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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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7-8

 ドライヤーの音が止まる。部屋が、急に静かになった。私は髪を軽く指で整えながら、ベッドへ腰を下ろす。時計を見る。まだ20時過ぎだ。編集したい動画がある。昨日のアンダーウェアの切り抜き候補も確認したいし、ねえさんとのトンネル配信のサムネ案も考えておきたかった。


「……やること、多い」


 小さく呟いた、その時だった。後ろから、ふわりと腕が回される。


「えっ」


 ルークだった。後ろから、そのまま抱きしめられる。体温が近い。少し熱い。


「ちょ、なに……」


 私が言い終わる前に、ルークが耳元へ顔を寄せた。


「君のことを愛しているんだ」


 低い声。耳へ熱い息がかかる。ぞくっ、と背筋が震えた。


「……っ」


 思わず肩が跳ねる。その反応を面白がるみたいに、ルークが小さく笑った。そして、ぺろ、と耳を軽く舐める。


「ちょっと!」


 慌てて振り返ろうとした瞬間、今度は軽く噛まれた。痛くはない。でも、優しく歯を立てられる感覚が妙にくすぐったくて、変に力が抜ける。


「なにするのよ……」


 抗議すると、ルークは楽しそうだった。


「可愛い声、出た」

「出してない!」


 私は顔が熱くなるのを感じながら、ルークの腕を叩く。でも、次の瞬間、そのまま後ろへ倒された。


「わっ」


 ベッドへ沈む。ルークが上から覗き込んでくる。銀色の髪が少し落ちてきて、視界が近い。見つめ合う。静かな部屋。暖房の音だけが小さく聞こえていた。こういうことをされるのは、珍しい。ルークは普段、距離感がおかしいくせに、本気で押してくることはあまりない。だから余計に、調子が狂う。


「……どうしたの?」


 私が聞くと、ルークは少しだけ唇を尖らせた。


「だから、嫉妬」

「は?」

「玲司君と親しくなってたから」


 予想外すぎる返事だった。この間、話し合ったはずだ。私は思わず瞬きを繰り返す。


「恵介君の姉みたいだって言われて、君、嬉しそうに笑ってただろう?」


 その言い方が、妙に拗ねている。


「……そこ?」

「忘れられない」


 ルークは真顔で言った。でも、その後、ぷうっ、と頬を膨らませる。


「……なにその顔」

「君の真似」

「やめて」


 私は思わず吹き出した。五十里邸での顔を思い出す。子供みたいだった。さっきまであんな空気出していたくせに、急にこれである。


「君も膨らませて」


 ルークが言う。


「なんでよ」

「見たい」

「嫌」


 でも、ルークは笑っている。本気で嫉妬しているのか、ただ面白がっているのか、正直よく分からなかった。私はため息をつきながら、ルークの額を軽く押した。


「重い」

「愛が?」

「体重が」


 即答すると、ルークが笑った。その笑い方が妙に優しい。そして。


「じゃあ、眠り魔法かけようか」


 突然そんなことを言い出す。


「嫌」


 私は即答した。


「まだ動画編集したいの」

「今日くらい休みなよ」

「年末なの。今やらないと溜まるのよ」


 配信関係は、後回しにすると本当に終わらない。切り抜き。概要欄。サムネ。連絡。やることはいくらでもある。でも、ルークは諦めなかった。


「少しだけ」

「だめ」

「五分」

「短いわね」


 私が呆れると、ルークはそのまま隣へ寝転がった。そして、自然に私を抱き寄せる。


「……ちょっと」


 抗議しようとした瞬間、背中をゆっくり撫でられた。一定のリズム。優しい手。


「寝物語する」

「それ、一番危険なやつじゃない……」


 私は思わず顔をしかめる。でも、正直、少し気持ちいい。風呂上がりの身体。暖かい布団。静かな部屋。そこへ一定のリズムで背中を撫でられる。眠くならない方がおかしい。


「困るわ……」


 私はぼそっと呟いた。


「編集……」

「明日できる」

「絶対眠らせる気じゃない」

「うん」


 即答だった。ルークの声が近い。耳へ落ちてくるみたいに、静かだった。


「昔ね」


 ぽつりと語り始める。


「宇宙船の窓から、雪みたいな星雲を見たことがある」


 私は目を閉じたまま、その声を聞く。


「白くて、ゆっくり流れてて。地球の吹雪みたいだった」

「……うん」

「でも寒くないんだ」

「宇宙だから?」

「そう」


 背中を撫でる手が止まらない。眠気が、ゆっくり落ちてくる。


「そこで眠るとね、夢が長くなる」

「なにそれ……」


 私は少し笑う。でも、瞼はもう重かった。ルークの声は、時々こうして不思議な世界を連れてくる。嘘みたいで。本当みたいで。気づくと、聞き入ってしまう。


「紫乙」


 名前を呼ばれる。


「……なに」

「おやすみ」


 優しい声だった。私は小さく息を吐く。


「……まだ寝ないって言ってるのに」


 そう言いながらも、身体はもう動かなかった。ルークの腕の中は暖かい。背中を撫でる手も、一定で心地いい。私は目を閉じたまま、ルークの語る話へ耳を傾ける。遠い星の話。夜空の話。静かな宇宙の話。その声を聞いているうちに、意識は少しずつ沈んでいった。

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