表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/175

7-7

 20時。


 帰宅して二時間が経った。風呂上がりの身体へ、まだ少し熱が残っている。私は洗面所で髪を拭きながら、小さく息を吐いた。今日一日、ずっと動いていた気がする。五十里邸で料理を作って、買い物の整理をして、帰宅してからは洗濯機まで回した。年末というだけで、どうしてこうもやることが増えるのだろう。


「疲れた……」


 ぼそっと呟きながら、私はパジャマを取り出した。ゆったりしたグレーのスウェット生地。冬はこれが一番楽だ。私は部屋へ戻り、髪を乾かしながら着替え始めた。その時だった。


「……」


 視線を感じる。振り向く。ルークが、ベッドへ腰掛けたままこちらを見ていた。じっと。妙に真顔だ。


「……そんなに見ないで」


 私は思わず眉を寄せた。


「いやらしい人ね」

「え?」


 ルークが少し首を傾げる。


「君の裸を見ても、別に何も思わないよ」

「それはそれで失礼なんだけど」


 即座に返す。すると、ルークは平然とした顔で続けた。


「今さらだからね」

「今さら?」

「君が危険だった時、24時間ウォークインしてたし」


 私は、パジャマの袖を通しかけたまま止まった。


「……は?」

「僕が君の前へ姿を見せる前からだよ」


 さらっと言う。私は思わず振り返った。


「ちょっと待って」

「なに?」

「それ、どういう意味?」


 ルークは、まるで天気の話でもするみたいな顔で答える。


「地球へ来てる宇宙人の中には、人間の研究をしてるチームがあるんだ」

「……うん?」

「本人の同意なく身体検査しようとする連中もいる」


 一瞬、沈黙する。


「怖っ」

「だから見張ってた」

「さらっと言わないで」


 私は思わず額を押さえた。ルークは、本当に時々、とんでもないことを自然に言う。


「紫乙、霊感強いだろう?」

「……まあ」

「だから目をつけられやすい。凰李も同じだ」


 ルークは静かに続ける。


「感受性が強い人間は、“アクセスしやすい”んだよ」

「その言い方やめて」


 なんだか機械みたいで怖い。私はベッドへ座り込み、髪を拭くタオルを握りしめた。


「……で、その研究チームとやらが、夜中に来るの?」

「来ようとする」


 ルークが訂正する。


「でも、僕が断ってた」

「断るって、どうやって」

「“今は駄目です”って」


 まるで宅配業者みたいな言い方だった。


「いや、意味分かんないんだけど」

「大丈夫。ちゃんと話し合いで済んでる」

「話し合ってる時点で怖いのよ!」


 私は思わず叫ぶ。ルークは楽しそうに笑った。


「最近は減ったんだけどね」

「最近は?」

「クリスマスイブの配信を見た存在がいたじゃないか」

「ああ、調べるって言ってたやつね」

「念のため、警戒は必要かな」

「そうね……。お兄ちゃん、大丈夫なの?」

「今のところ問題ない」


 ルークは静かに答えた。


「ちゃんと見てるから」

「あなた、どこまでやってるの……」


 本気で分からなくなる。ルークは、私の前ではふざけてばかりだ。今だって、どこか飄々としている。でも、時々こうして真面目な顔になる。その時のルークは、静かで、落ち着いていて、妙に安心するのだ。


「紫乙」


 名前を呼ばれる。


「なに?」

「僕がいるから、大丈夫だよ」


 その声は、驚くくらい穏やかだった。私は少しだけ黙る。本当は怖い。宇宙人がどうとか。研究がどうとか。普通なら笑い飛ばして終わる話なのに、ルークが言うと妙に現実味がある。でも。


「……ちゃんと守ってよね」


 気づけば、そう言っていた。ルークが小さく笑う。


「もちろん」


 その笑顔は、どこか優しかった。私は髪を乾かしながら、小さく息を吐く。ルークがいると、“なんとかなる気がする”のが悔しかった。


 ドライヤーの温風が、静かな部屋へ響く。私は鏡を見ながら髪を乾かし始めた。少しずつ水気が飛び、肩へ落ちる髪が軽くなる。その後ろで、ルークがベッドへ寝転がったままこちらを見ている。


「まだ見てる」

「見てるよ」


 悪びれもせず返ってくる。


「暇なの?」

「紫乙を見てると飽きない」

「変態みたいなこと言わないで」


 私は半目になる。すると、ルークが小さく笑った。


「明日、楽しみ?」

「……まあね」


 私はドライヤーを動かしながら答える。


「久しぶりに遠出っぽいし」

「恵介君、かなり嬉しそうだった」

「そうね」


 本当に、顔が明るかった。帽子の話をしていた時なんて、完全に年相応の青年だった。


「玲司さんも優しいし」


 今日から社長の呼び方が変わった。玲司さんが、そうしてくれと言うからだった。ルークの反応が心配だったけれど、何も言っていなかった。今も私が何気なく言うと、ルークがじっとこちらを見た。


「またそれ」

「なによ」

「紫乙、あの人のこと結構好きだよね」

「誤解を生む言い方しないで」


 私は思わず吹き出す。


「人として安心するって意味よ」

「ふうん」


 ルークが少しだけ頬を膨らませた。まだ引きずっているらしい。


「嫉妬?」

「少し」


 素直に認める。私は呆れながら、ドライヤーを続けた。すると、ルークがぽつりと言った。


「でも、紫乙が楽しそうだったから、僕も嬉しかった」


 その声は、驚くくらい優しかった。私は少しだけ視線を逸らしながら、小さく息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ