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私はスマホを取り出した。ねえさんに連絡が必要だからだ。
「じゃあ、ねえさんに連絡するわ」
人数が増えること自体は、配信界隈では珍しくない。“誰かの友達が来た”くらいは日常だ。しかも、ねえさんは、そういうノリを嫌がるタイプではない。むしろ、「賑やかな方がいいじゃん」と笑う人だ。だから問題ないだろうと思った、その時だった。スマホが震える。
「あ」
画面を見る。ちょうど、ねえさんからだった。
「噂をすればね」
私は通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『紫乙ちゃん!?』
ねえさんの声が、妙に大きい。
「どうしたんですか?」
『ちょっと待って、聞いて!』
背景が騒がしい。たぶん外にいる。
『山、通行止めになった』
「……え?」
私は思わず聞き返した。
『落石』
キッチンが静まり返る。
『さっき配信者仲間から連絡きたんだけど、山道で落石あったみたいで。トンネルまでの道、今入れないって』
「うわ……」
私は思わず顔をしかめた。タイミングが悪すぎる。
「怪我人は?」
『今のところ聞いてない。でも、警察来てるっぽい』
私は思わずルークを見る。ルークは、コーヒーカップを持ったまま静かに笑っていた。
「……あなた、これ分かってた?」
「少しだけ」
やっぱりである。
「怖」
「なんですか?」
恵介君が不安そうに聞く。
「ルークが昨日、“雨っぽい”とか言ってたのよ」
「それだけじゃないよ」
ルークが平然と言った。
「山の空気、少し嫌だった」
私はもう突っ込むのをやめた。今さらである。
『え、なに?そっち今、誰がいるの?』
ねえさんの声が聞こえる。
「五十里社長の家にいるんです。恵介君もいるの。明日、二人も一緒にトンネルに行きたいって話をしてて」
『えっ!?』
電話越しに、明らかに空気が変わった。
『社長さんの家?五十里恵介君?』
「はい」
『やば。あのイケメン社長ね!テレビに出ていたのを見たのよねー。恵介君も可愛いし。来るのね!もちろん、オッケーよ!』
その反応に、私は思わず笑いそうになる。すると、ねえさんがすぐ気持ちを切り替えた。
『で、どうする?別の場所にする?』
「……横浜の公園のトンネルなら行けるかも」
私が言うと、恵介君が顔を上げた。
「あ」
「さっき話していた場所か?」
社長が聞く。
「そうです」
私は頷いた。
「公園の中にある通路っぽいトンネル。最近噂になってるらしいです」
『あー、あそこ!?』
ねえさんが反応する。
『配信でちょいちょい名前出てるやつ!』
「行けそうですか?」
『全然あり!むしろそっちの方が近い!』
話が早い。私は思わず苦笑した。
「じゃあ、変更しますか?」
『するする!』
即答だった。
『小牧君にも連絡しとく!昨日会ったとき、明日も一緒に行きたいって言っていたの』
「あの人、来る気満々でしたね」
『“電気復活したから無敵”とか言ってたし』
「意味が分からないですよね」
リビングが小さく笑いに包まれる。ねえさんは、そのまま勢いよく続けた。
『じゃあ明日、ホテルの下で待っているわ』
「了解です。迎えに行きます」
『あと、社長さんも来るの、ちょっと面白いね』
「私も今、そう思っています」
電話越しに笑い声が響く。通話を切ると、キッチンへ静けさが戻った。
「横浜の方へ変更になったわ」
私が言うと、恵介君がどこか安心したような顔をした。
「公園なら、少し安心ですね」
「山よりはね」
私は頷く。すると、社長が静かに立ち上がった。
「なら、車を出そう」
「え?」
私が目を丸くすると、社長は落ち着いた顔で続ける。
「人数が増えるなら、その方がいいだろう」
恵介君が、本当に驚いた顔をした。
「玲司さん、運転するの?」
「たまにはな」
その返事に、私は思わず笑ってしまう。なんだか、不思議だった。心霊スポット配信の予定だったはずなのに。気づけば、“保護者付き夜のドライブ”みたいな空気になっている。でも、それを嫌だとは、誰も思っていなかった。




