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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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4-5

 玄関を抜け、リビングへ通される。床は静かに光を反射するフローリングで、無駄のない家具が整然と配置されていた。広いのに、生活の気配は最小限に抑えられている。きれいすぎる。そんな印象だった。社長はルークに目を向け、やわらかく微笑んだ。


「ルーク君もすまない。久しぶりだな」

「はい。お久しぶりです」


 ルークが軽く頷き、買い物袋を持ち上げる。すると、恵介君がすっと立ち上がり、自然な動きでそれを受け取ろうとした。その瞬間、二人の視線が交わる。わずかな間を置いて、空気が整うように自己紹介が始まった。私はバッグから名刺を取り出し、ルークの隣に並ぶ。


「初めまして。五十里恵介です」

「ルーク・ヴェイルです」

「日本語がお上手なんですね」

「以前、アメリカで日本人の知人が多かったもので」

「永山です。本日はよろしくお願いいたします」


 私が名刺を差し出すと、恵介は一瞬、ためらうような表情を見せた。申し訳なさと、遠慮が入り混じった顔だった。気にしているのだろう。社長が昨日言っていた。秘書にまで負担をかけてしまっていることを、相当気にしていると。けれど、これは助け合いだ。巻き込まれたのは、彼の方だ。半年前に別れた相手の問題で、ここまで追い込まれるなんて。理不尽以外の何ものでもない。私は気持ちを切り替え、静かに言った。


「こちらに置かせていただいてもよろしいですか?」


 買い物袋を持ち上げながら社長に尋ねる。


「ああ、そこに置いてくれ」

「失礼いたします」


 キッチンカウンターに袋をそっと置く。


「思ったより多くなってしまいましたが……」

「問題ない。助かる」


 短く、はっきりとした返事だった。社長は腕時計に目を落とす。


「すまないが、私はこれから出る。昼過ぎには戻る予定だ」

「承知いたしました」

「恵介のこと、頼めるか」

「お任せください」

「では、頼んだ」


 それだけ言って、社長は部屋を後にした。ドアが閉まる音が、やけに小さく響く。残されたのは、私とルークと恵介君だ。しばらく、言葉のない時間が流れた。


「……あの」


 先に口を開いたのは、恵介君だった。


「すみません。本当に」


 小さく頭を下げる。


「このような状況で」

「お気になさらないでください」


 私はやわらかく微笑む。


「こういうときのために、私たちがいますので」


 その言葉に、彼の表情がほんの少しだけ緩んだ。


「……ありがとうございます」

「まずは、食材を整理いたしますね」


 私はエプロンを借りて、キッチンへ向かう。冷蔵庫を開けると、やはり中は最低限のものしか入っていなかった。


「……あまり召し上がっていらっしゃらないんですね」


 思わず口にすると、


「……はい」


 背後から、素直な返事が返ってくる。振り返ると、恵介君が少し気まずそうに立っていた。


「食事が苦手でして」

「そうなんですね」

「食べると……、体型に影響が出るので」


 まっすぐな目だった。事情は分かる。でも、それだけでは済まない問題でもある。


「それでも、ある程度は召し上がった方がよろしいですよ」


 言葉を選びながら、やわらかく伝える。


「今は外出も難しい状況ですし、体力を落とさないことが大切です」


 恵介君は少しだけ視線を落とした。


「……分かっています」

「無理のない範囲で大丈夫ですので」


 私は軽く微笑む。


「消化に優しいものをお作りしますね」


 そのときだった。


「楽しみだね」


 横からルークが口を挟む。恵介君がわずかに驚いたように目を見開いた。


「あの……」


 少し迷うようにしてから、言葉を続ける。


「実は、拝見しました。配信」

「え?」


 思わず手が止まる。


「玲司さんから話を聞いて興味を持って……、開いたら、ちょうどあの光の場面で」

「……ああ」

「正直、驚きました。あれが……、現実なのかと」


 恵介君はルークの方をちらりと見た。


「一度、お会いしてみたいと思っていました」


 その言葉に、ルークはいつものように微笑む。


「会えてよかったよ」


 空気が、ほんの少しだけやわらいだ。私は包丁を手に取りながら、静かに思う。ここからだ。この部屋に、少しずつ“日常”を戻していく。そのために、私は来たのだから。

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