表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/36

5-7

 その時、別のおすすめ欄が目に入った。よく見ている男性配信者の番組だ。サムネはその人の顔だった。真面目な顔をしている。


『許さない』


 タイトルだけで、空気が少し変わる。


「あー、始まった」


 ミナトさんが嫌そうな顔をした。


「浮気系?」

「っぽいね」


 ねえさんが配信詳細を開く。


「“今から浮気した彼女と話し合います”だって」

「うわー……」


 誰かが顔をしかめた。でも、同時に、何人かはスマホを開いている。結局みんな気になるのだ。別れるのか。許すのか。修羅場になるのか。配信界隈では、恋愛トラブルは数字が出る。特に“リアルタイム修羅場”は強い。


「視聴者が1万超えてる」

「強……」


 しかも。


「あ、もう便乗が始まってる」


 ねえさんが笑う。関連おすすめ欄には――。


『○○君を救いたい』

『浮気され男を応援する枠』

『恋愛相談凸待ち』


 そんなタイトルがずらりと並んでいた。


「早いのよ、界隈が」

「ハイエナすぎる」


 私は思わず苦笑する。するとルークが、静かにスマホ画面を眺めながら言った。


「人は“感情が揺れている場所”を見たがるんだよ」

「急に分析始めた」


 ねえさんが笑う。でも、少し分かる気がした。怒り。悲しみ。泣きそうな声。そういう“むき出しの感情”は、人を引き寄せる。配信というのは、結局そこなのかもしれない。


「でもさあ」


 ミナトさんがグラスを揺らしながら言った。


「別れる別れないって、みんな好きよね」

「数字出ますからね」

「昼ドラなのよ、結局」


 吉田さんがしみじみ頷く。


「人の恋愛って、他人事だと面白いの」

「悲しいわよね」

「だって本音でしょ?」


 店内が笑いに包まれる。その横で、ルークが静かに私を見る。


「紫乙」

「なに?」

「もし僕が浮気したら?」

「どこで?」


 私の問い返しに、ねえさんが吹き出した。私は真顔で続ける。


「配信で公開処刑されると思うわよ」

「怖いなあ」

「“宇宙人に浮気された女”ってタイトルで伸びるわよ」

「それは強い」


 周囲が大笑いする。ルークは困ったように笑った後、ふっと目を細めた。


「でも、君はそういう配信しないだろう?」

「……まあね」


 私は少しだけ肩をすくめた。怒ったとしても。泣いたとしても。たぶん私は、本当に苦しい時ほど、静かになる。それを配信へ乗せるタイプではない。そこまで強くない。ルークはそんな私を見ながら、小さく笑った。


「君は優しいから」

「違うわよ」

「じゃあ?」

「面倒くさいだけ」


 そう返すと、店の笑い声がまた広がった。その時、カラオケのイントロが再び流れ始める。


「次、誰ー?」

「ミナトさん!」

「逃げるな!」


 わっと盛り上がる店内。笑い声。酒の匂い。うどんの出汁。スマホ通知音。誰かの修羅場配信。全部が混ざり合いながら、年末の夜は、まだまだ終わりそうになかった。


 店の空気が、また少し変わり始めていた。配信者たちが本格的に配信を始める。リングライトが点灯し、スマホスタンドが並び、あちこちから「こんばんはー」という挨拶が聞こえ始めた。視聴者達への挨拶だ。


「じゃ、うちらも始めますか」


 ねえさんが、テーブルへスマホスタンドを置く。そして、配信アプリを立ち上げ、カメラを調整して、声を出した。


「こんばんはー!新宿二丁目アンダーウェアからお送りしております!」


 途端に、いつもの“配信モード”へ切り替わる。声のトーンが少し上がり、表情も明るくなる。けれど、不自然さはない。その切り替えの上手さが、ねえさんの強みだった。


「今日は誕生日会でーす!」


 コメント欄が一気に流れる。


『おめでとう!』

『店の雰囲気いい!』

『うどん食べたい』

『後ろイケメンいる』

「あ、後ろのイケメンは見ないでください」


 ねえさんが即座に言う。


「今日、空気を持ってった男なので」

「言い方」


 私は笑ってしまった。コメント欄には、すぐに“歌ってた人?”という反応が増え始める。


「そうそう。さっき昭和ラブソングで店を壊しかけた人」


 ねえさんが適当に説明すると、周囲が笑った。その時だった。


「あっ」


 ねえさんがスマホ画面を見て、声を上げる。


「小牧君からコラボ申請きた」


 店内の配信者たちが、一斉に反応した。


「早い!」

「電気復旧した?」

「生きてた?」


 ねえさんは笑いながら通話ボタンを押した。数秒後、画面に小牧君が映る。


『もしもーし!』


 かなり騒がしい。外にいるらしく、後ろでは車の音がしていた。


「小牧君、生きてた?」

『いや、マジ焦った!』


 小牧君が大声で言う。


『家帰ったら真っ暗でさ!』

「だから電気代払いなさいって」

『払ったよ今!コンビニで!』


 コメント欄が爆速で流れる。


『また止められてるw』

『年末恒例』

『芸人すぎる』

「ほんとお騒がせなんだから」


 ねえさんが呆れながら笑う。


『いや違うんだって!大阪いたからタイミング悪くて!』

「毎回言ってない?」

『今回はガチ!』


 店内が笑いに包まれる。小牧君は33歳とは思えないくらい騒がしかった。悪い人ではないのだろうけれど、“放っておくと生活が崩壊するタイプ”の人間だというのは、画面越しでもよく分かる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ