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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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7-6

 恵介君は、目に見えて機嫌が良くなっていた。さっきまで少し遠慮がちだったのに、今はもう完全に“明日の予定”へ頭が向いている。私は鍋をかき混ぜながら、ふと思う。


「でも、帽子どうするの?今日買いに行くの?」


 そう聞くと、恵介君は、ぱっと社長の方を見た。


「玲司さんにお願いしようと思って」


 社長が静かにコーヒーを置く。


「明日の夕方から動くなら、それまでに買ってこられる」

「店、決めてるの?」


 私が聞くと、恵介君が少し嬉しそうに頷いた。


「プラセルのオンライズです」

「あー……」


 私は納得した。プラセルの若者向けブランド。シンプルだけれど、シルエットが綺麗で、マスクとの相性もいい。


「オンライズのキャップ、深く被れるんですよ」


 恵介君が説明する。


「つば長めのやつ」

「それなら、顔がかなり隠れるわね」


 私は頷いた。たしかに、あのデザインなら変装としても優秀だ。ルークが横から口を挟む。


「じゃあ、紫乙も帽子買えば?」

「私はいいわよ」

「お揃いになるのに。若い子向きの帽子でさ」

「嫌な言い方しないで」


 私が呆れると、恵介君が笑った。その笑顔が、少し前より自然だった。私は野菜を盛り付けながら、その様子を眺める。本当に、少しずつだ。でも、ちゃんと空気が変わってきている。


「オンライズなら、黒かな」


 恵介君がスマホで商品ページを見せてくる。


「あ、この形いい」

「ほんとだ」


 深めのキャップで、ロゴも小さい。夜ならかなり目立たないだろう。


「これなら配信に映っても大丈夫そう」

「でしょう?」


 恵介君が少し得意そうに笑う。そのやり取りをしながら、私は冷蔵保存用の容器へスープを移していった。湯気が上がる。キッチンは暖かかった。そんな中、ふいに視線を感じる。顔を上げると、社長がこちらを見ていた。優しい顔だった。静かで、穏やかな眼差し。


「……え?」


 思わず動きが止まる。その瞬間、自分でも分かるくらい変にドキッとしてしまった。すると、社長が小さく笑った。


「すまない。見ていた」

「い、いえ……」


 私は慌てて鍋へ視線を戻す。なんだろう。この人は時々、妙に距離感がおかしくなる。圧があるわけじゃない。むしろ静かなのに、視線だけで空気が変わる。社長は少し考えるように言った。


「五十里家は、男ばかりの一家だからな」

「え?」

「恵介に姉がいたら、こんな感じだったのかもしれないと思って」


 一瞬、言葉が止まる。その横で、恵介君が小さく頷いた。


「……たしかに」


 妙に納得した顔だった。


「紫乙さん、お姉ちゃんっぽいです」

「そう?」

「料理しながら怒るし」

「最後いらないわよ」


 思わず笑ってしまう。でも、その空気はどこか温かかった。家族ではない。けれど、少しだけ似ている。そんな距離感だった。その時だった。


「……むう」


 変な声が聞こえる。振り返る。ルークだった。なぜか頬をぷうっと膨らませている。完全に不満顔である。


「なによ、それ」

「別に」


 絶対別にじゃない。社長も少し困ったように笑った。


「すまない」

「紫乙の真似だよ」


 ルークが真顔で言う。


「君、時々そうやって膨らむだろう?」

「人を変な生き物みたいに言わないで」


 私が呆れると、恵介君が吹き出した。


「似てます」

「恵介君まで!?」


 リビングが笑いに包まれる。社長は、その空気を眺めながら静かに言った。


「僕は友人が少なくてね」


 一瞬、部屋が静かになる。でも、社長は重い空気にはしなかった。


「だから、明日は少し楽しみなんだ」


 穏やかな声だった。その言葉に、私は少し驚く。社長という立場の人は、もっと人付き合いが多いものだと思っていた。でも、考えてみれば、この人は“仕事の人間関係”ばかりの人生だったのかもしれない。静かで。責任が重くて。気軽に遊びへ行くことなんて、少なかったのだろう。


「……私もです」


 気づけば、自然にそう言っていた。社長がこちらを見る。


「こういうの、嫌いじゃないので」


 夜のドライブ。配信。人と集まって、くだらない話をすること。怖い場所へ行くのも含めて、“誰かと一緒に動く時間”は嫌いじゃない。すると、社長がふっと目を細めた。そして。


「恵介」

「はい?」

「よかったな」


 その声は、本当に優しかった。恵介君が少し目を丸くする。でも、次の瞬間には、照れくさそうに笑って頷いた。


「……うん」


 その顔が、少しだけ幼く見えた。私はそんな二人を見ながら、小さく息を吐く。明日は、みんなで心霊スポットへ行く。数年前の私なら意味が分からないと思ったかもしれない。それだけにぎやかだ。でも、こういう年末も、悪くないと思った。

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