる?』


 私は暗闇を見る。そこには、何もない。でも、確かに、何かの気配だけがあった。その時、ルークが、私の身体を通して小さく笑った。


(……面白くなってきたね)


 私は思わず、息を飲んだ。ルークがそうやって笑う時、何かする時だ。わざと恐怖心をあおってきて、私にリアクションを起こさせる。怖くて声が震えたり、足が動かなくなったりする。それが私の配信のお馴染みの光景だ。

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