1-2 宇宙規模で金のない男
そんな私には今、付き合っている人がいる。――人間ではある。けれど、地球人ではない。ルークという男性だ。彼は、私が地球で生まれる前に所属していたという軍隊の知り合いで、恋仲だった相手らしい。私はこの星で生まれ直し、経験を積むために送り出された存在で、彼はそのあいだ、ずっと私を見守る“守護者”だったという。出身はアルタイル。七夕でいう彦星の星だ。軍もそこに所属していたらしい。
――と、ここまでが彼の話。正直なところ、全部本当かどうかは分からない。嘘をついている可能性も、普通にある。けれど、私が“事実”として知っていることもある。ルークは宇宙船で私の前に現れたこと。そして、水色の髪をその場で黒に変えたり、長髪を一瞬で短くしたりできること。それから今、私の家で半同棲していること。
現実は、だいぶ生活感がある。彼は一応、非常時用に地球の通貨が入った財布を持っているらしい。でも、付き合って半年、一度もそれを使っているところを見たことがない。一緒に買い物に行けば、支払いは私の財布から出る。理由は単純で、普段使いのお金を持っていないからだ。まさか、宇宙規模で金のない男と縁があるとは思わなかった。
ルークには、もうひとつ特異な能力がある。エーテル体――いわば幽霊のような状態になって、私の身体に入り込み、手足を動かすことができるのだ。地球のオカルト用語で言えば、“ウォークイン”に近いらしい。魂の入れ替わりとは少し違う気がするけれど、適当な言葉がないからそう呼んでいる、と彼は言っていた。
この能力、本人はけっこう便利だと思っているらしい。見かけは一人にしか見えないからと、以前、映画館デートのときに提案されたことがある。「君の中に入れば一人分の料金で済む」と。もちろん却下した。それは節約じゃなくて、ただのルール違反だ。
それ以来、私たちのデートは基本的に“お金のかからないもの”に落ち着いている。それでもカフェに入れば飲み物は二人分頼むし、会計は当然、私持ちだ。――地球人でも宇宙人でも、結局こうなるのかと、少しだけ遠い目になる。
そんなルークと今日は、兄の家へ向かっている。兄――月島凰李は一人暮らしで、家はここから歩いて数分の距離だ。その途中にあるコンビニの前で、ルークが足を止めた。
「紫乙。コンビニでお茶を買っていこう。凰李が好きなメーカーの新商品が出ている」
「そうね。じゃあ、みんな少し待っててね」
私はスマホに向かって軽く手を振る。
「コンビニの中は配信できないから、カメラ置いていくねー」
そう言って、配信を切らずにスマートフォンを店の前に置いた。店内での配信は禁止されている。違反すれば配信は止められるし、最悪、出入り禁止になる。そういうルールは、きちんと守る。――問題は、その“外側”で何が起きるか、だけだ。私はドアをくぐって、コンビニの中へ入った。




