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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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8-2

 玲司さんも、恵介君も、その話を疑う様子はなかった。ルークが膨れている理由もだ。“彼女を助手席へ乗せて、自分で運転できないのが面白くない”。そんな子供みたいな理由で機嫌を損ねていることを、二人とも自然に理解しているらしい。ベイブリッジの件も同じだった。玲司さんは大人だから、特に茶化すこともなく、穏やかに対応している。――まあ、それはそうだよね。そんな空気感だった。


「ルーク君。まあ、そう言わずに。紫乙君の意見も聞いておくべきだ」


 玲司さんが、穏やかな声で言う。


「そうですよね」


 私はすぐ頷いた。すると、ルークは少しだけ笑った後、またぷうっと頬を膨らませ、ぷいっと横を向いてしまった。完全に、私のことを困らせに来ている。私は思わずため息をつく。


「ほら、また始まった」

「分かりやすいですね……」


 恵介君が苦笑する。


「紫乙さんが他の人を褒めると、いつもこうなんですか?」

「最近は特にね」


 私が言うと、ルークがすぐ反応した。


「だって今日、玲司君のこと三回褒めてた」

「数えてたの?」

「当然だよ」


 怖い。私は額を押さえた。


「別に変な意味じゃないわよ。ただ、気遣いできる人だなって思っただけ」

「それが嫌なんだよ」

「面倒くさいわねえ……」


 私が呆れると、玲司さんが小さく笑った。


「嫉妬されるうちが華だ」

「玲司さんまで……」


 私は思わず笑ってしまう。すると、ルークがちらりとこちらを見た。


「ほら、また楽しそうにしてる」

「だから何よ」

「紫乙はすぐ人を好きになる」

「語弊がある言い方やめて」


 恵介君が吹き出す。車内の空気は、完全に和んでいた。でも、その時ふと思う。夢の中のルークは、大人だったと。静かで。落ち着いていて。軍服姿で、どこか近寄りがたいくらい綺麗だった。ミケーネを抱きしめていた時の顔なんて、今のルークと同じ人物とは思えないほどだった。なのに、現実のルークは、ベイブリッジを褒められた程度で頬を膨らませている。私は思わず、小さく笑ってしまった。


「なに?」

「いや……」


 私は窓の外を見ながら答える。


「夢の中のあなた、もっと格好よかったなって」

「夢?」


 ルークが瞬きをする。


「どんな?」

「大人だった」

「今も大人だよ」

「今は子供」

「ひどい」


 ルークが本気で傷ついた顔をする。でも、恵介君が横で笑いながら頷いた。


「ちょっと分かります」

「恵介君まで?」

「だって今、拗ね方が完全に高校生ですよ」


 その言葉に、玲司さんまで肩を震わせた。笑いを堪えている。ルークはしばらく黙り込んだ後、小さくぼやいた。


「みんなして僕に厳しい……」

「自業自得よ」


 私が返すと、ルークはまた頬を膨らませる。でも、その横顔はどこか楽しそうだった。私はそんなルークを見ながら、少しだけ安心していた。夢の中の彼は、あまりにも静かで、遠かったから。今みたいに、くだらないことで拗ねて、私へ絡んできてくれる方が、ずっと“ルークらしい”と思えたのである。


「でも」


 私は、小さく笑いながら続けた。


「かっこいいところもあるのにね」


 その瞬間だった。ルークが、ぴたりと頬を膨らませるのをやめた。


「……え?」


 完全に予想外だったらしい。ぽかん、とした顔でこちらを見ている。私は思わず吹き出しそうになる。


「なによ、その顔」

「いや……」

「今の顔は、ちょっとかっこいいわよ」


 そう言った瞬間だった。ルークが、すっとスマートフォンを取り出した。


「……なにするの?」


 嫌な予感しかしない。するとルークは、何事もなかったみたいな顔で画面を操作し始めた。そして。


「あ、入れた」


 平然と言う。


「は?」


 私は固まった。


「パスワード思い出した」

「今!?」

「うん」


 絶対に嘘だ。さっきまで何度聞いても「忘れた」と言っていたくせに。私は思わず身を乗り出した。


 ルークがスマートフォンをスクロールしている。笑っている。やっぱり、パスワードを忘れていたというのは嘘だったのだ。私を困らせて遊んでいたに違いない。


「ちょっと待って。なんで今なのよ」

「紫乙が褒めるから」

「意味分かんない!」


 その瞬間。後ろで、恵介君が耐えきれなくなったみたいに吹き出した。


「ははは!」


 本気で笑っている。肩を震わせながら、マスクを押さえていた。


「だめだ……。分かりやすすぎる……」

「恵介君まで笑わないで」


 私は思わず額を押さえる。でも、玲司さんまで前で小さく笑っていた。


「機嫌が直ったんだな」

「現金ですよね……」


 恵介君が笑いながら言う。ルークは悪びれもしない。


「人間、愛情が大事だからね」

「あなた宇宙人でしょ」

「今は人間寄り」


 都合がいい。私はため息をつきながら、スマホ画面を覗き込んだ。本当にログインできている。問題のアカウントだ。


「あっ!」


 私は思わず声を上げた。


「待って、勝手に触らないで」

「大丈夫だよ」

「なにが!?」


 ルークは楽しそうにスクロールしている。そこには、十年前のお台場の写真が表示されていた。若い私。今より髪が長い。そして、隣には元彼。夜景を背に笑っている。


「うわあ……、若いですね」


 恵介君がぽつりと言う。


「やめて」

「でも雰囲気、今とちょっと違う」

「そう?」

「今より尖ってる感じがします」


 私は画面を見ながら苦笑した。たしかにそうかもしれない。あの頃は、今よりずっと無理をしていた。配信もしていなかったし、人付き合いも苦手だった。世界が、もっと狭かった気がする。

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