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アンダーウェアは、ゲイバーでありながら、配信ができる店としても知られている。ただし、それは日曜日と月曜日だけの特別な営業だ。火曜日から土曜日までは、通常のゲイバー。配信は禁止されている。日曜と月曜になると、吉田さんがアキラママとして店長として立ち、配信の許可が出るのだ。店内では、カラオケをしたり、飲んだり食べたり――その様子をそのまま配信できる。吉田さん自身も配信者で、この空間を“見せる場所”として成立させている。そんな場所に行くのに、予算のことを細かく気にするのは、少し気が引ける。ちゃんと貯金しているからこそ、楽しめるイベントだ。それなのに。
(ルークが余計なものを買うから……)
私は小さくため息をついた。とはいえ、その分、食費や日用品を調整して、月の支出はなんとか抑えている。やりくりには、だいぶ慣れてきた。
「オリジナルシャンパンを入れたいのよ。ねえさんのバースデー用に」
そう言うと、ルークは肩をすくめた。
「飲み放題にうどん食べ放題で、朝までいても三千円。安すぎるだろう。漫画喫茶より安いじゃないか」
「そうなのよ。だから、遠方から来た配信者は、吉田さんの店で一夜を明かすの」
私は笑いながら続ける。
「うどんが美味しいのよ」
アンダーウェアでは、うどんが振る舞われる。吉田さんが出汁を取り、スープを仕込んでおく。注文が入ると、スタッフのゆうきさんがキシヤマ製麺の茹でうどんを温め、そこにスープをかけるだけ。それなのに、妙に美味しい。味のバリエーションも豊富で、基本は醤油ベースの肉うどん。この前の配信では、味噌仕立てのものも紹介されていた。
(お兄ちゃん、食べたがってたわね……)
今度誘おうかと、ふと思う。
「ルーク、もう行くわよ。テディーベアだけ買って帰るから」
「他にも買うよ。コーヒーはあって困らない」
「飲みすぎなのよ」
ぴしゃりと言うと、ルークは軽く笑った。
「ユリウス君のワインほどじゃないだろう。彼は禁酒する羽目になった」
「それはそうだけど……」
少しだけ言葉に詰まる。
「吉田さんへの差し入れ、コーヒーでもいいかもね」
「彼には、いい男を連れて行くのが一番の差し入れじゃないか?」
さらっと言う。
「僕が行くから、それで十分だろう」
「……そういうとこよね」
思わず呆れる。
「じゃあ差し入れなし?」
「ケチは君の方だろう」
「どっちがよ。あなたが買いすぎるからでしょ」
私は指折り数えるように言う。
「豆腐だって、46円のでいいのに、434円のやつ買うし。10倍よ?」
「あれは高菜フーズの商品だ。凰李が商談のネタにできる」
「だからって私が食べる理由にならないでしょ」
さらに思い出して、ため息をつく。
「それに、“ゆず兄ちゃん”の人形。16000円って何よ」
「あれは配信のネタだ。伊吹君も欲しがっていた」
「だからって買わないわよ」
私は即答した。
「それなのに、シャンパンは渋るのよね。12000円よ?そこまで高くないのに」
「吉田君が、僕にいやらしい目を向けるからだ」
「いい人じゃない」
思わず笑ってしまう。
「コラボにも出てくれるし、お世話になっているのよ。会ったこともない社長の人形より、ずっといいわ」
「……それは、まあ」
ルークは珍しく言葉を濁した。伊吹君は、兄の友人の一人だ。26歳で会社を経営している若い社長。電子書籍コンテンツ制作の会社で、キシヤマ味噌がスポンサーについているロックバンド――ディスレクトサイドゼロとも関わりがある。そのボーカル、夏樹君の兄でもある人物だ。さらにそのスポンサーには、黒崎製菓も関わっている。夏樹君はその創業家の養子であり、副社長・黒崎圭一さんのパートナーでもある。そして、一貴さんは、圭一さんの異母兄だ。人間関係が、少し複雑だ。でも、不思議とどこかで繋がっている。そういう世界の中に、自分もいるのだと、改めて感じる。




