1-3 半分だけ叶う願い
店に入ると、ルークは迷いなく温かいお茶のコーナーへ向かった。私の分と、ルークの分。それから兄の分――のはずだったが、彼は棚の前で足を止めると、少し考えるように首を傾げた。
「僕はそれほど喉が渇いていない。君の分を少しもらえればいい」
「いいわよ。どうせお兄ちゃんの家でコーヒーが出るだろうし。一本だけで十分ね」
私は棚からペットボトルを一本取り上げる。
「高菜フーズのお茶にしましょう。お兄ちゃんの取引先だから」
「いいね。でも、それ以上に重要なのは……」
ルークは静かに言った。
「君と分け合う、ということだ。コンビニでお茶を買って、それを当たり前のように分け合う」
「……なんだか歌の歌詞みたいね。あったわよね、そういうの」
「今日はクリスマスイブだ。思い出せるだろう?」
「ある!」
ぱっと、頭の中にメロディが浮かぶ。こういうところが、ルークは妙に情緒的だ。感情の表現が豊かで、言葉選びも繊細で――言っていることはだいたい間違っていない。……あとは、お金さえ持っていれば完璧なのに。
そんなことを思った直後だった。ルークが、お茶を二本手に取って、レジへ向かっていく。――ああ、来たと思った。
「僕が払う」
「……嬉しいわ」
一応、言っておく。その次の瞬間、ルークは迷いなく私のバッグに手を入れて、財布を取り出した。そして、店員の前で、当然のようにそこから硬貨を出して支払った。――間違いなく、私のお金だ。
ルークは、私の願いを“半分だけ”叶えてくれる。言葉だけ切り取れば、確かに「彼が払っている」。レジの向こうで、店員がわずかに目を見開いた。男が堂々と「自分が払う」と言っているのに、取り出したのは“彼女の財布”なのだから無理もない。いつもの顔なじみの店員なら事情を知っているけれど、今日は違う。
「……まったく。笑えないわ」
「いいじゃないか。今夜はクリスマスイブだ。君の願いを叶えたかった」
「それ、今年の七夕でも聞いた気がするけど?」
私はじっと彼を見る。
「告白のとき、“苦労はさせない”って言ってたわよね」
「来年の七夕でも言うよ」
「それまで一緒にいられたら、ね」
軽口を交わしながら、店を出る。外気はさっきよりも冷えていて、吐く息が白く濃くなっていた。私は店先に置いていたスマートフォンを手に取る。配信はまだ続いている。
さて、と。このまま兄の家へ向かう。兄は、今日は留守だ。合鍵を使って中で待っていてほしいと連絡が来ている。オカルト研究部の飲み会に出ているらしく、まだ帰ってくる気配はない。しかも、今夜はホワイトクリスマスの予報だ。兄が、好きな相手と一緒なら、帰宅はきっと、真夜中を過ぎるだろう。それは、ユリウス・バーテルスさんだ。兄がずっと想い続けている相手だ。もしかしたら、このまま連れて帰ってくるかもしれない。そうなれば、私たちは完全に“お邪魔”だ。
だから本当は断ったのだけれど、「見せたいものがある」と言われてしまえば、無視はできなかった。こんな時間に外を歩けるのも、ルークがいるからだ。兄も、彼の事情は知っている。知っていて、なお呼んだのだから。きっと、“普通じゃない何か”が待っている。




