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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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15-2

 私は枕元に置いてあったスマートフォンへ手を伸ばし、ろろっちを開いた。昨日から一度も配信をしていないこともあり、タイムラインには私を心配する投稿が数多く並んでいる。その発端は小牧君だった。私が予定どおり配信を始めなかったことで、何かあったんじゃないかと自身の生配信で話題にしたらしい。その話は他の配信者にも広がり、配信者同士で心配する声が次々と上がっていた。そして、配信中にルークから連絡を受け、私が入院していることを知った小牧君は、「今から見舞いに行く」と視聴者へ宣言したのだという。


 もちろん、病院の敷地内は撮影も配信も禁止されている。そのため、小牧君は病院へ向かう道中だけ配信を続けていた。いわゆる車載配信だ。車のフロントガラス付近にスマートフォンを固定し、運転しながら視聴者と会話を続けている。しかし、病院の場所が特定されることを避けるため、目的地が近づくにつれて映像には全面的にモザイクがかけられた。画面いっぱいにぼかしが入り、視聴者に届くのは小牧君の声だけになる。やがて車が病院の敷地へ入る直前で停車した。


『みんな、着いたよ!ここで配信は終わりにするね。これから紫乙さんのお見舞いに行ってくる!』


 少し間を置いて、小牧君はカメラへ向かって笑った。


『紫乙さん、今、この配信を見てるかな?すぐに顔を見に行くから!』


 私は思わず笑みを浮かべ、自分のアカウントからコメントを送った。


『見てるよ。ありがとう』


 その瞬間、コメント欄が勢いよく流れ始める。


『オツさんだ!本当にいた!』

『大丈夫だった!?』

『無理しないでね』

『元気になるまで待ってるよ!』

『また配信で笑わせてね』


 どのコメントにも、優しさがあふれていた。画面越しなのに、その温かさが胸へじんわりと伝わってくる。思わず目頭が熱くなった、その時だった。通知がもう一件届く。スタイリッシュねえさんが配信を始めたのだ。配信を開くと、ねえさんは私の体調を気遣いながら、視聴者へ穏やかに話していた。


『明日、私もお見舞いに行ってくるよ。直接、大丈夫だよって伝えたいからね』


 その言葉に、コメント欄は応援のメッセージで埋め尽くされていく。私は画面を見つめながら、小さく息をついた。ねえさんは九州に住んでいるから、ここまで来るだけでも何時間もかかるはずだ。そこまでして駆けつけてくれることが、ありがたくて、そして申し訳なくも思えた。私はスマートフォンを胸に抱き寄せ、小さくつぶやく。みんな、本当にありがとうと。


 そして、10分ほど経った頃だった。病室のドアが静かにノックされる。


「失礼します」


 聞き慣れた声とともに、小牧君が姿を現した。


「小牧君」

「紫乙さん!」


 私の顔を見るなり、小牧君はほっとしたように笑った。


「良かった。本当に良かったよ」


 その一言に、どれほど心配してくれていたのかが伝わってくる。小牧君は両手いっぱいに荷物を抱えていた。片方には紙袋、もう片方には大きなフラワーアレンジメント。


「はい、これ」


 そう言って最初に差し出してくれたのは、私の大好きな、たまご煎餅だった。


「えっ、たまご煎餅?」

「そう。紫乙さん、好きだって、前に配信で話していただろ?」


 私は思わず笑ってしまう。


「覚えててくれたんだ」

「もちろん。病院だから、あまり重たいものも持ってこられないし、お菓子なら退院してからでも食べられるかなって思って」

「ありがとう」


 私は紙袋を大事に受け取った。続いて、小牧君はフラワーアレンジメントをサイドテーブルへ置く。白いユリや淡いピンクのガーベラ、黄色いバラ、薄紫のリンドウが優しくまとまり、病室をぱっと明るくしてくれた。


「すごくきれい……」

「実は花は詳しくなくてさ」


 小牧君は少し照れくさそうに頭をかく。


「花屋の店員さんに事情を話したんだ。『入院している人のお見舞いです』って。そしたら、『元気が出るようなお花を選びますね』って作ってくれた」


 私は花を見つめながら、小さく頷いた。


「すごく嬉しい」

「そう言ってもらえて良かった」


 病室には、ふんわりと花の香りが広がっていく。それだけで、少し気持ちが軽くなった気がした。小牧君は椅子へ腰掛けると、スマートフォンを取り出した。


「そうだ。配信界隈、今すごいことになってるよ」

「え?」

「紫乙さんの入院を取り上げる配信者がかなり増えてる。『早く元気になってほしい』とか、『無理しすぎたんじゃないか』って、みんな話してる」

「そんなに……」

「うん。もちろん、病院名とか詳しいことは誰も言ってない。そこはみんな気を付けてくれてる」


 私は胸をなで下ろした。配信者同士で守ってくれていることがありがたかった。


「それだけじゃないんだ」


 小牧君はニュースアプリを開き、私へ画面を見せる。


「高知の空に浮かんだ飛行物体の話、結構大きく取り上げられてる」


 私は画面へ視線を向けた。記事には、よさこい祭り期間中に複数の目撃情報が寄せられたことや、専門家でも正体が分かっていないことが書かれている。さらに小牧君は別の記事を開いた。


「それでね、昨夜は東京の空でも発光現象が目撃されたって、ネットニュースになってる」

「東京でも……?」

「写真も何枚か投稿されてる。まだ真偽は分からないけど、結構話題になってるみたい」


 私は静かに画面を見つめた。昨夜、私がアルタイルにいた時間と重なっている。胸の奥が小さくざわついた。その時だった。ふと、小牧君の足元へ視線が吸い寄せられる。そこには、小さな狐がちょこんと座っていた。金色がかった柔らかな毛並み。優しく細められた瞳。間違いない。


「玉姫……」


 声には出さず、心の中だけで名前を呼ぶ。玉姫はエネルギー体の姿のまま、小牧君の足元へ寄り添い、私を見上げていた。どうやら、小牧君について来てくれたらしい。私と目が合うと、玉姫は嬉しそうに尻尾を一度だけ揺らした。その姿を見て、自然と笑みがこぼれる。


(ありがとう。来てくれたんだね)


 心の中でそっとお礼を伝えると、玉姫は満足そうに目を細め、静かに私を見守り続けていた。

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