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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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8-1 心霊スポットの友情と愛情

 12月30日、火曜日。20時。


 玲司さんが運転する車が、私の家の前へ静かに停まった。今夜は、横浜市内の公園で配信をする日だ。横浜の公園にある“噂のトンネル”へ向かう。


 ヘッドライトが夜道を照らす。私はマフラーを巻き直しながら、停車した車へ近づいた。車内を見ると、後部座席へ座っていた恵介君が、窓越しにこちらへ手を振っている。帽子を深く被り、黒いマスクまでしていた。完全に変装モードだ。その姿を見て、私は思わず笑ってしまう。


「怪しすぎない?」

「バレたくないんです」


 窓が少し開き、恵介君が真面目な顔で返してきた。


「オンライズの帽子、どうですか?」

「似合っているわよ」


 深めの黒いキャップは、たしかに顔を隠しやすい。夜ならかなり分かりづらいだろう。私はルークと一緒に後部座席へ乗り込んだ。


「こんばんは」

「こんばんは」


 玲司さんが、運転席から穏やかに振り返る。今日はスーツではなかった。黒のニットに、シンプルなコート。休日らしい柔らかな服装だ。それでも雰囲気は相変わらず落ち着いていて、どこか上品だった。


「すみません、迎えに来てもらって」

「気にしなくていい。人数がいる方が安心だろう」


 玲司さんは静かに微笑む。その横で、ルークがシートへ深く座り込んだ。


「夜のドライブだ」

「遊びに行くんじゃないのよ」

「心霊スポットも十分遊びだと思うけど」


 その言葉に、恵介君が吹き出した。


「たしかに」

「ほら」

「肯定しないで」


 私は呆れる。でも、車内の空気はどこか明るかった。恵介君は、出発前から少しそわそわしている。久しぶりの夜の外出なのだ。それだけで、気持ちが高ぶっているのかもしれない。


「緊張してる?」

「少し」


 恵介君は素直に頷いた。


「でも、楽しみです」

「顔が完全に遠足前の人なのよね」


 私が言うと、彼は少し照れくさそうに笑った。その様子を、玲司さんがバックミラー越しに静かに見ている。どこか安心したような目だった。そして。


「シートベルト、大丈夫か?」


 優しい声で確認する。


「はい」

「ルークも」

「してるよ」


 ルークが軽く答える。すると、玲司さんはエンジン音を少し上げ、静かに車を発進させた。夜の街が、ゆっくり後ろへ流れていく。年末の空気は独特だった。車の量は多いのに、どこか浮かれていて、少し静かだ。店の灯り。コンビニ。イルミネーション。その光を眺めながら、私は小さく息を吐いた。


 これからねえさんのことを宿泊先の新宿のホテルの下まで迎えに行く。小牧君ともそこで集合になっている。そこで、私たちは合流し、この車で横浜へ向かう。ベイブリッジを車から見物して行きたいから、公園での22時からの配信予定に合わせて、少し早めに出てきた。


「紫乙。何度見ても同じだよ」

「もう。あなたのせいよ」

「そうだね。僕のせいだ」


 私の手元にはスマートフォンがある。私のインスタのサブのアカウントを開こうとしているが、パスワードを忘れてしまって開けなかった。何度やっても駄目だった。端末にパスワードを記憶しておらず、私自身も間違えて記憶してしまったから、何度打ってみてもエラーになる。このアカウントを作ったのはルークだ。私に強引にウォークインして遊んでいた。でも、パスワードを忘れたと言った。だから、二人とも分からない状態だ。でも、ルークは嘘をついているのだと思う。私にこのアカウントを消させないためだ。


 私はこのアカウントに載せてある写真を非公開にしたかった。私の元彼が写っている写真だからだ。今から10年前に少しだけ付き合った人で、お台場でデートをした時の写真だ。どうして写真が残っていたかというと、偶然だった。私自身もよく覚えていなかった。それをルークが見つけて、インスタのアカウントを作って載せてしまった。他にも数枚の写真があるが、私の配信先での写真ばかりだ。コラボの相手が写っている。問題はなかった。でも、元彼の写真はやめてほしかった。だから消そうと思ったら、この状況だ。アカウントは残り続けるし、写真も消えない。


 これはルークの悪戯だ。意地悪ともいう。今日、昼ご飯を食べているときに、私が玲司さんのことを褒めたから、ぷうっと膨れていた。玲司さんがベイブリッジの方を通って公園に行くとラインをくれたから、素敵だなと思って口にしただけだ。ルークは面白くなかったらしい。今も膨れている。


 理由はもう一つある。私が車の運転をさせないからだ。免許を持っていないから当然だ。でも、ルークは運転できるという。今も恵介君に話している。祖国で取った運転免許があるのだと。でも、ルークは運転が雑だからという理由で、日本で運転できるように手続きを取らせていないのだと、私の方から説明してある。

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