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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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7-4

 恵介君が、少し緊張した顔でその様子を見ている。


「……玲司さん」


 小さな声だった。社長は、静かに息を吐く。


「夜の山道だぞ。しかも、最近妙な噂が出ている場所なんだろう?」


 そこで、恵介君が慌てて言う。


「紫乙さん達が行くのは、車がよく通る場所なんだ」

「問題はそこじゃない」


 社長は穏やかに返した。


「お前は今、“もし何かあった時”に対応しきれない状態だ」


 恵介君が黙る。私はその言葉に、小さく息を呑んだ。優しい言い方だった。でも、現実的だった。


「人混みではない分、安全ではあるかもしれない」


 社長が続ける。


「だが、夜は判断力も落ちる。体調も崩しやすい」

「……はい」


 恵介君が俯く。その顔を見ていると、少し胸が痛んだ。すると、その時だった。


「じゃあ、短時間だけにしたらいい」


 ルークが軽い調子で言った。全員の視線が集まる。


「トンネルだけ見て、すぐ帰るようにすればいい」

「ルーク」

「車から降りなくてもいい」


 社長の視線を受けながらも、ルークは落ち着いていた。


「ずっと家にいる方が、息が詰まる時もあるだろう?」


 その言葉に、恵介君が小さく目を開く。社長は黙ったままだった。でも、否定もしない。私は鍋を弱火へ変えながら、そっと口を開く。


「……私も、少し分かります」


 社長がこちらを見る。


「外へ出る理由って、必要な時ありますよね」


 私は静かに続けた。


「怖くても、しんどくても、“行ってみたい”って思う瞬間」


 それは、配信でもそうだ。夜の街へ出る時も。人と会う時も。怖さが消えたから動けるわけじゃない。怖くても、動きたい時がある。恵介君は、黙ってこちらを見ていた。社長が、小さく息を吐く。そして。


「……条件がある」


 その言葉に、恵介君の顔が上がった。


「長時間はいないようにしろ」

「はい」

「配信へ映らない」

「はい」

「体調が悪くなったら、すぐ帰る」

「はい!」


 声が明るい。それだけで、どれだけ嬉しいか分かる。社長は少し困ったように笑った。


「まったく……」


 その顔は、怒っているというより、心配性の保護者そのものだった。私は思わず笑ってしまう。すると、ルークが満足そうに頷いた。


「決まりだね」

「あなた、最初からこうなると思ってたでしょ」

「少しだけ」


 絶対、少しじゃない。でも、その時だった。


「紫乙さん!」


 恵介君が、初めて年相応の明るい顔で笑った。


「僕、帽子買わないと」

「そこから?」

「変装大事ですよね?」

「まあ、うん……」


 私は苦笑する。その横で、社長が静かに額を押さえていた。たぶん今、“本当に行かせて大丈夫だろうか”と考えている。でも、そんなふうに悩みながらも、ちゃんと一歩を許してくれるのが、この人なのだろうと思った。

 

 恵介君の表情は、分かりやすいくらい明るくなっていた。


「帽子、黒の方がいいですかね。僕、白いニット帽子か持っていないんです。普段からかぶらなくて」

「そこまで本気で変装するの?」

「だって、記者に見つかったら困るじゃないですか」


 真面目な顔で言う。その様子が少し可笑しくて、私は思わず笑ってしまった。さっきまで俯いていたのに、今はもう外出の準備を考えている。やっぱり、行きたかったのだ。その時だった。


「なら、僕も行こう」


 静かな声が、リビングへ落ちた。一瞬、空気が止まる。


「……え?」


 最初に反応したのは、恵介君だった。社長は、落ち着いた表情のまま続ける。


「その方が安全だろう」


 まるで当然みたいな口調だった。


「夜の山道だ。人数は多い方がいい」

「玲司さんも来るの?」


 恵介君が目を丸くする。驚いているのが、見ていて分かる。たぶん、本当に予想していなかったのだ。


「駄目か?」


 社長が少しだけ首を傾げる。


「いや、そうじゃなくて……」


 恵介君が慌てる。


「一緒に来てくれると思ってなかったから」


 その言葉に、社長が少しだけ困ったように笑った。


「心配なんだよ」


 静かな声だった。


「せっかく外へ出るなら、安心して出したい」


 私は、その言葉に小さく頷いた。


「私も、その方がいいと思います」


 正直、本音だった。ルークがいるとはいえ、夜の山道はやっぱり不安がある。人数が増えるだけでも安心感は違う。


「ほら」


 ルークが、どこか満足そうに言った。


「保護者同伴だ」

「遠足じゃないんだから」


 私は呆れる。でも、恵介君は本当に嬉しそうだった。


「玲司さん、ありがとう」


 その顔を見ていると、社長が来ると言い出した理由も少し分かる気がした。ただ守るだけじゃなく、“安心して外へ出られる経験”を作りたいのかもしれない。

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